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百家争鳴!薄煕来更迭の「真相」=カオスすぎるマスコミ報道を整理してみた―中国

2012年03月26日

世界を騒がせた王立軍事件。薄煕来・重慶市委書記の更迭によりとりあえずの一段落ということなのか、事件の「真相」を伝える報道があふれかえっている。が、問題は多くのジャーナリスト、メディアが自信満々に語る「真相」が食い違っていること。そのカオスっぷりを整理してみたい。


Into the fog
Into the fog / dbaron

■プレイバック!王立軍事件


王立軍事件とは、重慶市の王立軍副市長が四川省成都市の米国領事館に逃げ込むという前代未聞の事態からの一連の流れを指す。重慶市のドンにして、「中国を支配する9人」である中国共産党中央政治局常務委員の次期有力候補・薄煕来の失脚という事態へと発展している。

いまだに謎が多い事件だが、ほぼ間違いない出来事を時系列で並べてみよう。

・2012年初頭、薄煕来とその腹心・王立軍の間に亀裂。王の周囲の人間が次々と捕まるなどの事態に。なぜ亀裂が入ったのかが「事件の謎ポイント1」である。

・2月2日、重慶市政府は王立軍が公安担当副市長、公安局局長から外れ、経済担当副市長に転任したと発表。

・2月6日、王立軍が成都市の米国領事館に逃げ込む。政治亡命を求めたが、断られた……らしい。

・2月7日、重慶市の黄奇帆市長が警察を率いて米国領事館を包囲。重慶市の官僚が警官を率いて別の自治体に突撃するという前代未聞の事態に。王立軍は領事館から追い出されるが、その身柄は重慶市ではなく、北京(中国政府)が確保するところとなったもよう。

・3月15日、両会閉幕の翌日、薄煕来が重慶市委書記から解任される。当初は罪が薄にまで及ばないのではとの観測もあった中、なぜ薄の政治生命が断たれるほどの処分になったのか、そこにどんな構図、理由があったのかが「事件の謎ポイント2」である。

今、巷にあふれかえっている王立軍事件の「真相」は、「薄と王の対立の原因」「薄の更迭の背景」という2つの謎ポイントに関連した内容だ。


■山ほどある「真相」を整理してみよう

さて、ここからが本題。山ほどある「真相」を整理してみたい。本来ならば、ゲンミツにあれこれ資料をくっつけたいところだが、なにせ「真相」を語っている人の数が半端ない。というわけで、ざっくりとした整理になることをお許し願いたい。


■真相1:賀国強の復讐!説


薄煕来の看板政策(?)と言えば、「打黒唱紅」(マフィア・汚職官僚摘発キャンペーンと革命歌振興活動)。そのうち打黒を主導していたのが王立軍だ。マフィア・汚職官僚摘発といえば、なんだかいい話のようにも思えるが、実は前任の重慶市委書記・汪洋、その前の賀国強とつながりのあった官僚を撲滅するための作戦だったとも。

子飼いの部下を叩かれた賀国強は復讐に燃えて反撃。その足がかりが王立軍だった。汚職を取り締まる共産党中央紀律検査委員会トップというポストを生かし、王立軍が重慶市に来る前にいた鉄嶺市の汚職事件を摘発。捜査の手が王に延びてくるのを知った薄がトカゲのしっぽ切りをした……というストーリーだ。

この話は2月初頭ぐらいにネットに出回り、かなりの支持率があったと思うのだが、確たる反論もないまま、いつの間にやら立ち消えになってしまったようだ。


■真相2:ポピュリズム政策は許さない!説

今度は薄の「唱紅」、革命歌振興活動が事件の背景になったというもの。

次期政治局常務委員入りが難しい情勢になった薄は文化大革命をほうふつとさせる革命歌振興活動を展開。格差社会化、汚職の横行に苦しみ、「昔のほうが良かった」と考える民衆のノスタルジー魂をゲット。人々の支持を背景に権力の階段をかけあがろうとした。

