■歳月推理2月号 御手洗熊猫最後の純本格レビュー■*本記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の2012年2月12日付記事を許可を得て転載したものです。
Giant Panda / Sebastian Bergmann
■たまにしか書かない歳月推理のレビューを書いたわけ
中国の推理小説専門誌『歳月推理』。姉妹誌の『推理世界』と一緒に毎月購入してひと通り目を通してはいるんだけど、短編の悲しさか、めちゃくちゃ面白い!って作品には滅多にお目にかかれない。なのでわざわざレビューする気にはならないので、たまにしかレビューしない。
しかし2月号には久々に御手洗熊猫の作品が掲載されていた。しかも御手洗熊猫、最後の純本格ミステリだと言う。これはもう筆を取らないわけにはいかない。
(御手洗熊猫については文末関連記事を参照)
■御手洗熊猫「藩籬之鐘(垣根の時計)」
密室の王・麻耶が鍵とテープで封じられた二重の密室の中で殺された。密室には矢の刺さった麻耶の死体の他に、彼が書いた原稿と大小様々な9つの置き時計があるだけ。『あなた』と呼ばれる主人公は密室の王や関係者を『喚び出して』当時の状況を尋ねる。証言を集めた『あなた』はついに浮浪者じみた名探偵を『召喚』して事件の真相を知ることになる。
関係者の証言のみで進む本作は、ガチガチの本格推理小説を書いていた御手洗熊猫の作品では異色の短編だ。
しかし謎は相変わらず複雑怪奇。何しろ被害者である密室の王麻耶自身、自分がどうやって殺されたのか覚えていないのだ。死者に事件を語らせるという降霊術めいた手法を使っているが、やっていることは事件の関係者から証言を集めるという非常に真っ当な捜査だ。
本作にもやはり熊猫イズムというか、作家自身の推理小説に対する熱意というか真摯な感情が表れている。だが『最後の純本格』と銘打った本作に熊猫は、推理小説家としての自身の意志すら吐露しているように見える。推理小説家の登場人物が口にする断筆宣言が、熊猫自身の決意と無関係であればいいのだが。
■熊猫先生の次回作にご期待ください
この作品をもって本格推理小説との決別を示した熊猫だが、そもそも今まで彼が書いていた小説は純然たる本格推理だったのかと言う疑問が生じる。