中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年04月27日
7Nshimla-streetscene7 / Liz Highleyman
■開発途上国の薬局インド
薬の開発には多額の開発資金がかかる。ゆえに特許が認められ、一定期間の独占的製造販売権によって開発費を回収できるように高額で販売される。
医薬品に関する4つの基本的特許権のうち、物質特許と用途特許が切れたところで、ジェネリック医薬品が出てくることになる。それまでの20数年間はたとえ貧しい途上国であっても高額の値段で買うしかない。エイズ、マラリヤなど開発途上国で多く発生する病気の治療薬については、欧米の製薬会社が世論の圧力に折れ、例外的に廉価で提供しているケースはあるが、あくまで例外である。
“開発途上国の薬局”と呼ばれ、世界のジェネリック医薬品の大半を供給するインドは、2005年まで35年間、「健康にかかわる必需品」という事由で、薬品を特許の対象から外していた。2005年にWTO(世界貿易機構)の知的財産権保護の「TRIPS協定」を受け入れ、他国並みに医薬品にも特許を適用するようになり、ジェネリック薬品の製造は難しくなった。
■画期的な裁定:強制ライセンス実施
今年3月12日、インド特許庁はある画期的な決定をした。インドのナトコ薬品が6%のロイヤルティーを支払うことで、独バイエルのガン治療薬「ネクサバール」(ソラフェニブ)のジェネリック薬品を製造できると裁定したのだ。
つまり、新薬を開発した企業が認可するしないにかかわらず、ライセンス料さえ支払えばジェネリック薬の製造を認めるとの決定になる。
バイエルが適正な価格設定をしなかったというのが裁定の根拠となっている。強制的に製造ライセンスを提供させることで、手頃な価格の薬品を提供できるようにしたのである。この決定により治療費は月5500ドル(45万円)から月175ドル(1万5千円)にまで下がると見られている。97%のディスカウントというわけだ。ロイヤルティーを6%支払うといっても、175ドルの6%で、わずか月10.5ドル(900円)という計算になる。
■裁定の波紋
今回の「強制ライセンス実施」は、インドで医薬品特許制度が出来た2005年以来、いまだに特許が認められていないスイス・ノバルティス社の白血病薬「グリーベック」の行方にも影響すると見られている。ノバルティスは「この薬は世界40カ国で特許を認められたのだから、インドでも認めろ」と訴えているが、インド当局は、既存薬の化学式を変えただけで薬効の増進が認められず、新薬特許に値しないと却下してきた。既存薬の化学構造を変えただけで新薬の特許を取るいわゆる「エバーグリーン特許」に対する途上国の抵抗である。
製薬会社も黙って見ているわけではない。「ネクサバール」の強制ライセンス実施を受け、スイスのガン治療薬トップ・ロッシュは、インド企業と組んで、乳がん治療薬「ヘルセプチン」と白血病薬「マブテーラ」の2種を格安で販売すると発表した。
ともに通常なら月3000~4500ドル(24万~36万円)かかる薬だ。インドで販売された格安薬品が輸出されないよう、インド独自の薬品名と別デザインのパッケージで販売すると見られている。
関連記事:
途上国の薬品、4分の1がニセモノ=ジェネリック薬品とニセ薬の微妙な境界線(ucci-h)
タイの薬は安すぎる?!政府が対策を検討、その裏事情(ucci-h)
これは恥ずかしい……避妊薬購入が実名制に?!勘違いが生み出した珍条例
【中国ニセ薬品事情】小麦粉オンリー!大胆すぎるニセ薬品、薬の空き箱買い取ります
*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2012年4月27日付記事を、許可を得て転載したものです。