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2012年05月02日
China - Internet Cafe (网吧) / eviltomthai
■タオバオ無敵伝説とそのアキレス腱
2012年4月、中国誌・IT時代週刊は記事「タオバオ腐敗黒幕調査=評価アップ、マイナス評価削除をビジネスとする小二」を掲載した。これがなかなか凄まじい内容。長文なのでかいつまんでご紹介したい。
中国ネットショッピング業界の覇者アリババグループ。アリババ(B2B)、タオバオ(B2C、個人業者も含めた小規模店舗モール)、Tモール(B2C、旧タオバオモール、大型店舗中心のモール)の3本柱を中心に、ネット決済システム・支付宝、グルーポン系クーポン共同購入サービス・聚劃算などを擁している。
京東商城などECサイト全体でみれば他にも大手プレーヤーは存在するが、業者を集めたECプラットフォームビジネスでは圧倒的な実力を誇る。2012年の目標は取引額1兆元(約13兆円)だ。
日本最強のネットショッピングモール・楽天が中国最強の検索サイト・百度と組んで挑んでは見たものの、まったく歯が立たずに撤退したのもいたしかたないところだろうか。
グーグルしかり、アマゾンしかり、ある分野を支配するプラットフォーム企業は、一企業の身でありながらも公共性を帯びた存在となる。もしその優越的立場を悪用してしまえば……、というのが今、タオバオを悩ませている問題だ。
IT時代週刊は「半月あまり、タオバオの広報部局が設置した難関を突破」して、腐敗の現状を描き出している。
■タオバオの小二たち
「小二」というのは酒屋のボーイを指す言葉。タオバオのチンピラたち、ぐらいの意味だろうか。タオバオの従業員はIT企業らしく平均年齢27歳という若さだが、加盟企業800万社の生殺与奪の権利を握っている。この権力を利用してさまざまな不正が横行しているという。
・ありえない販売率
タオバオに出品しているスポーツ靴販売店の話。同店が販売しているあるシューズは閲覧回数が1万3000回あまりなのに、2万6000足も売れている。そのページを閲覧した人は全員2足ずつ購入している計算だ。閲覧回数あたりの販売数(コンバージョン)は5%に達すれば上々と言われる。同店はどのようなマジックを使っているのか……。
というのは簡単な話で、成約件数水増しの仲介業者の仕業だという。タオバオでは20段階の信用評価システムを導入しており、251回の取引成功でダイヤモンドマーク一つを獲得する。1万1回以上で王冠マーク、5万1回で王冠3つ、50万回で金の王冠になる。
百度で「刷信誉」(評価アップ)と検索すると、347万件がヒットする一大産業となっている。もちろん馬鹿正直に普通に落札を繰り返せば、お金がかかってしようがない。データの上だけで取引が成立するように取りはからうタオバオ社内の協力者の存在が不可欠になる。
・マイナス評価削除
逆にマイナス評価を利用したビジネスもあるという。あるネットショップからいくつか製品を購入した後、悪い評価をつけ、「消して欲しければ金を払え」と脅し取る商売だ。
そんなヤクザなイジメを受けたことをタオバオに訴えればよさそうなものだが、こちらもやはり「社内に協力者がいるから、金を払わない限り、何をしようがマイナス評価は消せない」のだという。
・規則違反でお取りつぶし
個人事業者がネットショップで成功する「タオバオ神話」を信じて開業した女性。ところが程なくしてタオバオから「取引中止」の通知が送られてきたという。取引中止の理由については一切知らされていない。従業員と大量の在庫を抱えて女性は立ち往生することに。
後に他のネットショップ経営者から話を聞いて、女性はお取りつぶしの理由が分かった。彼女は「タオバオ従業員とパイプがある」と自称する仲介企業と契約していたのだが、顧問料15万元(約195万円)のうち10万元(約130万円)しか払わなかったという。残りは後でいいと考えていたと言うが、仲介企業は「タオバオとのパイプ」を立証して見せたという寸法だ。
■時すでに遅し?!
今やタオバオ本部のある杭州市には、数千ものネットショップオフィスがあるという。目的は小二にうまく取り入るため、だという。もはやタオバオで商売を成功させるためには腐敗と付き合うことが前提なのだ。今年3月には聚劃算の閻利珉CEOが解雇されるなど、腐敗は上層部にまで及んでいる。
アリババグループトップの馬雲氏も腐敗対策に乗り出した。各部署のトップの職責を変更、同じ人間が一つの業務をとりしきることでたまったうみを出そうとしている。とはいえ、前任者の問題を告発できるかどうかは怪しいところだ。なにせその人間もまた以前の部署で同じようなことをやらかしていたのだから。
■中国IT業界の病
記事はタオバオの問題として取り上げているが、腐敗は中国のプラットフォーム企業に共通する問題だ。例えば検索大手・百度の場合だと金をもらってのネット掲示板の記事の削除、検索順位の操作が問題になったし、マイクロブログ大手・新浪微博では「認証済みユーザー」の肩書きが金で取引されていることが問題となった。
振り返ってみると、日本ではステルスマーケティング騒動などがあったものの、プラットフォーム企業社員の内部犯行といった話は聞かない。グーグルやアマゾンも同様だ。
コンプライアンスがないと言ってしまえばそれまでの話だが、今後は巨大中国市場を背景に海外でも力を持つ中国IT企業も出現するだろう。その時になれば、日本人にとっても他人事ではなく、この汚職文化としっかりお付き合いする心構えが求められるのかもしれない。
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