■王立軍が「休暇式治療」へ■*本記事はブログ「中国という隣人」の2012年2月8日付記事を許可を得て転載したものです。
Bo Xilai _DDC7506 / Abode of Chaos
■王立軍が拘束された?体制外メディアだけの報道
重慶市で薄熙来の右腕として、彼の進める「打黒」を助けた王立軍が、同市の公安局長を解任され、全く畑違いの分野を担当する副市長となって内外の注目を集めています。
しばらく動向が報じられていなかった王ですが、5日時点での無事が確認されました。重慶師範大学や教育委員会を視察。公安局長を解任されてから初めて公の場に姿を現した王立軍は、「全てが新しい挑戦であり、学習する絶好の機会だ」と意欲を見せています。
王立軍は徹頭徹尾の公安畑ではありますが、どこかの大学の教授も兼任しており、全くの畑違いでもないのかと思いきや、自ら「新しい挑戦」と言っているのでやはりズブの素人なのでしょう。
■王が米国領事館に逃げ込んだ?
これで一件落着かと思いきや、新浪微博で「王立軍が成都にある米国総領事館に保護を求めた」というツイートが流れ、一気に盛り上がりを見せます。成都に住むという複数のユーザーが、領事館の取り囲む公安車両の写真をうp。領事館が圧力に負けて王を引き渡したというストーリーとなっています。
しかし、米国が政治亡命を求める人間を引き渡すということはまず考えにくく、チベット自治区のものではないのかという指摘もあり、また逃げ込んだのが重慶だったり成都だったりと一貫性がなく、恐らくデマであると考えられます。
・「
重慶市副市長が保護要請も米国が拒否=ネットに噂」(
BBC中文、2012年2月8日)
BBCもこれに乗っかり「王は保護を拒否されたのち、北京に護送された」と伝えていますが、「ネットで」という少々無責任な報道。
・「
王立軍周辺を整理、薄熙来が先手を打つ」(
博訊、2012年2月7日)
博訊は紀律委が動いているという自説を捨てず、「王立軍の逮捕はいつでもありうる」という「消息人士」のコメントと共に、南方週末の記者の「何かあったのですか」「運転手は捕まったのですか」との問いに、「私はまだ自由だ」「そうだ」との王立軍の回答を紹介しています。
また、つじつま合わせなのか、重慶師範大学を視察後に、
変装して米国領事館に駆け込んだとも報じており、少なくともこの件に関しては博訊ソースは使わないほうがいいのではと思い始めています。
ただ、BBCも博訊も亡命については一応大使館にも当たっており、「政治亡命に関しては答えられない」との回答を引き出しています。
■「休暇式治療」
・「
王立軍・重慶市副市長、休暇式治療を受け入れ」(
新華社、2012年2月8日)
ところが本日午前、
重慶市オフィシャル微博で「
王立軍副書記は、長期に渡っての重労働により、精神が高度の緊張状態に陥って体調に異常をきたしたため、同意を得て休暇式治療を受け入れた」という、意味深なツイートが流され、微博はまたもや祭に。
さっそく2012年の流行語大賞にノミネートしそうな、「休暇式治療」という新語の誕生に立ち会えました。5日の「学習する絶好の機会だ」発言は、錯乱状態で出てきたうわ言なのでしょうか。
・「
香港で重慶「唱読講伝」上演=重慶市「外界に誤解解くよう呼びかけ」(
新華社、2012年2月7日)
気になるのは王の「休暇式治療」は、薄熙来にどれだけの影響を与えるのかという点。重慶市は香港で革命イベントを開催中。薄熙来は今のところは無傷、と言えるでしょう。しかし、途中の眉唾な情報を取り除いても、十分な異常事態。今後も後追いしなければなりません。
■中国人大学生「あまもえ」のコメントあまもー的「休暇的な治療」:王立軍事件の表側と裏側
Twitterアカウント:Siranlre
今日中国のネットで炎上になった王立軍の件ですが、日本では中国クラスタ以外にあんまり注目されてないようだ。ただし、私的に見ると、王立軍の件からはいろいろ裏のものが隠れている。その裏側は、今の中国だけじゃなく、国際と中国の未来にも影響を与えるものが隠している。
表だけを見ると、王立軍の件は中共官員内部の権力闘争であり、王氏が重慶の大権を握っている薄熙來氏に挑戦し、そして失敗しただけに見える。ただし、この件からは中共内部の複雑な利権関係が垣間見えると思います。利権関係がどんどん集団化&固定化している中共の内部からでは、現体制の突破がますます難しくなってきたではないかと。温氏が出した政治改革という発言が何度も規制されたことも、保守派の権力が大きいと考えるのだろう。
今回の件は保守勢力が強い、「中国の最も文革的な都市」と言われてる重慶で起きた点から考えても、奥は深いだろう。重慶の「唱紅打黒」の功臣である王氏が失脚し、このような目にあったこと自体が「文革を思わせる」。しかも「紅歌」とかのイデオロギー宣伝で成功したと思われてる「重慶モード」が、全国に拡がるという様子もしばしばある。次の国家主席である習近平も保守的な観点を持ち、イデオロギーの領域でコントロールを強化する傾向がありと言われている。更に、開放的な広東省の汪洋氏も、この前薄熙來氏と重慶で会談をし、経験を交流した。この「重慶モード」が、これから中国の体制変化に強い影響を与えるのでしょう。
さて、王立軍事件を国際化したのは、「王が成都市のアメリカ領事館に政治避難を求めた」という噂。まだ確認してない話ですが、北京在住のアメリカ人ジャーナリストのCharles Custer氏が「もしこれが本当なら、アメリカの国際イメージにダメージを与えるだろう。シリアの件で中国に敗戦したばっかりのアメリカがまた王の件で中国当局に大きいプレゼントをするなんて合理的ではないと思いますな。」とツイートした。同感です。もしも武装警察を出動させ領事館を囲むようなことが本当だとしたら、中国当局の強硬な外交態度が、強化しなくても、これからも続くとするでしょう。
最後に、休暇的な治療されないためにこれがもっと日本中で流行ってもいい(笑)。
*本記事はブログ「中国という隣人」の2012年2月8日付記事を許可を得て転載したものです。