• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

スーパーカーで空を飛ぶシャーロック・ホームズ=中国のダメダメ・ミステリ小説(阿井)

2012年03月10日

■ホームズパロディ小説 殺猫小屋■

*本記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の2012年3月8日付記事を許可を得て転載したものです。


殺猫小屋『今夕何夕我是誰』
20120309_写真_中国_ミステリ_ホームズ

■中国のホームズ小説

タイトルからは想像もつかないが、本作はシャーロック・ホームズのパスティーシュ作品である。しかし中身はパロディと言うか大学のミス研が書いた二次創作レベルの代物で、なんでこんなものが25元(約325円)もするのか腑に落ちなかった。

いくらホームズ物の作品が世にありふれているとは言え、1894年のロンドンにテレビとテープレコーダー出しちゃマズイだろう。

1894年5月10日から毎週日曜日になるとロンドンの有名な場所にミンチ死体によって描かれた真っ赤な七芒星が現れる。『七日血案』と名付けられた凶悪事件だ。

その7番目の舞台として予告されたディファナ寺院に向かったホームズとワトソンだったが、そこでも犯人の凶行を止めることは出来ず、七芒星が描かれた寺院は炎で燃え落ちる。捜査に行き詰まる二人の前に、『七日血案』の犯人を知る人物が現れる。彼は犯人の真の目的は自分が所持している『聖石』にあると訴えた。ホームズにその石を託したあと何者かに殺されてしまう。凄惨な事件と『聖石』の間には一体どんな関係があるのか。ホームズは徐々に世界の真相に迫っていく。


■スーパーカーで空を飛ぶホームズ

実は半分以上に目を通したあたりでとうとう我慢できなくなり読むのを放棄した。いやこれは酷かった。序盤にテレビやテープレコーダーが出るのなんてまだマシで、中盤以降は作者が悪い方向へ筆がノッたせいで、既にホームズ物というよりもミステリジャンルの範疇を超える悪ふざけが展開される。

スーパーカーに乗ったホームズがワトソンとともに崖から飛び降りて空を飛ぶシーンは、モリアーティ教授との死闘で未だに目を覚まさないホームズが観ている夢か、晩年のコナン・ドイルの脳内風景と言われた方がまだ説得力がある。

私はホームズの短篇集と『バスカヴィル家の犬』ぐらいしか読んだことがないのですが、原作もこのぐらいSFめいていたのだろうか?霧の街ロンドンの雰囲気を徹底的に破壊するストーリーのせいで、『聖石』なんていう中二病あふれるアイテムの胡散臭さが全く気にならない。

この小説の何が一番腹に据えかねるかと言うと、序盤に『電灯やテープレコーダーなどの登場が本来の歴史背景と食い違っているのは、本作を書くために必要だったからだ』と注釈を入れている点だ。じゃあスーパーカーはどういう理由で出したんだろうか。


■中国ミステリファンも無視

こういう作品が好きな人は楽しく読めるのだろう。とんでもない設定が実は全て伏線でラスト数ページに怒涛の展開が待っていたのかもと考えると、途中で読むのを諦めた私は非常にもったいないことをしたと思う。

意図のわからない原作レイプを繰り返した本作の最も恐ろしいところは、こんな小説を書く作者が1976年生まれのいい年したオッサンだったということと、中国人の反応を見ようと百度で本作のレビューを検索したらただの一件も引っかからなかったってことだ。

まったく時間を無駄にしてしまった。本書から今の中国ミステリ業界がこんな小説すら市場に出るぐらい供給過多だと捉えることが出来たら少しは読んだ甲斐もあるのだが。

関連記事:
【中国本土ミステリの世界】中国は推理小説不毛の地じゃない!新たな才能たちの胎動を見よ
豪華版ホームズ全集に盗作疑惑=国際的出版社のやることかと痛烈な批判―北京文芸日記
ミステリーだと思って読むとひどい目にあう変態短編集『苹果偵探社之詭秘案件』(阿井)

*本記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の2012年3月8日付記事を許可を得て転載したものです。


トップページへ

コメント欄を開く

ページのトップへ