これに危機感を覚えたのが現共産党執行部。江沢民政権以来20年、ようやく合議と慣習と談合によってそれなりに安定的な政権運営、権力交代がなされる仕組みが形成されつつあったのに、民衆動員を通じて権力奪取をはかろうとはなにごとか、という怒りだ。

王の事件を奇貨として、薄の政治生命を奪おうという判断に現執行部の大勢が固まったという。遠藤誉さんの日経ビジネス連載や、噂に聞くところだと 富坂聰の文春記事がこのラインだという。

が、「唱紅」のイベントに参加し、支持を表明していた政治局常務委員もいたし、そも革命歌振興活動がそれほど危険なポピュリズムだったのかというと激しく疑問を感じるところではある。


■真相3:左派の亡霊を甦らせるな!説

これも「唱紅」がらみだが、薄とつながっていたのは、民衆などという不確かなものではなく、かつて粉砕されたはずの左派(保守派)という読み。米国に亡命した中国人ジャーナリスト・何清漣さんが唱えていた。

薄の更迭後、中国共産党は重慶市のみならず、各地方の忠誠を確認するなどの異例の行動に出たが、左派による政変を恐れたがゆえの動きではないか、という読みだそうな。


■真相4:王立軍は正義の警官だ!説

重慶市の悪を片っ端から引っ捕らえる「打黒英雄」王立軍。賀国強、汪洋時代の悪事を暴いているうちは、飼い主の薄もほめてくれていたのだが、ある時、現市政府とつながりを持つマフィアが出現している時に気がつく。しかもマフィアの被保護者となっていたのは、薄の妻・谷開来だった。

薄に「実はあなたの奥さんとつながっているマフィアがいるんですが……。どうしたものでしょう」と正直に相談した王。ところがこれまで悪を討てと叫んでいたボスは掌を返し、速攻で王立軍を更迭した。で、仕方なく米領事館に逃げ込んだ……という筋書き。

2012年3月23日付朝日新聞の報道だが、なんだか王立軍がかっこよすぎるような。今のボスとつながりあるマフィアに手心を加えるぐらいの処世術がないとは思えないのですが。


■真相5:改革の旗手・温家宝VS薄煕来の戦い!説

フィナンシャルタイムズの報道。三度の飯より改革好きの温家宝首相は口だけ野郎と罵られていたが、実は本気で動いていた。天安門事件の評価を変えるべき、趙紫陽政治改革路線を再始動すべきと提案したのだが、温家宝提案に最も強硬に反対したのが薄煕来だった。また現常務委員の周永康も温家宝に反対した。

これが火種となって、王立軍の問題をきっかけに薄の更迭にまで事態が拡大した。次は周永康もやばいかも、との噂が流れた。なんとも楽しすぎることに周は先手を打ってクーデターを起こし、北京に銃声が鳴り響いたとのデマもネットに流れた。


■真相6:キラー胡錦濤、太子党の大物をぶっ殺した!説

共青団VS太子党という派閥争いが続く中、今秋の党大会から始まる習近平時代をみこおして太子党の大物・薄をぶっ殺しておいた、という見立て。前回党大会の前にも、上海市トップにして上海閥のプリンス・陳良宇がぶっつぶされており、キラー胡錦濤がまたやりおったわいという解釈となる。

党大会前の権力闘争というわかりやすい構図ではあるが、「太子党は別に1枚岩の派閥じゃないし!」と批判されていたりもする。個人的には薄が常務委員になると「鄧小平の秘蔵っ子」汪洋が落選しそうという構図を考えれば、派閥争いじゃないとしても、汪洋を強力にバックアップしている胡錦濤がキラーぶりを発揮してもおかしくないのではと思うのだが。


■「真相」の氾濫が意味すること

他にも「王立軍は薄の命を受けて、共産党現執行部の盗聴活動をしていた!重慶王国謀反説」とか面白すぎる話もあるみたいだが、きりがないのがこの辺で。ざっくりとしたまとめなので、間違いや抜けている点があればご指摘いただければありがたい。

