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公的債務は「手品」で減らせ?!ポピュリズム政策でタイの財政赤字が急増(ucci-h)

2012年01月22日

■タイの財政悪化を小さく見せたいタイ貢献党政府と財務省■

*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2012年1月21日付記事を許可を得て転載したものです。 

Thailand Bangkok II 42
Thailand Bangkok II 42 / Nitram75


■黄信号になりそうなタイの国家財政

先日、タイの国家財政が青信号から黄信号に変わりそうだとお伝えした。対GDP(10兆5680億バーツ、25兆8000億円)比の財政赤字は、2011年度の3.3%から、2012年度は3.5%にまで上昇しそうだ(経済成長率を名目7%成長と想定)。

公的債務残高のGDP比も、2011年10月現在の41%(4兆3400億バーツ、10兆6000億円)から2年以内に47%(5兆3900億バーツ、13兆2000億円。2013年度のGDPを12兆バーツと想定)まで上昇すると予想されている。
(関連記事:「青信号から黄信号に変わったタイの財政事情」チェンマイUpdate、2012年1月18日)


■公的債務を少なく見せる手品
 
いくらポピュリスト政権のタイ貢献党政府といえども、財政の悪化はいやだ。そこで、政治家や役人は、どこの国でもそうだろうが、数字を小さく見せる工面をする。

公的債務を少なくする手品だが、中央銀行に移管したFIDF(バーツ危機時の金融機関援助債務)の1兆1400億バーツ (約2兆7900億円)を国の債務から切り離すのではないか。そうすると公的債務の対GDP比は現在の41%から30%にまで下がるという。いちおう60%未満が財務省の目標だから余裕が出来ることになる。しかし、国の債務ではないことにしても、公的債務であることに変わりはないはずだが……。

また大手国有企業「PTT」(タイ石油公社)と「タイ航空」(いずれも政府が51%所有)の株式を2%分売却することも検討されている。株式保有比率が51%以上だと政府(財務省)の国有企業扱いとなるが、49%となれば民間企業扱いとなる。

すると、PTTの7562億バーツ(約1兆8500億円)、タイ航空の2046億バーツ(約5000億円)、計9608億バーツ(約2兆3500億円)が国の公的債務から外せるという。
(あれ?PTTとタイ航空は計6908億バーツ(約1兆6900億円)の自己資本を持つが、民間企業扱いにするとその分、政府の資産が減るのでは?債務だけを差し引くのかな?2社の債務だけならGDPの9%に当たる)。


■政府系投資ファンドという隠れみの
 
もっとも、タイ航空が発表している最新(2010年10月現在)の大株主のリストを見ると、財務省が51.03%だが、国有銀行であるGSB(政府貯蓄銀行)が2.42%、さらに政府系の投資ファンドである「ワユパック・ファンド」が16.32%保有している。

PTTも、2011年9月9日現在、財務省が51.145%、ワユパック・ファンドが15.268%を保有している。ワユパックは2003年にタクシン政権下で1000億バーツ(約2440億円)の資金を投じて設立されたファンド。民営化に向けて国有企業株をプールする役割を担う。2%を売却するといっても民間へ売るのではなくて、ワユパック・ファンドが買うのだ。どれだけいい加減なスキームか分かるというものだ。

財務省傘下の「PDMO」(公的債務管理局)は、公的債務の対GDP比率は47%を超えないだろうと主張している。1997年のバーツ危機の後できたチュアン政権は散在していた公的債務を集中管理しようと、このPDMOを作ったのだが、今度のタイ貢献党政権は再びばらばらにすることで、把握しづらくしようとしているようだ。

PDMOの47%説を採用するならば、2013年度の公的債務は5兆5000億バーツ(約13兆4000億円)ほどに留まることになる。それでも2011年度末から1兆1500億バーツ(約2兆8100億円)ほどの増加となるが。


■2012年の財政支出

2012年の財政支出を考えよう。通常の財政赤字は4000億バーツ(約9770億円)。これに長期洪水対策として3500億バーツ(約8550億円)、自然災害保険基金設立に500億バーツ(約1220億円)が加わる。ただし2年に分けての支出だ。

つまり2012年、2013年は毎年6000億バーツ(約1兆4700億円)ずつ歳出超過となる。景気回復に伴う歳入増で赤字は減る可能性もあるが、減税と補助金のタイ貢献党政権である。

12年度のGDPを11兆3000億バーツ’約27兆6000億円)、13年度のそれを12兆バーツ(約29兆3000億円)と見積もれば、財政赤字のGDP比は5.3%、5.0%と5%台に乗りそうである。上述PDMOの予測どおり、公的債務残高はこの間に増えるはずだ。

実際には予測以上に増加することになるだろう。政府は半官半民で総額2兆2700億バーツ(約5兆5500億円)にのぼる大型インフラ投資を計画中だ(政府負担は1兆2700億バーツ、3兆1000億円)。これが決まれば、公的債務はさらにGDP比10%ほど増加する。

タイ貢献党政権は、財政状態の数字が悪化しそうだから少し手綱を引き締めるだろうか?いや、いろいろ見ると、いろいろ工面できる余地があるので、さらなる積極財政を進めるか?どうやら、後者の方のようだ。今年度、来年度の動きが、それを見せることになるだろう。

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*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2012年1月21日付記事を許可を得て転載したものです。     

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