中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年02月10日
DSC_0078 / aidan casey
■ソフトパワーとパブリック・ディプロマシー
記事「 「世界に中国共産党の声を伝えよう」海外展開を加速させる中国官製メディア」で、中国ではソフトパワー、すなわち軍事力や経済力といったハードパワーと対比される文化や理念、メディア発進力などもまた国力の一部であり、向上に取り組んでいることについて触れた。
ソフトパワーとよく似た概念にパブリック・ディプロマシー(公共外交)がある。 外交官同士の交渉ではなく、相手国の国民に直接訴えかける外交を指すものだ。特に2011年の中国では、米政治家のパフォーマンス的パブリック・ディプロマシーが注目を集めた。
8月にはバイデン米副大統領が北京を訪問。家族とともにジャージャー麺が売りの大衆食堂を訪れ、気さくさをアピールした。お食事代は5人で79元(約950円)なり。また同じく8月に着任したゲーリー・ロック米大使が米国からのフライトにエコノミークラスを利用し、自分でスーツケースを運ぶなど庶民派アピールを示したことが注目を集めた。
「米政治家と比べて、中国の汚職官僚は……」と、中国人の自国政治家ディスのタネとして使いやすいパフォーマンスだったことが、中国のネット及びメディアで話題になった理由だろう。環球時報など中国官製メディアは「米国のパブリック・ディプロマシーに注意せよ。中国国民に亀裂を入れる陰謀である」と批判。後にロック大使=清廉ネタは報道が禁じられるほどの騒ぎとなった。
■習近平のパブリック・ディプロマシー・プラン
というわけで、いかつい表情からはパフォーマンスなど想像できない習近平副主席も今回の訪問では、パブリック・ディプロマシー的パフォーマンスを演じることが求められているという。
10日付米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、習副主席は「米国でNBAを観戦する初の中国国家指導者」になる予定だとか(環球網)。米国人と同じようにバスケを見て楽しめる人間なんですよ、というわかりやすいパフォーマンスではある。
また1985年に初めて訪米した時に訪れたアイオワ州マスカティンを再訪、旧交を温めるというネタも用意されている。1985年当時、習副主席は河北省石家庄市正定県の委書記という肩書き。河北省とアイオワ州の姉妹自治体提携を利用しての訪問で、農業関係を視察した。1980年代の米中蜜月時代を振り返ることができるという意味で、これまたわかりやすい。
まあ、どれほど効果があるかは未知数……というか、バイデン副大統領やロック大使が中国で話題になったような盛り上がりにはならないだろうが、まあやっても損はないチャレンジではないだろうか。堅物に見える習近平副主席がどれだけフランクさをアピールできるのか、楽しみにしている。
■「影帝」温家宝
ちなみにこの手のパフォーマンスといえば、「影帝」(俳優王)の異名を持つ温家宝首相がすこぶる得意。日本訪問時には皇居のまわりをランニングしたり、学生と野球したりとパフォーマンスを次々披露。日本メディアもかなり釣られて報道していた。
日本の首相も天安門広場でのたこ揚げや天壇公園での太極拳でぜひぜひ反撃して欲しいところだ。
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