• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

やり手経営者と「投資詐欺」の境界線=女性企業家に「金融詐欺罪」で死刑判決―中国

2012年01月24日

2012年1月18日、高配当を約束し、違法に7億7000万元(約92億4000万円)もの資金を集めた呉英被告に、浙江省高給人民法院は死刑判決を言い渡した。経済犯罪に対して、死刑という最高刑が下されたことが議論を呼んでいる。23日付ボイスオブアメリカを主に参照した。


IMG_1019
IMG_1019 / Drnantu


■相次ぐ違法資金集めの判決

2012年1月、違法資金集めに関する裁判の判決が相次いだ。

17日、内モンゴル自治区包頭市の恵龍商貿有限責任公司による違法投資集めに関する判決が下された(新華社)。同社は1925の個人及び企業から22億2480万元(約267億円)を集めたが、うち7億7058万元(約92億5000万円)が焦げ付いた。

昨年4月、主犯格の金利斌は自動車内で焼身自殺している。裁判は関係者12人を対象にしたもので、最大で懲役7年、罰金8万元(約96万円)の刑が科された。

18日には河北省石家庄市で舜地企業集団の関係者87人に対する判決が下された(新華社)。2007年から2011年にかけ、不動産投資への投資として高利回りを約束して資金集めを続けていた。チラシや携帯メールが宣伝手段だったという。集めた資金は33億3000万元(約400億円)。

そして、同じく18日、かつては「(浙江省金華市)東陽市の女性億万長者」と呼ばれるスター経営者だった呉英の死刑判決が下された。


■「投資詐欺」の女性死刑囚に同情論、その理由とは?

「若い女性死刑囚を助けよう」 著名な弁護士がネットで嘆願書
MSN産経、2011年1月21日

1981年生まれの呉英死刑囚は、同省東陽市郊外の農村部の出身。専門学校を卒業後、美容師などを経て、服装、住宅を販売する会社を創業した。2005年頃から会社の資金繰りのため高い配当を宣伝文句に、民間から資金を集めはじめた。その規模は瞬く間に大きくなった。その後、経営実態のない架空会社を次々と設立し、事業が拡大したように見せかけたが、ほとんど自転車操業の状態が続いた。グループ会社の総資産は一時38億元(約460億円)になり、浙江省を代表する女性企業家としてメディアにもしばしば登場した。

元金の返還や高額な利息の支払いに追われながらも、彼女は集めた資金を使って自身のために、宝石や複数台の高級自動車などをも購入した。2007年に詐欺罪で逮捕されたときは、約7億7千万元(約93億円)の負債があった。

違法資金集めという経済犯罪で極刑という重い判決が出たことについて、法曹関係者や一部ネット民の間で話題となっている。中国マイクロブログでは「呉英の死刑に賛成か反対か」とのネットアンケートが実施され、96%に反対票が投じられた(後にアンケートは運営会社により削除された)。
(関連リンク:「元富豪死刑判決で大論争=ネットに強い反対論―背景に司法不信・中国」アサヒドットコム、2012年1月21日)

日本にも出資金詐欺など掃いて捨てるほどあるが、摘発された業者が同情されることはまずないだろう(摘発されなければちゃんと配当してくれていたはずと考える「信者」は別だが)。なぜ呉英の死刑判決にこれほどの同情票が集まるのか。

死刑反対の声を大別してみると、第一に法曹関係者の反対がある。呉英は「金融詐欺罪」で有罪判決を受けたが、通常は無期懲役が最高刑。ただし「国家と人民の利益に特別大きな損失をもたらした場合」には死刑になると規定されている。「特別大きな損失」の線引きが不明瞭であること、殺人事件といった凶悪犯罪ではなく経済犯であることを考えても死刑という量刑はバランスを欠いているという批判だ。

第二に死刑は口封じ目的ではないかと疑う声があることだ。2010年7月、呉英は拘置所内から贈賄した官僚及び銀行関係者10人を告訴した(東方早報)。その中には副市長まで含まれていたという。このうち銀行関係者は摘発されたが、賄賂を受け取った官僚には罪は及んでいない。

第三にもっと巨額の不正を働いた汚職官僚が摘発されても死刑になるケースは少ないということ。身内には甘いのに、民間にだけ手厳しいのかと当局のダブルスタンダードに怒りを示す人もいる。


■違法とグレーゾーン、民間金融の微妙な立場

記事冒頭で述べたように、この1月には違法資金集めに関する判決が相次いだ。これはたんなる偶然ではなく、昨年来問題になっている「違法民間金融」「高利貸」問題に対する警告であろう。

もっとも摘発されるべき違法民間金融とグレーゾーンの民間金融の境はあいまいだ。ちなみに当局に登記していない時点で真っ白な民間金融はありえない。最低でもグレーゾーンなのだが、中国政府は民間金融は必要なものと認め、これを合法化し当局の管理下に組み込む方針を示している。

法定金利の4倍を超える利子を取ると違法という最高人民法院の判断があるが、その基準に照らせば、ほぼすべての民間金融が違法となってしまい、あまり現実的な境界ではない。現実には「破綻すれば違法民間金融、配当を続けられればグレーゾーン」というなんともあいまいな状況にあるようだ。


■違法民間金融と中国経済

呉英は3カ月で30%など、とても考えられないレベルの金利を約束していたという。常識的に考えれば破綻は必至。一部で「投資詐欺」と書かれるのも納得の内容だが、果たして本当に詐欺だったのか。官僚との結託という切り札さえあれば、いくらでも金は増やせるというのがこれまでの常識だっただけに本人は返済できると考えていたのかもしれない。

高成長が続く中国では、ビジネスに参入する政治的リソースと資金さえあれば、財をなすのはそう難しいことではない。中国全土にいる「一代でのしあがった成功者」の大群がその証左と言えよう。もっとも一般人にビジネス参入権など手に入るものでもないし、地方の有力者になったとしても金融当局からがっちり首根っこをつかまえられている銀行から資金を引き出すのは大変だ。そこに違法資金集めが流行する理由がある。

一方で出資する側の視点に立てば、自分に政治的リソースがなくとも、ビジネスに携われるリソースがある人間に金を貸し付けることでボロ儲けを味わうことができる。破綻されると出資金が全額パーになるというリスクはあるが、逆に言えば破綻しないかぎり自分は何もしなくてもおいしい蜜を吸えるわけだ。

貸し手、借り手の両者になにかねじ曲がった構造が横たわっている民間金融。結局のところはビジネス参入、銀行融資獲得に通常の経済行為を超えた政治的リソースが必要だという中国経済の根本的問題に根ざしている。

関連記事:
市民みんなが闇金に出資する街=連鎖倒産に数千人がデモ―中国
「儲かりすぎてすまん」銀行頭取の素直すぎる発言に批判殺到―中国
お茶産地で「民間金融」頼母子講が連鎖破綻=中国に忍び寄る足元の経済危機


トップページへ

コメント欄を開く

ページのトップへ