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タイ無料診療制度廃止で議論=先進的保険制度と病院の赤字(ucci-h)

2012年02月28日

■真意が伝わってこない30バーツ医療制度の改革■

*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2012年2月26日付記事を許可を得て転載したものです。

Honeymoon in Thailand
Honeymoon in Thailand / uberzombie


タイの話題だが、時々わからない話がでてくる。なかでも与党・タイ貢献党による「30バーツ医療復活案」に対する賛否ほど、ニュースを見ていても解らないものはない。


■ タイの「30バーツ医療制度」

タイの医療保険制度は、公務員向けの「CSMB」(公務員医療制度、対象760万人)、民間企業社員向けの「SSF」(社会保障基金、対象920万人)に加え、農民や自営業者向けに「UC」(ユニバーサル・ヘルスケア)制度がある。2001年のタクシン政権が創設したものだ。
( 関連記事:「タイの30バーツ医療制度に参加した私立病院の悩み」チェンマイUpdate、2011年8月1日)

UCは4830万人を対象とする。全国民カバーの医療保険制度は途上国の中でも先進的なものだろう。地元の指定病院(主に公立病院)に行けば、30バーツ(約79円)で医療を受けられる仕組みとなっている。民主党政権時代に、手続きの煩雑さからカード提示による無料医療制度へと変更された(それでも「30バーツ医療制度」と呼ばれることが多いが)。

そして今、政権は再び30バーツ徴収に切り替えようとしており、議論の的となっている。


■無料か、それとも30バーツか

推進派の意見は、無料ゆえ病院は過剰に混雑する。病院も大変だし、財政的な負担が大きい。だから30バーツ徴収に切り替えるというものだ。反対派の意見は、医療は貧困者のためにある。たとえ30バーツでも毎回徴収することになれば、貧困者にとっては大きな打撃だというものだ。

ポピュリズムのタイ貢献党、野党・民主党のいつもの立場が入れ替わったような議論となっていて、どうもわかり難い。

ある試算によると、公立病院は無料制度により100億バーツ(約265億円)もの損失を計上しているという。もちろん政府からの補助も含めての話だろう。無料制度を利用する患者数は年間にのべ1億2000万人に達するといういう。制度適用者が1人当たり平均2.5回、病院に行っている計算だ。

仮に30バーツ徴収したとすれば、年36億バーツ(約95億円)の収入になる。不足分の36%ほどがまかなえる計算となるし、患者数の減少を考えればそれ以上の負担軽減となるだろう。


■本当の「論点」

反対意見も根強いようだが、しかし30バーツの医療費がそれほどの負担になるものだろうか。病院に行くには交通費や食事代なども必要。それらを合わせると、1人200バーツ(約530円)前後の出費だという。それを考えれば、少しでも負担を減らしたいという心理もわからないでもない。

だが、本当の争点は貧困層の負担軽減ではないようだ。全国834カ所の公立病院のうち、495で財政が逼迫しているという。問題は主に人件費、残業代の上昇だ。国や保険局、病院はどうにか医療コストを抑えたいと考えているが、医者をはじめ医療従事者はこれ以上政府に頭を押さえられたくないと考えている。

この保険局と医療従事者の対立こそが、30バーツ医療の復活をめぐる争いの背景にあるとも伝えられている。

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*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2012年2月26日付記事を許可を得て転載したものです。

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