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2012年04月29日
*画像は陳光誠氏。今年2月、監禁中の自宅で撮影した動画。
■陳光誠とは
陳氏は1971年生まれ。病気のため幼少時に失明したが、法律知識を学び農民の支援や障害者権利擁護の活動に従事。「裸足の弁護士」とも呼ばれている。精力的な活動を続けてきたが、2006年に警察に拘束され、その後「故意の財産破壊及び人を集め交通を乱した罪」により、懲役4年3か月を命じられた。陳氏は山東省臨沂市での強制的な中絶、不妊措置の実態を公表したが、このことが有罪判決を受ける要因になったとも指摘されている。
陳氏の活動は世界的な評価を受け、2006年には米誌タイムの「世界を形作る100人」に選出された。2007年にはアジアのノーベル賞と呼ばれるマグサイサイ賞を受賞。中国を代表する人権活動家として知られている。2010年末、陳氏は刑期を終えたが、24時間監視が続く自宅監禁状態が続いていた。
本サイトでは昨年2月に軟禁中の自宅からビデオメッセージを発信した件、昨年12月にハリウッド俳優クリスチャン・ベールが監禁中の村を訪問しCNNがその一部始終を報じた件でとりあげている。
■奇跡の脱出
監禁が続いていた陳光誠氏だが、22日に脱出。支援者の協力もあり北京市の米大使館に保護された。
盲目の活動家、監視破り夜に自力脱出 米大使館で保護か朝日新聞デジタル、2012年4月28日
支援者らによると、山東省沂南県東師古村にある陳氏の自宅周辺には日中、数十人の監視要員が張り付き、夜は要員の数が減る。陳氏は22日深夜、自宅敷地内にいる監視要員が水をくみにいった10秒ほどの間に寝室を抜け出し、何度も転倒しながら塀や川を越えて村外に出た。そこから電話で江蘇省南京市の支援者に連絡をとり、車で迎えに来てもらうよう依頼し、北京まで移動した。
北京の支援者は「陳氏は目が見えない分、他の感覚がとぎすまされ、村の様子や監視要員の動きを熟知していた。夜中に動けるわけがないと思いこんでいた当局のすきをついた」と話す。
「日本政府も支援を」=陳光誠氏救出の女性活動家-直後に拘束・中国時事ドットコム、2012年4月28日
救出劇を計画・実行した中心人物が、女性人権活動家の何培蓉さん(40)。何さんは陳氏脱出後、時事通信に「事態は緊迫している。陳氏とわれわれの安全のため、日本政府の支援が必要だ」と訴えたが、公安当局によって拘束された。
陳氏は22日深夜、何さんらと連絡を取り、村から共に車で北京に向けて走った。何さんは陳氏を北京市内にかくまった後の25日、同市内で日米など国際社会が陳氏をめぐる問題に関心を持つよう強調した。
「何が起こったか詳しいことは言えないが、われわれの勇気を見てほしい。米国務省にも接触するが、(事態が判明すれば)日本政府に支援の声明を出してほしい」
敬愛する温首相へ
ようやく私は脱出できました。ネットで流れている噂、すなわち山東省臨沂市で私に暴力が振るわれたとの告発ですが、当事者としてこの場でみなさんにすべてが事実であると証明します。いや、事実はネットの噂をはるかに超えたものだったのです。
温首相、私はここで以下3点を正式に要求します。
1:法に基づき犯罪者に処罰を
この事件に直接取り組み、調査班を組織して徹底的に解明し、真相を解き明かしてください。誰が命令したのか、県警察、共産党幹部ら70~80人を我が家に踏み入らせ、物を盗み暴力を振るわせたのは誰なのか。彼らは一切の法的手続きを取ることなく、また制服も着ていませんでした。(私たちが)怪我をしても医者に見せることすら許可しませんでした。……誰がこのような決定を下したのか、徹底的に調査し、法に基づいて処罰してください。この事件はあまりにもひどく人道に反したもの。我々の党(=共産党)のイメージを傷つけるものです。
我が家に乱入してきた奴らは、大の男十数人がかりで妻に暴力を振るいました。床に押しつけ、布団をかぶせた後、殴る蹴るの暴力を加えたのです。それは数時間にも及ぶものでした。私も同様に暴力を振るわれました。県公安については、私たちも知っている者が多いです。張健、賀有、張生東、私が服役中に何度も妻を殴った李献立、李献強、高興建。彼らに厳しい処罰を下してください。もう一人、薛という者もいましたが、名前はわかりません。
