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名古屋市長の「南京大虐殺否定論」はチャンス?日本を叩いて「弱腰外交イメージ」を払拭しよう―環球時報

2012年02月23日

2012年2月23日、環球時報は記事「名古屋市長を制裁し、謝罪、あるいは辞職に追い込もう」を掲載した。


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■中国メディアの「転機」と突撃隊長・環球時報の登場


2012年2月20月、河村たかし名古屋市長は、姉妹都市・江蘇省南京市の代表団と会見。席上、「一般的な戦闘行為はあったが、南京事件というのはなかったのではないか」と発言した。当初は反応が鈍かった中国メディアも21日頃から激しい報道が始まり、22日以降はトップニュース扱いとなった。
(中国側の反応の「転機」については、「河村名古屋市長の南京大虐殺否定発言と南京市政府のドタバタ劇(明天)」及び「河村市長の南京発言、中国ネット世論過熱 新聞も大展開」が論じている)

さて大量の報道が出るとなれば、やはり楽しみなのが人民日報社旗下のタブロイド紙・環球時報の社説。突撃隊長的というか、人民日報には書けない「勇ましい」話を書いてくれるのが特徴だ。と期待していたら、やっぱりすごい社説が出ている。

河村名古屋市長に個人制裁を 中国紙社説 「極右」に属する
共同・MSN産経、2012年2月23日

社説は、河村市長が南京市の訪問団に直接、大虐殺を否定したことは「史実と外交儀礼に反し、中国社会を激怒させた」と指摘。日本政府も南京大虐殺は認めており、河村市長の考え方は日本でも「極右」に属するとし、個人制裁などで「市長を謝罪や辞職に追い込むことは可能だ」と強調した。(共同)

原文はどんなものなのかのぞいてみると、共同の要約記事では伝えきれていない興味深い内容が満載だったのでご紹介したい。


■環球時報社説:名古屋市長を制裁し、謝罪、あるいは辞職に追い込もう

社説:名古屋市長を制裁し、謝罪、あるいは辞職に追い込もう
環球時報、2012年2月23日

河村たかし名古屋市長は南京大虐殺発言を撤回するどころか、昨日(22日)、再びその強硬な立場を明らかにした。彼は南京代表団を前にして大虐殺の事実を否定したが、これほど傲慢にふるまった日本政治家は初めてだ。以前の右翼的言論は(虐殺における死者の)数字に関するもので、しかも日本人同士の議論だった。河村たかしの挑発はまさに常軌を逸したものであり、断固反撃しなければならない。

外交リソースを投じて河村たかし個人を制裁し名古屋市に圧力を加えるべきであるとここに強く提言する。例えば、河村は歓迎されざる人物であると表明し中国への入国を禁止するべきだ。あるいは日本を訪問する中国人旅行客のツアーはすべて名古屋市を迂回するべきだろう。必要ならば名古屋市との経済協力を減らすといったカードも切るべきだ。

なぜ中国はこうした手段をとるべきなのか?

第一に河村たかしは、南京人が最も聞きたくない話を南京代表団に対して伝えている。史実を無視しただけではない。外国儀礼を踏みにじるという二重の罪を犯したのだ。これにより南京市民の感情を傷つけたばかりか、全中国社会を怒らせた。河村に対する制裁は中国の民意に合致するものであり、人々の怒りを和らげるものとなろう。中国政府は民衆にこうした精神的慰めを与えるべきである。

第二に民間には、中国外交は強硬さが足らないという不満が長期にわたって存在する。河村たかしを制裁することで、中国外交のイメージを変え、中国政府の声望を高めることができよう。

また踏まえて置くべきは、河村たかしから謝罪を引き出す、あるいは辞職に追い込むことは十分に可能だということだ。なぜならば南京大虐殺否定論は日本の主流の意見ではないからだ。日本当局は南京大虐殺(の事実)を承認している。ただ(死者の)数字を曖昧にしているだけだ。名古屋市がある愛知県の大村秀章知事は、名古屋と中国の協力関係が破綻しないよう、発言修正を求めている。

河村たかしの観点は日本でも極右に属するものである。日本経済が厳しい不景気にある中、明らかに過ちを犯した名古屋市長を守るために中国と新たな対立を抱える道を日本の選挙民は選ばないだろう。

河村たかしへの制裁は道義上、完全に正当なものだ。言論の自由がある日本で、一部の人間が南京大虐殺に疑義を呈することは理解できる。しかし、河村は政治家として慎むべき決まりを、堂々と破って見せた。こんなことをすればどの西側諸国でも責任を問われるであろう。かつて歴史問題において放言した日本閣僚は、その多くが代価を支払っている。

