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「打黒英雄」の失脚は子飼いの部下を潰された賀国強の報復か―中国(水彩画)

2012年02月10日

■【王立軍失脚】打黒の隠れた犠牲者、賀国強の逆襲か■

*本記事はブログ「中国という隣人」の2012年2月10日付記事を許可を得て転載したものです。


Cliff / 崖(がけ)
Cliff / 崖(がけ) / TANAKA Juuyoh (田中十洋)

シリーズ:「打黒英雄」の失脚と薄熙来の危機

■王立軍案件は中央の管轄に?

王立軍の失脚はいよいよ政界を巻き込んだ権力闘争の様相を呈してきました。王立軍が成都の米国領事館に保護を求めた件について、前回の時点では疑わしいと判断していましたが事実だったとのこと。

RFA記事が面白いのは、私好みの重箱の隅つつきがあるところ。重慶市政府マイクロブログが「了解したところによると、王立軍副市長は長期にわたる仕事の負荷で、精神が高度に緊張し、身体は深刻な問題を抱えるにいたった。同意を得て、現在は休暇式治療を受けている」とつぶやいて、王の失脚を婉曲的に認めたのですが、なぜ「了解したところによると」(據悉)という他人行儀な言い方になっているのかを突っ込んでいます。すなわち、この一件が重慶市の管轄を離れ、中央政府の課題になっているためではないかと分析しています。


■米国務省、中国外交部がともに王の米領事館訪問を認める


米国務省報道官は8日、王立軍・重慶市副市長が成都の米領事館を訪問し、領事館職員と会っていたことを明かした。ただし、王は(中国当局に連れ出されたのではなく、)自らその場を離れたと主張した。王が米国に保護を求めたかについてはコメントしていない。


9日、崔天凱・外交部副部長は、王立軍が成都の米領事館を訪れた事を明かした。ただし「単発の事案」であり、すでに解決済みと強調している。

崔副部長による9日のブリーフィングは、中国外交部サイトで公開されているが、王の件については一切記載されていない。たんに「(習近平訪米の)背景や意義、目的などを紹介し、中米関係と国際問題について質疑があった」と書くにとどまっている。(中略)

『重慶日報』は8日9日と2日連続で薄熙来の揮毫を一面に掲載した。これは事件がきわめてセンシティブであることの証左だ。


王副市長は6日、在成都米国総領事館を訪れ、翌日立ち去った。関係部局は現在、この件について調査中である。

8日の崔天凱会見の内容はウェブで公開されませんでしたが、9日夜には一転、王が領事館を訪問した事実を公表しています。1週間前に王が重慶市公安局長離任が発表された時は、「教育分野への新たなチャレンジ」などと好意的な報道が紙面を飾っていたのですが、今では官製メディアも王立軍の「休暇的治療」は調査するべき問題であることを認めています。


■王立軍は薄熙来を売ったのか?

香港紙:王立軍、中央紀律検査委員会に薄熙来を告発」(RFI中文、2012年2月9日)
今回の一件は王立軍が中央紀律検査委員会に薄熙来を告発したことと関連しているのではないかと、香港紙『サウスチャイナモーニングポスト』は報じている。(中略)

同紙は、王立軍が成都の米国領事館に保護を求めたが受け入れられず、8日に中央紀律検査委員会に拘束されたと指摘している。

香港での重慶革命歌公演イベントに帯同している周波・重慶市委宣伝部副部長は「公式マイクロブログの情報は事実だ。王立軍は1ヶ月前から抑うつ症に悩まされていた」とコメント。ただ、米国領事館に保護を求めた件については「知らない」と答えた。

今回の一件で最も注目を集めているのが、王のボスにして、次期中国共産党指導部入りの有力候補・薄熙来がどのような関係にあるのかという点です。特に王が薄熙来の汚職を告発していたという情報が見逃せません。RFIの報道を一部翻訳、紹介しましたが、より詳細な博訊網報道もご紹介しましょう。

薄熙来については汪洋・広東省委書記との確執が取りざたされていましたが、実は汚職官僚を取り締まる中央紀律検査委員会のトップを勤める賀国強との間にも確執があります。薄熙来の前の重慶市トップが汪洋、その前のトップが賀国強でした(1999~2002年)。薄熙来といえば、「打黒」(マフィア・汚職官僚撲滅)キャンペーンが有名ですが、叩かれた「黒社会」とは、つまるところ賀と汪が抜擢した幹部だったのです。

報復してやりたいと悶々としていた賀でしたが、その突破口となったのが王立軍です。昨年12月に容疑が固まったとのこと。中央紀律検査委員会は秘密裏に王と会談。王に追い込まれた状況であることを理解させ、薄熙来との会議記録や「打黒」に関する具体的な通話記録などを提出すればお許しがあるかも……と期待を持たせたとのこと。

この誘いに王はすぐさま飛びついたものの、中央紀律検査委員会の内部関係者が「王はもう信用できません。」と薄熙来にご注進。薄熙来は先手を打って王立軍を中央紀律検査委員会に売ったという陰謀劇を描いています。


■米国が王立軍の亡命を認めなかった理由

薄熙来の動きに気づいた王は、資料を持って米領事館に駆け込み、保護を求めたものの米国側が断ったと博訊網は報じています。米国側が断った理由は3点。

1:現在の状況では、米国は王立軍に政治的保護を与えられない。

2:領事館に出向き政治的保護を求めるのは国際法にそぐわない。

3:王立軍は政治異議人士ではなく、米国が政治的保護を与えるには中国側との相談が必要。中国は領事館を襲撃して逮捕する事は無いが、米国も王立軍を秘密裏に移送する事は不可能。

断られた王は涙を流しながら「政治的迫害を受け、生命の危険がある」と訴えたものの、受け入れられず。結局、しかるべき時期が来たら、米領事館での会話記録を公表して欲しいと求めただけで領事館を立ち去ったとのことです。

理由のうち、第1点の「現在の状況」というのが気になります。習近平訪米直前という今のタイミングを指しているのか。それとももう少し長いスパンを指しているのか。いずれにせよ、王立軍は薄熙来にいいように使われ、ポイ捨てされたのだけは間違いないようです。中国官制メデイアでも正式に事件扱いされる日もそう遠くないでしょう。

果たして薄熙来失脚まで事態は拡大するのか?その渦中の人、薄熙来ですが、8日、9日は雲南を訪問し、重慶の経済成長、格差縮小などこれまでの成果を強調する発言をしています(財経網)。

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*本記事はブログ「中国という隣人」の2012年2月10日付記事を許可を得て転載したものです。 

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