中国最大の国際的タブロイド紙「環球時報」とそのサイト「環球網」だが、見事なまでに読者コミュニティを作り出すことに成功している。いけいけどんどんの中国メディアもネットでの利益モデル構築には苦労しているが、環球網は異色路線での「成功」を遂げているようだ。
Guangzhou Streetside / Quinten Yearsley
■環球網の適当ネットアンケート
本サイト寄稿者の一人、ブログ「政治学に関係するものらしきもの」を運営する凜さんは、環球時報を中心に中国ウォッチを続けている。先日は環球網の大型企画「中国人の世界観」について紹介してくれた。
(関連記事:日本人は「変態」、米国人は「傲慢」、インド人は「尊大」=中国ネット民の海外イメージ(凜))
環球網はたびたびネットアンケートを実施して「中国ネット民の考え」を世界に発信してくれるのだが、設問及び選択式回答があまりにも偏りすぎていて、アンケートをしなくても結果は見え見えということが多い。今回の「中国人の世界観」もそうだ。日本イメージとして「反中国、変態、軍国主義」が上位となったが、では他の選択肢はというと、
イノベーション、先進、民主、自由、環境保護、節約、勤勉、忍、変態、虚偽、衰退、大酒飲み、自殺、柔道、茶道、男尊女卑、武士道、アニメ・マンガ、インスタントラーメン、AV、サッカー、ドラマ、相撲、芸者、自動車、家電、新幹線、富士山、天災、日本料理、桜、野球、和服、軍国主義、天皇、靖国神社、首相の頻繁な交代、反中、上記選択肢は全部異なる、その他
となっている。マイナスイメージばかりが並べられているわけではないが、これが「デフォルトの回答項目?」と不思議に思うものも少なくない。
■人民日報社系タブロイド紙・環球時報の躍進
なので、個人的には「中国人の世界観」アンケートの結果にはたいして興味が持てなかったのだが、興味深く感じたのは総投票数が30万票を超えたこと。もちろん複数回投票している人もいるだろうから、30万票=30万人とは言えないのだが、中国ニュースサイトの投票としては異例の多さだろう。
というのも中国ネット民はあまりニュースサイトを見ない。新浪網や網易、捜狐、騰訊などのポータルサイト経由でネットニュースを見たり、ネット掲示板に転載されたニュースを読むほうが多い。日本でもヤフーニュースや2chでニュースを知る人が多いのと同じかもしれない。
というわけで、南方週末など紙媒体では人気のメディアも、ニュースサイトとしてはなかなかアクセスを集められずに苦しんでいる。
その中で環球網は大健闘している。インターネット調査企業Alexaの統計で見ると、環球網のアクセス数はCNドメインの60位。中国を代表する人気新聞・南方週末は1069位。国営通信社・新華網は3664位と圧倒的な差だ。紙版の環球時報(月~土発行)も発行部数は200万部で中国一。
人民日報社が運営する環球時報は1993年に創設、2006年に日刊に移行。環球網は2007年に創設とまだ新しいメディアと言える。なぜこの新興メディアがこれほどの地位を築いたのか。人民日報社が運営しているから、過激な論調が民族主義の台頭とマッチしたから、と分析したくなるが、個人的にはそれ以外の要因が強いのではないかと考えている。
■大手資本による2chまとめサイト=環球網
環球時報、環球網の面白さはその「ナンデモアリ」精神だろう。基本的には世界各地のニュースを翻訳、紹介するのが売りなのだが、プロパガンダ社説から意味不明なコラム、中国と世界の三面記事、ネット民の話題などなど盛りだくさんだ。
特にウェブ版の環球網になると、「10大女優のベッド写真」「日本女体盛りの真実」といったアクセス狙いの写真まとめもばんばん掲載している。ウェブニュースでアクセス狙いのいい加減記事を掲載しまくっているのは環球網だけではないが、大手メディアでこれほど大々的にやっているのはなかなかにすがすがしい。
興味をそそられるネタに引きつけられてきたネット民たちが集まり、併設されているネット掲示板・環球論壇も活発だし、各記事のコメント書き込みも多い。サイトのコミュニティ作りに成功した希有な例ではないか。
日本では「2chまとめサイト」というジャンルが確立した感があるが、中国ではウェブメディアがその役割を果たしている。引きのあるニュース、写真、動画をまとめてコミュニティに提供するというものだが、環球網は大資本を背景にしつつ、もっとも「俗」なジャンルにも突撃することで、もっとも成功した「中国式2chまとめサイト」となった。
かくして環球網のトップページは大変なカオスとなっている。上のほうには「温家宝が貧民を訪問」「社会主義建設に邁進せよ」といういかにも人民日報系のタイトルがあるが、下にスクロールしていくと「ロシア美女が結婚したいのは中国人」といった見出しがでてくる。これが1枚のページに治まっているのが環球網の面白さだろう。
版権の問題やいい加減すぎる記事の法的責任など、今後、中国社会が変わっていけば、環球時報のカオス紙面作りも続かないのではと思うが、ともあれ21世紀初頭における中国メディア、ウェブメディアの混乱を象徴するような新聞として興味深い存在だ。
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