■開放に向かうミャンマー経済の数多くの課題■*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2012年3月5日付記事を、許可を得て転載したものです。
Yangon_2411p / Stefan Munder
タイでも日本でも、毎日のようにミャンマーの変化が報じられている。だが経済状態についての詳細な報道は少ない。経済統計も発表されていないものが目立つ。ミャンマーが将来有望なのはよく理解できるが、解決しなければならない経済的、金融的な問題が山ほどあるのもまた事実だ。それが実現すれば、現在年5%ほどの成長力も、年8~10%に加速するポテンシャルはあると見られる。ここでミャンマー経済の基本についておさらいしておこう。
■一人当たりGDPは世界152位
ミャンマーは、東南アジアの中でも開発の遅れているベトナムやラオス、カンボジアに比すべき存在だ。「世界経済のネタ帳」によれば、ミャンマーの一人当たりGDPは702ドル(2010年)。世界181か国中152位だ。バングラデッシュの638ドル(156位)、東ティモールの588ドル(160位)、アジアの最貧国ネパールの562ドル(162位)より上だが(数字を信じればの話)、ベトナムの1174ドル(138位)、パキスタンの1050ドル(141位)、ラオスの984ドル(143位)、カンボジアの814ドル(147位)より下にある。
かつての仇敵タイランドが4992ドル(87位)の7分の1。現在では5190ドル対840ドルくらいだろうか。タイ人が一人当たり1日1100円ほどの所得があるとすれば、ミャンマーはわずか155円ほど(購買力平価で見ても、1日260円ほど)しかない。
6000万人口の3分の1が一日1ドル以下で暮らしているといわれる。不法労働者も含め200万人近いミャンマー人がタイで働いていると言われているのも納得だ。タイならば1日400~500円は稼げるからだ。ミャンマーの首都ヤンゴンの労働斡旋所はにぎわっているというが、扱っているのはミャンマー国内の仕事ではなく、マレーシア、シンガポール、タイなどでの建設労働者、料理人といった仕事だという。
■二重為替レート問題:公式、非公式のレートに100倍の差
フランスとイギリスの合計に匹敵する面積を持ち、地政学的には中国とインドの間という要衝に位置するミャンマー。しかし戦後の混乱、1962年からの軍独裁政権、1988年からの欧米による経済制裁によって、その経済的地位は下落している。現在、ミャンマーの経済的障害は限りなく多い。主なものを列挙すると、以下のとおりとなる。
1.ばらばらの為替制度
2.近隣諸国に比べても大きく劣るインフラ
3.弱い投資法制
4.不透明な国家財政
5.十分機能していない銀行制度
6.熟練労働力の不足
7.教育制度の不備
ミャンマーの通貨チャットは、世界で17カ国しかないという2重為替レートだ。公式レートの1ドル=6チャットは政府収入、国有企業の輸入レートとして使われている。民間取引での非公式レートは2008年時点で1ドル=1200チャットだったが、今は750チャットとなっている。差が小さくなったとはいえ、公式レートとの間にはなお100倍もの開きがある。
非公式レートのチャット高は、最近の外国資本流入によってもたらされたもの。主要輸出品である水産物の輸出に悪影響を及ぼしたり、外国企業で働く労働者の給与目減りの要因となっているため、ミャンマー経済にとって決して好ましいものではない。
(関連記事:「ミャンマーの通貨チャットが上がり続けている」チェンマイUpdate、2011年7月3日)さて、2重為替レートはどのような影響をもたらしているのだろうか?政府が外国製品を購入する際、チャット表記の代金を少なく見せることができる。さらに名目の購入額と実際の支払額との間に大きな開きがあるので、政府高官による着服の温床となっている。
数年前に行なわれた「民営化」では、多くの国有財産が売却されたが、これも政府高官の資産作りの手段になったと言われている。公式為替レートを使えば、国有企業の債務は過小に見積もられることになる。かりに非公式レートが採用されれば、債務は膨らみ国有企業の倒産ラッシュにつながると懸念されている。
■金融の脆弱性、人材不足為替だけでなく、政府・国有企業のバランスシート、政府の予算、金融政策、民間金融機関の発展不足といった、金融分野の脆弱性がミャンマーの最大の課題のようだ。人口の3分の2を占める農業分野も、公的な信用供与が不十分で、金貸し業の高金利に泣いており、低生産性のまま牛車による耕作を続けている言われる。
教育、技術訓練も大きな課題だ。民間の数少ない技術所有者は、シンガポールなど海外へ出稼ぎに行っており、またテクノクラートも、軍政下、外国へ逃げている人も多く、インドネシアのような国の経済を引っ張っていく人材が足りないと言われる。
軍政下、ミャンマーは1988年の学生デモに対し大学を封鎖し、以後20年間大学教育を持たなかったので、若い有能な人材が「失われた世代」となっている。
■工業化の遅れ現在の経済体制は、天然資源、農産物を外国に売って、必要なお金を稼いでいる。輸出額は、491億チャット(2010年)。しかしこの金額は公定レートでの表示であろう。ドル換算で88億6400万ドルとなる。ヤミ貿易も含めるともっと大きくなろう。
ミャンマーの主要輸出品トップ12品目のうち、工業品は5位の衣料品3.8億ドル(輸出品シェア4.3%)だけである。トップの天然ガス25.23億ドル(28%)、2位のヒスイ22億ドル(25%)、3位の豆類8.8億ドル(10%)、4位のチーク材等木材6.1億ドル(7%)、その他、魚類、天然ゴム、コメ、とうもろこし、ごま、えび、金属と輸出品目は一次産品のオンパレードである。
製造技術を必要とする工業製品の製造がいまだ育っていない。ミャンマーの遅れての工業化は、まさにこれからと言うところだろうか。なお、JETROが2月に「
特集:新興メコンの実力」(PDF)というレポートを発表している。カンボジア、ラオス、ミャンマーという新興3カ国の製造業について報告しているので、興味ある方はぜひご一読を。
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