(名前は音訳。また原文では「像張健」(張健と思われる人物)という記述になっている)
私は当事者として、彼ら違法犯罪者の所業について証言します。彼らがやってきて暴行した過程についてです。張健は私たちの住む双堠鎮の政法担当副書記です。「法律なんて気にする必要はない。法律がどう規定しているのか、どんな手続きを必要としているかなんてかまいやしない、さあおまえはどうする」と豪語していたのです。彼は何度も人を連れてはうちにやって来ました。物を奪い、家族に暴力を振るったのです。
李献立。彼は20人以上の部下を引き連れて長期にわたり、私を違法に監禁していた人物です。彼は見張り第一班の班長でした。この男は何度も妻を殴りました。ある時など道で追いかけてきて、私の妻を車から引きずり下ろしてまで殴ったのです。私の母にも暴力を振るいました。最も凶悪な男です。それから李献強。昨年の18日午後(原文ママ)、私の妻を殴り飛ばしました。彼は我が家のある郷鎮の司法所職員か署長だそうです。妻は左手にひどい怪我を負いました。
村の入り口で来訪者をなぐっていた男、クリスチャン・ベールも含めてですが、張生和だと思われます。郷鎮の職員です。ネット民たちが「軍大衣」(軍コートを着た男)と呼んでいたのは彼でしょう。昨年2月にもCNN取材班に石を投げています。彼です。間違い有りません。私にはわかります。
多くのネット民が女性の見張りに殴られたと聞きました。女性の見張りが雇われていたとは当時知りませんでしたが、後にその賊は近隣の村から呼ばれてきた婦女主任だと分かりました。見張りの班長の親戚もいたようですが、ほとんどが婦女主任です。
また高興建及びその他多くの名前の知らない奴らについては、公安関係であるとはわかっています。制服を着ていませんし、何の法的手続きも取っていませんが、しかし彼らは自らこういっているのです。「俺たちは今は警察ではない」、と。「公安じゃないならなんなのか?」と聞きました。「党のために仕事をしろと共産党機関に呼ばれてきた」と話していましたが、信じられません。せいぜい党の不法幹部がやったことでしょう。
各方面の情報から明らかですが、こうした郷鎮幹部が見張り各班に8人配されていたほか、少ない時でも見張りは各班20人以上がいました。全部で3班、計70~80人です。
今年、善良なネットの友人たちが(私の問題に)参与し、注目してくれました。そうした状況下で見張りが雇った人数は最大数百人に達しています。私たちの村はほぼ包囲されていました。
だいたいの状況は次のとおりです。我が家を中心に見張りは配備され、家の中に1班。家の外に1班がいます。外の班は家の周囲四隅、道路に分散しています。さらにあらゆる交差点には見張りがいて、我が家を中心に四方八方に分散、村の入り口まで広がっていたのです。最も警戒が厳しい時は、隣村まで見張りがいました。隣村の橋に7~8人がいたのです。違法行為を続ける幹部たちはその権力を用いて、隣村の幹部にその地での警戒を付き合わせていました。
また雇われた一群が車に乗って常に巡回していました。巡回範囲は我が村の5キロ圏内、いやそれ以上の範囲に及んでいました。見張りの関門は村内に7~8層にもはりめぐらされていたのです。さらに村に入る道にはすべて番号がつけられていました。28号路まであったはずです。彼らは「出勤」する時、「誰々は28号路から迎え」などと決められていました。交差点も同じです。まさに蟻一匹這い出るすき間のない警戒でした。
私の知る限り、私の迫害に加わったのは県公安刑事部、双堠鎮党幹部です。計90~100人になるでしょう。彼らはなんども違法な迫害を加えてきました。徹底的な調査を要求します。
■法に基づき家族の安全を守ってください
私は自由になりましたが、同時に不安でもあります。私の家族、つまり母、妻、子どもはまだ彼らの手の中にあるからです。長期にわたり、彼らはずっと家族を迫害してきました。私が去ったのを知って、おそらく狂気じみた報復を行うでしょう。今まで以上にひどいものを。
私の妻ですが、殴られて左目の周りを骨折しました。いまだに触ると傷がわかります。布団をかぶせられ、その上から殴る蹴るの暴力を振るわれたことで、第5腰ついと尾てい骨に明らかな盛り上がりがあります。左の第10肋骨、第12肋骨(の上にも)できものができています。なんともひどいことに当時、彼らは医者に診せてくれることすらしなかったのです。
