2012年4月30日、韓国海洋警察は違法操業の中国漁船を拿捕、船員9人を逮捕した。中国人船員は刃物で抵抗、海洋警察官4人が負傷した。
![DSC_2772](http://farm4.static.flickr.com/3550/3336929057_a6cd960cf5.jpg)
DSC_2772 / shizhao
朝鮮日報がやたらと生々しい描写で拿捕の過程を報じている。
違法操業:中国漁船員が抵抗、韓国係官4人重軽傷
「ぞっとするような殺気を感じた。相手は我々を殺害するつもりだった」
当時「浙玉漁運581号」に乗り移り、取り締まりに当たっていた隊員のキム・ジョンスさん(44)は、漁船員と格闘中に殴られ、甲板に血を流しながら倒れた。ヘルメットが脱げたすきに、漁船員はキムさんの後頭部におのを振り回したのだった。
キムさんは「(殴られた)瞬間、頭がぼーっとして、周囲が静かになったように感じ、このまま死ぬんだと思った」と振り返った。長さ70センチのおのや鎌を両手に持って武装した中国の漁船員は、意識を失って倒れたキム三の脇腹にもオノを振り下ろした。
キムさんは「彼ら(漁船員)の視線は、我々を脅そうというのではなく、意図的に我々を殺そうとしていた」と語った。キムさんは頭部に5センチほどの傷を負ったほか、肋骨(ろっこつ)を痛め入院した。
中国漁船員の横暴は、以前よりもエスカレートしている。中国政府が約束した自国漁民の対する教育強化は全く効果を上げていない。
農林水産食品部(省に相当)に属する西海漁業管理団の漁業指導船「無窮花2号」(1000トン)が、問題の漁船を発見したのは、同日午前1時20分ごろだった。管理団の隊員6人が最高時速72キロのゴムボートで約1時間にわたり追跡した末、漁船に乗り移った。ボートを操縦する1人を除く5人が救命胴衣ヘルメットを着用し、三段警棒を持ち、停船を求めるため、漁船の2階部分にある操舵(そうだ)室に向かった。中国漁船は追撃を避けるため、全ての照明を落としており、四方は漆黒の闇だった。漁船上は大型のシェパード犬が隊員らを威嚇。隊員は犬がいない側に回り、窓を割って、操舵室に入ろうとした。
その瞬間、大人のこぶし大の石約10個が隊員に向かって飛んできた。石が頭部に当たった隊員3人は、衝撃でよろめいた。操舵室に隠れていた
漁船員はさらに、あらかじめ準備していた火炎弾10個を投げ、激しく抵抗した。
*太字修飾はChinanews。
■繰り返された事件
黄海における中国漁船の違法操業及び韓国海上警察との「バトル」についてはこれまで何度も繰り返されてきた。2011年9月には韓国海上警察官が殉職する事件も起きた。韓国では激しい抗議デモが展開され、外交問題へと発展した。
今年初頭に李明博大統領が中国を訪問。事件の再発を避けるため、両国関係省庁の協議体制構築などで合意したが、状況は変わっていないようだ。朝鮮日報によると、今年4月30日までに拿捕された中国漁船は110隻。昨年の172隻を上回るペースで推移している。
韓国は違法操業漁船には実弾発砲も検討すると公表していたが、中国世論の反発を恐れてか、今回も発砲はしていないもようだ。決死隊を送り込むという手法ではまた殉職者が出てもおかしくないように思うのだが……。
■中国の逆ギレ
「中国人漁民が違法操業して、韓国海上警察官を負傷させた」と事実をまとめると中国側が平謝りの展開になりそうなものだが、そうではない。詳しくは記事末尾の関連記事を読んでいただきたいが、昨年の事件の際にも
・韓国海上警察がヘリや催涙弾を投入するなど過剰な暴力的取り締まりを実施している
・韓国抗議団体、韓国メディアの激烈中国バッシングに逆ギレした中国メディアが煽った
・沿岸漁業資源が枯渇した貧しい中国漁民への同情
を背景に、メディア及びネット民の間に漁民擁護論が広がっている。
先日、海上警察官を殺害し殺人罪に問われていた中国漁船船長に、韓国の裁判所は懲役30年を言い渡したが、これについても同情的な見方が少なくない(
新京報)。
有罪判決を受けた漁民らは無罪を訴えているが、その根拠となっているのが黄海における中韓の排他的経済水域(EEZ)境界未確定問題だ。黄海に浮かぶ離於島(中国語で蘇岩礁)を韓国は島嶼として領海・EEZの起点になりうると主張、中国は岩礁でしかないと主張し対立している。そのため黄海中央部にはいまだ境界が定まらぬ暫定経済水域が存在する。
有罪判決を受けた漁民たちは「暫定経済水域で操業していた時に韓国海上警察に拿捕された、その後船を韓国EEZ内に移動させられた後で再び拿捕された」と主張している。
■「漁民」、その厄介なる代物
今回の事件後、マイクロブログを眺めてみると、案の定、漁民擁護派が出現し、「中国政府の無為無策」を批判している。一方で冷静に違法操業を批判している声も少なくない。もっとも今後、中国メディアが煽ったり、あるいは韓国の「過剰な抗議」が伝えられると、風向きは変わるのかもしれないが。
中国政府も漁業資源の再生、漁船へのGPS設置による操業(及び拿捕された場所の)位置補足などの対策を打ち出しているが、いずれもすぐに問題を解決するものにはならなさそうだ。黄海だけではなく、尖閣諸島近海や南シナ海でも同様の問題は繰り返されている。現在も続く中国とフィリピンのスカボロー礁(黄岩島)での対立も、発端は中国漁民だった。
いずれの海も領有権問題がからんでいることもあり、中国、そして相手国のナショナリズムに容易に火を注ぐ問題である。「漁民」、この単語は今後も中国外交についてまわる厄介なタームとなるだろう。
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