さて、以上の説を総括してみると、「薄と王の対立の原因」「薄の更迭の背景」という2つの謎に、ともに答えたものがないことがわかる。メディアの注目が「王の領事館への逃げ込み」から、「薄の更迭」へと移ったことを反映しているだけかもしれないが、事件の全貌を知るためにはやはり対立の原因を知りたいところではある。

今回の事件はまことしやかな噂、情報が洪水のように流れてきて、逆に真実がみえにくくなっている感がある。ネットだけではなく、海外メディアも関係者の情報をいろいろつかんでいて、しかも各メディアで結構食い違っているという始末。

何清漣はまさにネット時代の劇場型事件だと評していたが、「薄更迭後の重慶市幹部の会議、音声記録」まで流出(真偽は不明)とかになると、むしろ狙ってリークしているのではないかとも疑いたくなる。今後も「真相」の報道はまだまだ続くだろうが、決定版が登場するのは相当先のことではなかろうか。

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 コメント一覧 (6)

    • 1. 天天
    • 2012年03月26日 22:50
    • 「2月15日、両会閉幕の翌日」->「3月15日、両会閉幕の翌日」ですね。

      あと、今回の薄煕来の散り方があまりにもドラマチックだったため、タイミングも仕組まれたのかと思ったりしたのですが、そこまで期待するのは無理ですよね。
    • 2. 3年P組
    • 2012年03月27日 00:30
    • 父ちゃんの薄一波も外人からはよくわからん理由で失脚したが、たいして変わらん
    • 3. Chinanews
    • 2012年03月27日 22:40
    • >天天さん
      ご指摘どうもです。

      タイミングの問題でいうと、王立軍の事件は最初から薄更迭までにらんでしかけられたのか、がポイントになるかと。最近の報道だと、まず王の事件があって、チャンスと見た勢力が更迭に追い込んだという話のほうが有力でしょうか。

      とはいえ、わけわからんというのが本当のところですね。10年後ぐらいに真相がわかることを希望です。
    • 4. Chinanews
    • 2012年03月27日 22:43
    • >3年P組さん
      まあ、パパは文革の混乱だったので仕方がなかったという見方も……。親子二代、壮絶な政治人生ですね。
    • 5. 天天
    • 2012年03月28日 20:05
    • Chinanewsさん

      コメントありがとうございます。

      昨年イギリス人ビジネスマンが重慶で死亡した件について、イギリス政府が中国政府に調査を依頼したという話も追加されて、さらに話は大きくなってきていますね。

      WSJの記事によると、元MI6職員まで登場してきて、まるでMASTERキートンの漫画のようです。
      http://jp.wsj.com/World/China/node_414989

      さてここで一つChinanewsさんにお伺いしたいのですが、今回の王立軍・薄熙来事件について、3月4日のコメント欄で、
      http://kinbricksnow.com/archives/51776658.html
      「王立軍事件については、博訊網など海外メディアに怪しげな情報が載り、しかもそれが事実と判明するという展開が続いています。」と書かれていますが、リーク情報にしろなんにしろ、こういった形で中国の内部情報が大量に外部に流れ出るということ自体に私自身は驚いています。

      中国の場合、こういう情報についてはかなりきっちりコントロールしているというイメージがあったのですが、こういう私のイメージは古いのでしょうか??
    • 6. Chinanews
    • 2012年03月30日 12:05
    • >天天さん

      マスコミの記者が書けないネタをネットに流したり、あるいは共産党関係者のリークが香港メディアに流れるというパターンは年々増えていますね。また博訊は米国に拠点を置く投稿型ニュースサイト(?)ですが、玉石混淆、時に本物のリーク情報が載るケースも少なくありません。

      トップ級の機密情報はともかく、ある程度の情報は以前よりも流れやすくなっているように思います。ただ今回は本当に出てくる情報の量が膨大なので、なんでだろうと不思議に思っているのですが。

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