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「香港人は犬畜生」天安門事件参加者から北京大学教授になった男の「暴言」―中国

2012年01月23日

最近、香港の反中感情の高まりに関するニュースが複数伝えられているが、新たな燃料が投下された。ネット動画を発端に、北京大学の名物教授があおり立てた「香港・大陸罵倒合戦」である。


China - Hong Kong (香港)
China - Hong Kong (香港) / eviltomthai

■香港人の反中感情

最近、香港の反中感情の高まりが注目を集めている。香港大学によるアイデンティティーを問う調査で、「香港人」「中国の香港人」との回答が計62.9%に達した。一方、「中国人」「香港の中国人」との回答は37.7%にとどまった。2008年6月をピークに自分を「中国人」と見なす比率は減少に転じている。
(関連リンク:「香港で下がる「中国人意識」 」日本経済新聞、2012年1月11日) 

また、子どもに香港籍を与えようと「越境出産」する中国本土妊婦が急増し香港産婦人科病院がパンク状態となり香港人の出産予約がままならないことが政治・社会問題になったこと。香港・広東道のブランドショップ・ドルチェ&ガッバーナが中国本土富裕層のプライバシーに配慮して「街路から店頭を撮影する行為を禁止」したことに香港ネット民が怒り、数千人が集まり撮影会を開くフラッシュモブもあった。
(関連リンク:「ドルチェ&ガッバーナ、撮影禁止で香港市民に謝罪」アサヒドットコム、2012年1月19日)

こうした一連の騒ぎの最新作として、地下鉄での罵倒合戦が起きた。


■罵倒合戦

発端となったのは香港地下鉄で撮影された動画だ。車内で子どもにお菓子を食べさせていた中国本土の女性に対して、付近にいた香港人が注意したというもの。香港では地下鉄内での飲食は禁止。違反者は罰金を払わなければならない。

注意された女性も激しく反論。最終的に香港人が駅職員まで呼び出す騒ぎとなった。駅職員の説明で女性も一応は納得したが、香港人はその後も女性を揶揄するような広東語で連発。罵倒合戦が続いた。



この動画がネットで公開され、ちょっとした騒ぎに。「ルールを守らなかった中国本土人が悪い」「中国本土の民度は低い」という意見もあれば、烈火の如くキレまくっている香港人に対する違和感を表明する人もいたようだ。


■孔慶東の燃料投下

これだけの話をさらに炎上させたのが、自称・孔子の73代目の子孫にして、北京大学の名物教授、孔慶東。「北大酔侠」と呼ばれる同氏は過激な発言が売りだが、今回もまた飛ばしまくっている。ネット動画ニュースサイト・第一視頻新聞網の番組「孔和尚有話説」(孔教授の冠番組!)での発言だ。

この問題を伝えるニュース報道を見た後、孔教授は吠えた(動画及び中国語書き起こし)。

二種類の言葉が出現している。司会者が言ったこの点は重要だ。二種類の言葉とは、標準語(普通話)と方言だ。標準語を話す人間には義務がない。他の方言を話す義務はないのだ。中国人には標準語を話す義務がある。だが、東北語、四川語、北京語、天津語を話す義務はない。きっと育った地域の方言は使えるでしょう。それは故郷の母語だからだ。だが、別の地方の方言を覚える義務はない。しかし、すべての人々は標準語を覚える義務がある。

あなたが誰かと出会った時、そいつのクソッタレな方言があなたの言葉と違ったらどうします?標準語で話すべきだろう。もしわざと標準語を話さないとしたらどんな人間です?クソッタレです。必ずやなにかよからぬことを考えているに違いない。

もし香港人に「あなたは中国人ですか?」と聞いたらどういうことになるだろう?多くの香港人が自分が香港人ではなく、中国人だと考えていると知っています。口を開けば、俺たちは香港、おまえたちは中国だ、と。これこそクソッタレ野郎だ。こいつらは英国の植民地の走狗であることに慣れきった奴らだ。いまだに犬畜生だ。あいつらは人間じゃない。香港にもいい人はたくさんいると知っている。だが、多くはいまだに犬畜生なのだ。

もし同じようなことが香港人に起きたらどうなるでしょう?異なる結果となったはずだ。これこそ魯迅先生が批判した西洋かぶれです。魯迅先生は当時、上海に多くの西洋かぶれがいると言いました。田舎者いじめ専門の輩がね。街にやってきた田舎者がルールを知らないと見るや、例えば信号やゴミをポイ捨てしてはいけないといった類のね、すぐに罰金をとる。この(西洋かぶれの)輩こそ帝国主義の前にあっては犬であり、中国人の前では狼だったのだ。なので、(動画にでてくる)こういう輩は植民地後遺症でしょう。

私は何度も香港に行きました。だから香港にいいところがあるのも知ってます。法制とかね。だが、法制は英国人が残したもんだ。当時、英国人は香港の犬畜生どもをどう扱ったか。言うことを聞かなかったら鞭打ったんだ。殴り続けて従順にさせたんだ。一般人の言葉、北京人の言葉でいえば、あいつらまだ殴られ足りないんだ!

