■不安の種 中国で芽吹く■*本記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の2012年2月26日付記事を許可を得て転載したものです。
■ホラー漫画『不安の種』を中国人学生が実写化
今年の1月に台湾人学生がSLAMDUNK(スラムダンク)のアニメを忠実に再現した実写版動画を制作したというニュースが流れた。
ネットでは称賛の声が巻き起こったらしいが、大陸の学生も負けてはいない。四川音楽学院という芸術系大学の大学生が、日本のホラー漫画を基に短編ホラームービーを製作した。その原作に選ばれたのは週刊少年チャンピオンに連載されていた『
不安の種』だ。
しかし、オチョナンさんやあそぼうおじさん、「抱かせて。ね。赤ちゃん。絶対かじらないから。抱かせて。」などの有名な作品を何話も再現しているわけではない。映像化されたのはコミックスの2巻に収録されている「♭14.目撃」の1作のみである。
*冒頭にCMが流れます。
■実写版はほぼオリジナル展開
原作の「♭14.目撃」は不安の種のなかでは珍しく、幽霊や怪奇現象が出てこない作品だ。写真を撮るというなんでもない行為のせいで一人の少女を殺めてしまうというかなり後味の悪い話である。
中国のブログで実写と漫画の比較が行なわれているが、合っているのは出だしの2分間だけだ。それ以降は凡庸なホラー映画のようなオリジナル展開である。6ページ程度の漫画を16分の映像にするというだけで無理があるのだから、実写版は原作を無視したほぼオリジナルの作品と言ってもいい。
実写版ではカップルの女が少女の最期を写真におさめ、その後心霊現象や悪夢にうなされてしまう。女は交通事故で死んだ少女が数週間前に暴漢にレイプされている場面も偶然『目撃』している。女は少女を助けに行くことができず、見て見ぬふりをしていたのである。そして映画の終わりにカップルの女は何者かに操られるように車道に出て、少女と同じように車に跳ね飛ばされてしまう。
レイプと交通事故で不幸な少女を二度も『殺した』ストーリーには評価できるが、このように因果関係をはっきりさせた心霊現象は不安の種の恐怖の源泉とは全く異なっているので、原作の雰囲気を再現しているとはとても言えないだろう。
■原作愛が足りないような……そもそも四川音楽学院の学生たちは一体何の目的があって不安の種を原作に選んだのか。不安の種自体は中国語に翻訳されているし(正規版か海賊版かは不明)、ネットでも簡単に読めるようになっているから中国で全く知られていない漫画ではないのだが、決してメジャー作品ではない。