中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年02月11日
Beijing 北京 : 26 Sep 2010 / chinnian
■前回までのあらすじ
記事「ライバルのiPhoneアプリを公開停止にする裏技?消えた奇虎360社製品―中国」でお伝えした奇虎360社事件。
同社の失敗サービス・口信360に大量の高評価がつき、アップル社が調査したところ、同じIPアドレスからの発信だったことが判明。奇虎360社製品すべてがアップル社のアプリ販売プラットフォーム「App Store」で販売停止処分を受けたというもの。
App Storeでの評価には、アップルアカウントが必要。ネット掲示板やブログのコメント欄をやらせで炎上させるよりもハードルは高いが、大量のアカウントを使って評価操作、ステルス・マーケティングはごく一般的な行為だという。
■App Storeランキング
2012年2月11日、21世紀経済報道は記事「App Storeやらせ調査=「360公開中止」が明らかにした灰色の産業チェーン」を掲載した。この記事で取り上げられているのが、ランキング操作のステルスマーケティング企業だ。
iPhoneやiPadのアプリを販売するアップル社のApp Storeでは、ランキングが主要な顧客誘導の動線となっている。ランキングは単純な売り上げではなく、アップル独自のアルゴリズムによって決定されている。「アプリのダウンロード数、各アプリに関するニュース記事、Appleの特集に取り上げられたか」に加え、ユーザーによる評価もランキング決定に影響しているという(CNET JAPAN)。
ランキングに入るか入らないか、トップ10にいるかどうかで、新規ユーザーの獲得数は大きく異なる。開発業者はどうにかしてランキングをあげようと血眼になっており、ここに順位不正操作企業の商売のタネがある。
■ステルスマーケティングのコスパ
記事では、ランキング操作企業の例としてTunesRank社が取り上げられている。中核的な社員だけで30人、さらには1万人のアルバイトを擁するというTunesRank社は、最大で1日あたり120万ダウンロードを実施する能力があるという。App Storeランキング上位30のうち、5本は同社の支援を受けているとのこと。
ダウンロード数のやらせだけではなく、コメントや星評価も請け負っているという。料金は1ダウンロードあたり0.8元(約9.6円)程度。これはApp Store中国の料金で、米国や日本など先進国ではさらに料金が高くなる。興味深いのは、他のアプリにモバイル広告を出稿するよりも金額が安いという点だ。ステルスマーケティングのほうが、コストパフォーマンス的に上、らしい。
■App Storeの拡散
現在、アップル社はランキング操作の不正摘発にのりだしている。奇虎360社製品の公開停止もその一環だった可能性が高い。だが、中国のあるアプリ開発業者はこのままいけば、クリエーティブな新規アプリがユーザーと接触する機会がなくなると懸念している。
iPhoneアプリの数は増え続ける一方。今後、数十万点、数百万点と拡大していくだろう。そうなれば、アップルという一企業が管理しうる世界ではなくなる。普通のやり方では中小企業や個人開発者による新規公開アプリは誰の目にも触れることなく、消えていくことになると懸念されている。
■ウェブストアの動線
21世紀経済報道記事はApp Storeの機能不全を強調しているが、思うに広告力のある大手企業によるランキング独占、零細企業の生存空間の縮小というのは、ウェブストア全般の課題ではないか。例えば電子書籍販売サイトなどその典型で、ランキングと著者・署名検索だけではまったく購買意欲がそそられない。個々のユーザーが好みにあった商品と出会う動線作りが不可欠だ。
結局のところ、画一的なランキング以外の動線、例えば自分のお気に入りのレビュアーを見つけてその紹介を頼りにするとか、仲間内の口コミ情報を閲覧しやすくする、アフィリエイトプログラムを通じてブログなどの紹介を増やしていくといった仕組みが必要となる。こうした仕組み作りではAmazonが他社の追随を許さない独走態勢にあるように見える。
アップル、あるいは中国のアプリ開発業者もランキング以外の動線に目を向ける時期を迎えているのではないか。
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