我々の香港は復帰しました。しかし、人心はまだ復帰していません。植民地主義者が残した犬畜生どもが大勢います。あいつらは植民地主義者の前では犬となり、しかし中国本土同胞の前では自分を狼だと思っている。こうした心理は当時、日本鬼子に加わった高麗兵(朝鮮兵)、台湾兵と一緒だ。我々(中国人)はあいつらを「二鬼子」(傀儡軍)と呼んでいる。香港にはいまだに多くの「二鬼子」がいる。さっきの(動画の)男、人に見えますか。やつが話す広東語は聞き取れなかった。ただ、地下鉄でたんに子どもにお菓子をあげていただけじゃないか。「そんなことしちゃだめだよ。ルールなんだ。ダメだよ。」こう言うのが正しいはずだ。あの(中国本土の)母親は言った。「私たちは知らないよ。今、食べなきゃいいのかい」、と。それでも延々と罵倒は続いた。しかもよってたかって、だ。

香港人よ、おまえらは香港人にこんなふうに対応するのか。米国人に、日本人に対応するのか。日本や中国のパパにそう対応するのか?私はそんな光景を見たことがない。香港人の民度が高いって?香港は中国の中でも民度が低いところだと私は思う。何度も香港に行ったが、多くの香港人には人情味がない。悪事の限りを尽くすやつらだ。香港のガイド、香港の店員、人情味のあるやつがどれだけいる?何の資格があって本土人の前で偉そうにいうのか?もう一度言う、香港人の多くは犬畜生だと!


この後、ネット民からの質問に応えるコーナーが続くのだが、その中で一つ面白い応答があるのでこれもご紹介したい。

司会者:香港は中国本土よりきれいだって言いますけど?

孔:それは本当のこと。なぜきれいなのか?法制があるからだ。民度が高いからではない、法制のためだ。シンガポール同様、タバコを吸えば罰金5000元のような。法制で秩序を守っているのだ。すなわち、それこそ香港人の民度の低さ、自覚のなさを物語っている。殴られなければちゃんと仕事をしない。まさに浅ましい!殴られ足りないのだ!


■「香港人は犬畜生」発言が話題に

この「香港人は犬畜生」発言は大きな波紋を呼び、中国本土、台湾のメディア、ネット民の議論の的となっている。こんな品のないことを言うやつは北京大学教授を解任しろといったコラムまでメディアを飾っている。まあ、これだけ汚い言葉をちりばめれば、むべなるかなといったところではあるが。

ちなみに孔教授は第一視頻でこの問題について反論していて、「おれは香港人は犬畜生なんて言っていない。標準語を話せるのに、相手が聞き取れない方言で話す輩は犬畜生だと批判した」と応答している。まあ、よく読めばそういう論理なのだが、その後ろで「香港人の多くは犬畜生」を連呼しているので、あまり説得力はないが……。


■天安門事件参加者から「タレント学者」へ

さて、ここまで長々と紹介してきたが、その理由は二つ。第一に孔慶東発言について日本メディアはおろか、中国メディアも含めて、「香港人は犬畜生」の部分だけ取り上げて報じており、このネタの全体像を取り上げようという動きがほとんどなかったためだ。まあ、孔教授の真意がなんであろうとも、もはや大勢は決まっており、同発言は香港人が中国人への反発を強める一契機として記憶されることになるだろうが。

もう一つの理由は、タレント研究者としての孔教授の「反射神経」のすごさを紹介したかったため。「地下鉄内で子どもにお菓子を食べさせたことが発端の口ゲンカ」というだけの話をさらりと、「西洋かぶれby魯迅」という魯迅という自分のフィールドに連結させる頭の回転の速さはまさに見事としか言いようがない。質問に応えての「香港の法治は民度の低さを示している」という論理もなかなかのものではないか。

この孔教授は1989年の天安門事件の時には、北京大学学生自治連合会常務委員として運動に参加していたが、その後、主張は急激に左派化(保守派化)し、今や欧米と立ち向かい中国と共産党を擁護する側のスター学者の地位を手にしている。

その経歴は「タレント学者」という市場が生まれた中国とその市場にうまく乗ることができた人間の経歴とを象徴的に示すものであると同時に、天安門事件の参加者がその後、どのような人生を歩んでいるのかがわかる貴重な事例のように思える。

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