母は誕生日に郷鎮の党員幹部に腕をつかまれ、押し倒されました。そのため頭を扉にぶつけ、大泣きしました。母が「あなたたちは若さに頼ってこんなことを」をいうと、彼らは恥知らずにも「そうだ、若いからいいんだ。これは真実だ、事実だ。若いからこんなことができるんだ。あんたは年寄りだ。俺たちに勝てないだろう」といったのです。なんたる恥知らず。なんと人道にもとるふるまい、許される行為ではありません。
私にはまだ小さい子どもがいます。登校する時、3人の見張りがつくのです。毎日所持品を検査されます。カバンから全部取り出して調べ、本は全ページをめくる徹底ぶりです。学校でも外に出ないよう見張られています。なにかあれば家に閉じ込められ、外出を禁じられます。
それから我が家の状況についてもお話します。昨年7月29日に電気を止められました。12月14日になってやっと回復したのです。昨年2月には母親が買い物に外出することを禁じられました。我が家の生活を苦境に追い込むためです。
私は本当に心配しました。ネットの友人たちに注目するよう、もっと注目するようお願いしました。家族の安全を守るためです。さもなくば安全の保証はなかったのです。もし私の家族に問題があれば、私は追求をやめないでしょう。
■法に基づき腐敗を正してください
みんなおそらく疑問に思っていることでしょう。(私の)問題は数年間にわたり続いていますが、結局解決しなかったのか、と。お答えします。地方の権力者にせよ、その手先にせよ、彼らは問題を解決するつもりはなかったのです。権力者は自分の罪が暴露されることを恐れたので解決しようとしなかった。一方、手先たちは甘い汚職の蜜を吸っていたのです。
8月のことだったと記憶しています。文化大革命式の吊し上げを喰らった時でした。「おまえばビデオメッセージで3000万元(約3億9000万円)以上を(陳の監禁に)使っていると言っていたな?知っているか、3000万元は2008年の数字だ。今じゃその倍でもきかない。それも北京の上層部に送る賄賂は別にして、だ。できるもんならこの情報をまた外に漏らしてみろ。」彼らはそう言っていました。
また雇われて見張りの仕事をしている人たちは、金はもらっているが現場のボスにピンハネされていると明かしていました。なるほど、彼らにとっては確かに儲けるチャンスでしょう。私の知る限り、郷鎮の供出した金は各班のリーダーの手に渡ります。1人1日100元(約1300円)の予算で人を集めることになっているのですが、班長は雇う時にはっきりこう言っていたそうです。「給料は1日100元。だが実際に渡すのは90元(約1170円)だ。10元(約130円)は俺がもらう」、と。
現地では一日働いても給料は50~60元(約650円~780円)が相場です。たいした仕事もなく、安全で、しかも三食付きとあれば、みんな当然やりたがります。90元でも、です。班長にしてみれば、各班に20人以上いるわけですから、1日200元(約2600円)以上になります。どれほど凄まじい腐敗でしょうか。
また私の服役中、妻を見張っていた奴らですが、班長は我が家の土地を取り上げて作物を植えていたそうです。見張り班の奴らが食事する時はそこから買っていた、と。売買して利益をあげていたのです。こうした事情は(現地の)民衆はみな知っていますが、どうにもできなかったと聞いています。
またある時、彼らはこんな話もしていました。この「治安維持」経費は県政府から数百万元単位で供出されるのですが、上層部がほとんど懐に入れてしまい、下っ端にはいくらも残らないのだ、と。これを見ても腐敗がどれほどひどかったのかわかります。金と権力がどれほど乱用されていたのか。
この種の腐敗について、温首相に調査していただきたい。そう要求します。我々国民の税金を地方の違法幹部が人を痛めつけるのに浪費させてはなりません。我が党のイメージを損なうことになります。彼らはこうした後ろめたいことをする時、いつも共産党を旗頭にします。党がやらせているのだ、と。
温首相、これらの違法行為について多くの人は頭を悩ませています。地方の党幹部が紀律を破って違法行為を働いているのか、それとも党中央の指示なのだろうか、と。おそらくすぐにあなたが明確な回答を示してくれるだろうと思っています。もしこの件に関して徹底的に調査し、事実と真相を国民に明かすならば、その結果は言うまでもないでしょう。逆にもしこれまでどおり無視を決め込むならば、民衆はどう思うでしょうか?