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尖閣諸島は「核心的利益」となったのか?中国内部に歩調の乱れ=離島命名問題をめぐって

2012年01月31日

2012年1月30日、中国外交部の劉為民報道官は、日本が尖閣諸島付近の離島に命名したことに対し、「厳正な交渉を申し入れた」と発言。抗議する姿勢を示した。


Anti-China protest in Roppongi
Anti-China protest in Roppongi / ehnmark

■離島命名問題と中国外交部の反応

離島命名問題については、記事「日本政府、尖閣周辺など39の離島を命名へ=中国・台湾が反発」でお伝えしたとおり。2012年1月16日、藤村修官房長官は記者会見で、排他的経済水域(EEZ)の起点となる無名の離島39島について、今年3月末までに名称を確定する方針を明らかにした。30日付産経新聞が記事「EEZ基点39離島の名称内定 尖閣周辺「北小島」など」ですでに名称を内定したと報じている。尖閣諸島付近では4島が命名された。

現在、中国外交部の定例記者会見は旧正月休み期間だが、産経新聞の報道を受け臨時のリリースを流している。

質問:報道によると、日本は釣魚島付属島嶼 (尖閣諸島) も含む無人島に命名する方針です。すでに名称は内定しているとのことで、3月末までに正式に地図に記載される模様ですが、中国側がどのようにコメントしますか?

劉為民報道官:釣魚島及びその付属島嶼は古来より中国固有の領土であり、疑いようのない明確な主権を中国は有しています。中国側はすでに釣魚島付属島嶼命名問題について日本側に厳正な交渉を申し入れています。日本側による釣魚島及び付属島嶼に対する、あらゆる単独的行動は違法であり無効です。

基本的には決まり文句のオンパレードで、藤村官房長官の記者会見を受けての16日の反応とほとんど変わらない。すでに交渉を申し入れたという点だけが新しい情報となる。


■人民日報が尖閣問題を「核心的利益」と表現

むしろ注目を集めているのは、中国外交部ではなく、17日付人民日報の記事「領土主権を守る中国の意思を試すことは許されない」だ。

2010年9月、日本巡視船が中国漁船に衝突した。中国側は以下のように厳正に指摘している。日本巡視船は釣魚島及びその周辺海域に侵入し、いわゆる「法執行」活動を行うことは許されない。中国漁船及びその船員の安全に危害を与える行為はなおさら許されるものではない。釣魚島及びその付属島嶼に命名しようとするその狙いは、中国の核心的利益を損ねることにあるのは明白である。

文中に「核心的利益」という言葉が使われたことが注目を集めた。



■産経新聞の尖閣「核心的利益」評

この人民日報記事について産経新聞は次のように論評している。

尖閣諸島は「核心的利益」 中国共産党機関紙 日本は中国の警告に背向ける
産経新聞、2012年1月30日

中国外務省はもちろん、政府系メディアが同諸島を「核心的利益」と表現したことは過去にない。

中国にとって核心的利益とは「安全保障上、譲れない国家利益」とされる。台湾、チベット自治区、新疆ウイグル自治区がそれに当たる。近年は海洋権益の拡大方針に伴って東南アジア諸国と領有権を争う南シナ海が加わった。

尖閣は「核心的利益」
産経新聞、2012年1月31日

「核心的利益」とは、中国の安全保障問題の中で譲歩できない国家的利益を意味する。背景には東シナ海問題に対する軍の影響があると指摘されている。

中国では今年秋に決まる新指導部が軍の支持を得るために軍の意向を重視すると予想されており、「核心的利益」に対する中国の動向が注目される。

尖閣諸島をめぐっては、2010年に共産党内部で「核心的利益」と位置づけられたとの情報が北京で流れたが、詳細は不明だった。中国政府が公式に表明したことはなく、主要紙にもそうした表現はなかった。

しかし実際には09年7月、戴秉国国務委員が中国の「3つの核心的利益」として、「基本制度と国家の安全」「国家主権と領土保全」「経済社会の持続的で安定的な発展」を挙げている。戴氏は具体的に指摘はしていないが、党中央はこの時点で尖閣を「核心的利益」に含んでいたとみられる。いずれにせよ、尖閣諸島は「台湾」「チベット」「南シナ海」などと同列になった。


■尖閣は「核心的利益」になったのか?

まとめると、「核心的利益」とは、台湾やチベットを独立させない、中国共産党主導の政治体制を転換させないなど「中国が絶対に譲歩しないポイント」となる。

ただ尖閣や南シナ海が中国の「核心的利益」となったかについては流動的だ。2010年3月、戴秉国国務委員が「南シナ海は核心的利益」と発言して周辺諸国に衝撃を与えたが、反応の大きさに驚いた中国政府は後に撤回している。
(関連リンク:「中国の『核心的利益』をどう解釈するか」 ボイスプラス、2011年6月17日)

今回の件に関しても、17日付人民日報記事で1回だけ「核心的利益」と使われただけ。中国外交部は「核心的利益」という言葉を使用していない。本サイト寄稿者の水彩画さんは記事「不揃いな人民日報と外交部」で人民日報と外交部のずれを指摘している。

また佐々木智宏さんはブログで「尖閣が「核心的利益」であることは、実質的には党中央でもコンセンサスのとれていることだろうが、それを明言することにはコンセンサスがとれているわけではないと考えている」と指摘している。

少なくとも尖閣諸島、南シナ海の問題が「核心的利益」の一部であると喧伝される状況ではない。今回の件は、人民日報の勇み足ととらえることも可能だろうが、反発が鈍ければこっそりと「核心的利益」に格上げしてやろうという探りではないか、といううがった見方もできるのではないか。

日本新聞各紙も、「核心的利益」という言葉が使われた人民日報記事を大きく取り上げているが、日本一国の動きでは不十分だ。中国が「核心的利益」を伸縮自在に使うことを抑止するためには、尖閣諸島問題と南シナ海問題をリンクさせ、中国の動きに国際的な反発を示すことが必要だろう。

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