2012年4月11日、中国オーディオビジュアル協会CD業務委員会、中国音楽家協会ポップミュージック協会流行音楽学会は北京市で著作権法改正案に関する記者会見を開き、一部法令の削除を求めるなど反対の意を表明。受け入れられなければ、中国音楽著作権協会から脱退するとの強硬姿勢を示した。12日、
北京晨報が伝えた。
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■著作権法改定案第46条
1990年以来の全面改訂となる中国著作権法。「著作権が国有化」というミスリードの紹介で、日本でもちょっとした話題となった。
(関連記事:記事「 「中国が著作権を国有化」は間違い!版面権や懲罰罰金導入の新著作権法草案」)
著作権国有化というのはありえない話だが、しかし異論が多いのは事実。とりわけ音楽業界が強く反対している。それもそのはず、映像や文学作品と比べて、明らかにしばりがゆるいからだ。
最大の問題となっているのは録音製品の再利用、引用に関係する著作権法46条だ。まずはその条文について、対応する現行著作権法第39条とともに紹介する。
旧著作権法第39条:
(前略)録音制作者は、他者が合法的に製作し録音製品とした音楽作品を使用して録音製品を製作することができるが、その際には著作権者の許可を必要とはしない。ただし規定に基づき報酬を支払わなければならない。著作権者が使用を許さずと声明した作品については使用できない。
著作権法改定案46条:
最初の発行から3カ月が過ぎた録音製品については、その他録音制作者は著作権法48条が規定する条件に基づき、著作権者の許可を経ずしてその音楽製品を利用して録音製品を製作することができる
この条文だけ素直に読めば、あるレコード会社が発行したCDが3カ月後には別のレコード会社から出せることになってしまう(ただし著作権料=作曲、作詞印税の支払いは必要)。実際にはパフォーマンスなど別の権利が発生するのでそのままの音源でCDを作ることはできないようだが、歌手を変えたカバー版ならば出し放題となるようだ。
例えば「千の風になって」が大ヒットした3カ月後に、ありとあらゆる歌手のカバー版「千の風になって」が嵐のようにリリースされるようなものだろうか。
■拡大集中許諾制度への反発印税が支払われる以上、作詞家・作曲家の権利は一定程度守られることになるが、レコード会社の権利はまったく存在しないことになってしまう。これが音楽業界の反発を受けている第一の理由だ。
第二の理由は第60条、第70条が規定する北欧型拡大集中許諾制度に対する不信感だ。中国版JASRAC(著作権集団管理団体)に加盟していない作品についても、とりあえずは加盟している作品と同じように処理するというもの。
つまり決められた基準の利用料を支払っておけば、後で著作権者が「勝手に使うな」と言い立ててきても、最初に払った使用料以上の罰金は支払う必要がなくなる。例えば中国で携帯電話着メロサービスを展開するとして、いちいち著作権者の許可を取らなくても、中国版JASRACに申請し使用料を支払っておけば、どんな楽曲を利用したとしても法的リスクがないことになる。
■中国版JASRACへの不信感
拡大集中許諾制度についてこれほどの不信感が吹き上がっている背景には、そもそも現在、中国唯一の音楽著作権集中管理団体である中国版JASRAC・中国音楽著作権協会(音著協)への不信がある。
日本でも一時期JASRACバッシングが流行したが、JASRACなど音著協に比べれば天使のような存在である。何が違うのかというと手数料だ。例えばカラオケである楽曲が使用された場合、音楽著作権集中管理団体が使用料を徴収する。そのうちJASRACは30%を手数料として徴収するのだが、中国版JASRACの手数料はなんと70%を超えているという。
「広い中国、しかも日本と違ってチェーン店化されていないところから一店一店、金をとっていくのは大変なんだ、手数料70%ぐらい当たり前じゃん!」という音著協の主張にも納得できる部分はあるのだが、中国音楽業界の関係者はそうは考えていない。そも、音著協が制定したカラオケ使用料が安すぎると考え、団体を脱退。独自により高額の使用料を求めて訴訟するケースが相次いでいた。
■音楽業界と法案作成者のすれ違い今回の著作権法改定案は、著作権者の権利を守るとともに、企業のコンテンツ利用をサポートしようという意志が強く反映されている。つまり着メロだったり動画配信サイトだったりという新しいサービスがコンテンツを利用する際、著作権集中管理団体or国務院著作権管理部局に申請さえしておけば後から罰金を請求されることはないというガイドラインを打ち出した。
申請=使用料の支払い、であるので、著作権者もコンテンツを利用する企業もWin-Winとなるはずなのだが、ネックとなっているのは、中国版JASRACへの不信感だ。すなわち利用料を徴収した政府お抱え団体が手数料名目でクリエイターの取り分を食いつぶしてしまうのではないか、というお話だ。
そも中国ではCD販売はほぼ壊滅、着メロなどネット利用もIT企業側がごっそり持って行っている、唯一手数料を取れそうなのはカラオケぐらいだがそれも中国版JASRACが食い物に、という厳しい現状が存在する。
こうした現状を知っていれば、新しい著作権法なんぞに賛成はできないという音楽業界と、とりあえず新しい著作権法の下で少しずつ利用料徴収の現状を変えていこうぜ、という法案作成者側のすれ違いが存在するのではないか。
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