河村たかしの発言はその身分に見合わぬものであること、そして(南京代表団との会見という)場所に見合わぬものであること。この2点について中国は猛攻をかけるべきであり、こう日本人に問うべきだろう。

かつて米国が日本に原爆を落としたことを、多くの中国国民はよくやったと考えている。だが、もし中国の官僚がそのような発言をしたならば、しかもそれが広島、長崎の代表団の前でだったならば、日本人は許せるだろうか、と。

中国は河村たかしへの制裁を通じて、日中関係の新たなレッドライン(譲れない一線)を策定するべきだ。同時に中国民衆に対して政府は威信を示すべきである。中国社会の凝集力を強化し、社会の中国政府に対する信頼を強固なものとすることは、中国にとってきわめて重要な政治的利益である。このために外交リソースを費やすことは十分に価値がある。

河村たかしへの制裁は中国政府が民意に答えて行う正当なふるまいであり、「外交民主」の条件が整ったことのあらわれである。日本世論、西側世論ともにこの問題に難癖を付ける余地は少ない。中国は道徳という有利なポジションから日本右翼を批判することができるのだ。

たとえ衝突が予想外に拡大し、日中関係の緊張を招いたとしても、恐れるに足らない。こうした緊張は今まで何度もあったではないか。その数が一つ増えるだけのことだ。重要なのは私たちに利があるということ。また私たちはこの問題に力を注がなければならないが、節度をもって取り組めるかどうかで、名古屋市の態度が決まるであろう。


■日本を叩いて「弱腰外交イメージ」を払拭しよう

本文中に6回も「制裁」という単語が繰り返される剣呑な社説である。個人的には次の点について興味深く感じた。

A:制裁によって「政府の弱腰外交」イメージを変えられ、中国国民に「強い中国政府」をアピールできる。

B:(1)名古屋市長という公人が、(2)被害者である南京に対して直接発言したこと、に絞って批判するべき。裏返せば南京大虐殺の史実論、死者数論などに戦線を拡大するべきではないし、日本人同士が南京大虐殺についてあれこれ議論するのは構わない。

C:「河村たかし個人制裁」に限定するべきだし、限定すれば勝てる。だが個人制裁を通じて日中の歴史問題に「超えてはならない一線」が策定できる。

本サイトでもたびたび扱っているが、「弱腰外交イメージ」を変えるいいチャンスだと指摘する内容。きわめて戦略的な内容に終始しているのが印象的だ。それに比べると、河村たかし市長はどういう戦略性をもって発言したのかはなはだ疑問。

ここで南京大虐殺論に踏み込むつもりはないが、一般的な外交としてもちょっと拙劣に見える。「私はないと思っているから中国人と会うたびにこのことはアピールします」ぐらいのつもりだったらちょっと勘弁して欲しい。政治家ならば、ケンカは勝算がある時に吹っかけるべきではないだろうか。


■環球時報社説の読み方

まあ、別に環球時報の社説イコール「中国政府の考え」ではないのだが、それでも「中国最大の日刊紙」が「日本に勝てる戦をしかけて弱腰外交イメージを払拭しようぜ」と呼びかけているのはあまり気持ちのいいものではない。

ただ、南京大虐殺論には触れずに、「公人としていかがなものか?」「被害者たる南京代表団に直接言うのはいかがなものか?」と戦線をしぼることで、「道徳的高みから批判」し、謝罪はおろか辞職にまで追い込めると腹づもりはいかがなものか。

というか、少なくとも環球時報の社説にその「ボクの考えた戦略」が明らかにされている時点で、「中国に追い込まれての市長辞任」という内政干渉的敗北だけは回避しなければならない事態となったようにも思えるのだが……。繰り返しになるが、「この社説が中国の態度だ」的なとらえ方をするべきではないということだろう。

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 コメント一覧 (11)

    • 1. 啊啊男
    • 2012年02月24日 07:19
    • 環球時報は中国政府の意見は代表してないかもしれないけど、中国人の思考回路はある程度、代表してると思います。でも、まぁ、上の方は以前のような愛国には懲りてるようですし、しばらくするとメディアにも取り上げられなくなって、中国人が忘れることはないにしても、興味の中心からは外れていくんでしょう。やつらの威勢がよかったころが懐かしい自分には少し寂しくもあります。不謹慎かもしれませんが。
    • 2. Chinanews
    • 2012年02月25日 21:38
    • >啊啊男さん

