• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

2012年両会を読む=本当の焦点は政治改革ではなく再配分―中国

2012年03月16日

中国政治、春のビッグイベントである「両会」(全国人民代表大会、全国政治協商会議の総称)が終わった。目玉である温家宝の政府活動報告、記者会見を振り返っておきたい。


China Millennium Monument
China Millennium Monument / Gene Zhang

■日本の両会報道


今や押しも押されぬ大国となった中国。そのビッグイベントである両会には海外メディアの取材陣も押し寄せた。日本メディアも例外ではない。新聞やテレビを見ている人は中国に興味がなくとも、両会という単語は覚えたのではなかろうか。

とはいえ、いささかつまみ食い的な報道になったのは否めない。せめて開幕日の政府活動報告と閉幕日の温家宝記者会見ぐらい、どこかが全文日本語訳してくれればいいのにと思うのだが、まあそこまでの需要はないということだろう。じゃあ、KINBRICKS NOWが!とも一瞬思ったのだが、長文過ぎて挫折したことを告白しておく。


■政府活動報告

第一の目玉、すなわち5日の全人代開幕日に行われた政府活動報告については、現代ビジネスにかなり詳しい紹介記事が出ている。日本メディアの報道は「経済成長率の目標を8%から7.5%に引き上げ」に集中していたが、なにせこれから1年の政府活動の予定と目標を述べるものだけに、きわめて多方面に言及していることがよくわかる。

成長率目標値の0.5ポイント引き下げについても、あんまり大まじめにとらえる必要はない。昨年も8%目標のところを実際には9.2%と上回っており、この数字を目指すという意味ではないからだ。「今年も不動産価格抑制、金融引き締めを続けますよ」という程度のメッセージでしかない(なおマネーサプライ・M2の増加率目標も前年の16%から14%に引き下げられた)。

むしろ興味深いのは都市部新規就業者数の目標だ。「保八」(8%成長堅持)は雇用確保のためで、8%を割り込むと失業者が激増、治安に支障をきたすなどという論が結構大まじめに語られていた。で、その都市部新規就業者数の目標を見ると、2011年も2012年も目標は900万人と変わらない。経済成長が減速しても雇用が減らないというのはちょっと不思議な気もするのだが。


■記者会見

第二の目玉、14日の記者会見については、ロイターが詳しい記事を公開している(「温家宝中国首相の発言要旨」「温首相会見にみる中国のシリア外交とチベット政策」)。

日本では「温首相、文化大革命について触れる」というトピックに報道が集中している。確かに記者会見では2回も文革について触れている。1回目はシンガポール華字紙・聯合早報の政治改革に関する質問に答えたもので、「文革の誤りと封建の影響は完全に消え去ったわけではない」と答えたもの。

もう1回はロイターからの王立軍事件の質問に答えて、「我々(中国共産党)も回り道したこと、教訓を得たことがあった」と返答し、文革路線からの方針転換を図った「党の若干の歴史問題についての決議」が定めた解放路線を堅持し、政治改革に断行しなければいけないとの見方を示した。
(後者については記事「【王立軍事件】「重慶市は反省せよ」温家宝首相が薄熙来を批判―中国」を参照)


■政治改革よりも再配分がカギ

さてここまで政府活動報告と記者会見のうち日本メディアが注目したポイントを紹介してきた。確かに派手なポイントは報道のとおりだが、最重要課題はもう少し地味なものではないだろうか。上述したとおり、中国政府の最重要課題は雇用の確保など「民生」(人民の生活)であり、それ自体は以前から一貫して変化していない。

ただし以前にも触れたことがあるが、「民生」の内実は「食えない状況から食えるようにする」から変化しつつある。人民が獲得した財産の保護であったり、格差是正であったりということが「民生」に内包されつつあるのだ。

梶ピエール氏のブログエントリー「Red Hot Chongqing-Pepper!」や記事「成長路線か再分配強化か?経済路線をめぐって広東省トップと重慶市トップが激論―中国」で触れられていたとおり、更迭された薄煕来こそが格差是正、再分配強化のフロントランナーだったのはなんとも皮肉と言えよう。


■政府介入による再分配

温家宝は14日の記者会見で格差是正について4点の手法を指摘している。

(1)最低賃金引き上げ、及び経済成長・生産性向上と連動した収入向上
(2)国有企業・国有金融企業高官の報酬規制などによる高所得者の所得制限
(3)社会保障制度の整備
(4)合法的収入の保護と違法収入の取り締まり

このうち(4)の違法収入の取り締まりが、官僚や企業家の不正摘発につながれば面白いのだが、突然そこに踏み込むことは望み薄ではないか。(2)はたんなる人気取り。結局は(1)と(3)が主眼になりそうだ。最低賃金引き上げ、社会保障、どちらにしても政府権力が直接的に機能する対策となる。

温家宝のキーワードである政治改革をもう一度考えてみよう。その主眼は民主主義か独裁かではなく、民主制度の導入などを通じて独裁的権力、権力の恣意性を監視、縮小させることにある。とすると、政治改革提唱と強力な政府権力の介入による再分配強化は相いれない部分もあるのではないか。


■習近平に渡されるバトン

上述した経済成長率の微妙な引き下げと雇用成長の維持も含め、「民生」への配慮と政治・経済的構造改革の提言は整合性がとれていない部分があるのではないかという印象を持つ。権力の抑制と市場化的改革、それとパターナリズム的な人民への恩恵とも言うべき再分配強化。2つの方向性のどちらに舵を切るのかは不透明だ。

市場化の進展と権力による人民の保護という、相反する方針の両立。このどちらかに舵を切るのが政治改革だとすれば、それは胡錦涛体制では実現しないということがよくわかった。それが今回の両会だったとも言えそうだ。どちらを選ぶにしても大変な反応を招きそうな決断、その爆弾は習近平に渡されることになる。

関連記事:
地方政府と不動産バブルの仕組み=経済成長は出世の手段―中国(岡本)
繰り返されるプチバブルとその崩壊=ニンニクは暴落、豚肉はどうなる?―中国
「共産党の腐敗はひどい」上海市トップの“本音”発言の意味―中国コラム
中国の新たな目標は「包容的成長」か=胡錦涛主席が提唱―中国誌



トップページへ

コメント欄を開く

ページのトップへ