      環球時報は結構歴史の浅いメディアなのですが、ナショナリズムの盛り上がりに寄り添って読者をつかむことに成功したそうです。というわけで、啊啊男さんのおっしゃるとおり、一定層の中国人を代表した論調でしょうね。糞青から以前のような「熱さ」が失われているのではとのご指摘も納得です。世代交代がうまくいかなかったということかもしれませんが。
    • 3. ^q^
    • 2012年02月26日 00:36
    • なんか意外と冷静な感じで驚きました(メディアとして直接的行動を呼びかけている点以外は)
      ・日本当局は南京大虐殺(の事実)を承認しているということの確認
      ・言論の自由がある日本で、一部の人間が南京大虐殺に疑義を呈することは理解できるという譲歩
      ・かつて米国が日本に原爆を落としたことを、多くの中国国民はよくやったと考えている。だが、もし中国の官僚がそのような発言をしたならば、しかもそれが広島、長崎の代表団の前でだったならば、日本人は許せるだろうかという、立場を逆にした喩え
      といった点ですが。
      なんか日本の一部の新聞よりマシなんじゃないかと思えるくらいです。
      これは日本人の標準的感覚からするとずれてるんですかねえ…



    • 4. ^q^
    • 2012年02月26日 00:44
    • 人民日報の記事も読みましたがそっちのほうが主観的で感情的な物言いに思えました。
    • 5. Chinanews
    • 2012年02月26日 16:18
    • >^q^さん
      コメントありがとうございます。

      環球時報の記事は「ボクの考えた河村たかしを謝罪させる戦略」、人民日報の記事は「中国国民の悲しみをアピール」と趣向の違いが大きいんじゃないか、と。

      おっしゃるとおり、環球時報の記事は結構いいポイントを突いているのですが、ところどころ「日中関係の新たなレッドラインを策定する」とか野心がにじみでていてげんなりです。
    • 6. ナナシ
    • 2012年02月27日 18:30
    • 上海で日本人女子大生襲われる
      http://sankei.jp.msn.com/world/news/120226/chn12022620490005-n1.htm
      微博では祭り状態らしいけど、空気感はどんな感じなんでしょうか?
    • 7. Chinanews
    • 2012年02月27日 22:07
    • >ナナシさん
      マスコミ報道は事実を伝えるストレートニュースばかりでコラムはなし。微博でもホットトピック入りはしていないようで、あまり注目度は高くないのではないでしょうか。河村南京発言と関連づけるような報道も出ていないようです。通り魔なのか、怨恨があったのかもまだわからないですし。

      21歳女性ということなので、顔の傷が残ったらかわいそうだなとちょっと心配です。ちなみに被害者女性はテレビの取材に答えて「目撃者情報を提供して欲しい」と呼びかけているのですが(http://v.ku6.com/show/bYXGJ-wAcivYFDaQskJ68A...html)、その中国語がバカうま。ネイティブのようなリズムですね。微博でも「ありえないぐらい中国語がうまい」という書き込みがありました。
    • 8. ナナシ
    • 2012年02月28日 04:58
    • >Chinanews様
      知人が上海に居るのでここ一連の流れが気になってました。詳しい説明していただき有難う御座いました。
    • 9. chongov
    • 2012年02月28日 09:39
    • 3. ^q^さんへ

      冷静?私は全然感じない。
      環球時報は産経新聞と同じレベルの基地外憤青新聞だろう。
      記事を読んで、「頭大丈夫か?」ような発想もあり。
      制裁の能力があるか?

      でも日本のマスコミも過激になった。数年前と比べ。
    • 10. Chinanews
    • 2012年02月28日 23:02
    • >ナナシ様
      いえいえ、リクエストいただけると助かりますので、なにかあったらまたコメントください。
    • 11. Chinanews
    • 2012年02月28日 23:07
    • >chongovさん
      私はちゃんと中国政府の南京大虐殺に対する「公式見解」を押さえているわけではないのですが、「日本人同士で南京大虐殺否定説を騒ぐのは気にしない」「死者数争いはとりあえず相手にしない」という方針を打ち出しているのは、「冷静」といってもいいのかもしれません。そういう「ボクの考えた日本を叩く戦略」を新聞紙上で公開するのはどうなのかわかりませんが。

      日本の南京大虐殺議論でも、いわゆる「否定派」に属する人たちの中でも「ゼロだった」はごく少数。多くは死者数の議論だったりします。ので、南京大虐殺の議論を認めた上で死者数について実証的研究を日中で議論する、という展開ができれば、結構大きな進展だと言えるのではないか、と。

      河村発言がそういう展開につながればいいのですが、まあ、無理でしょうね。

      「日本のマスコミが過激になった」という話ですが、確かに大きく変化している気がします。なんだかネットにひきずられて、マスコミが変わったイメージを持っています。

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