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「病院での違法追悼禁止」を中央省庁が通達=医療紛争と補償金ゴロと伝統観念―中国

2012年05月05日

2012年4月30日、中国衛生部、中国公安部は合同で「病院で紙銭を焼いてはいけない、祭壇を作ってはいけない、花輪を置いてはならない、規則違反の死体安置は禁止」という不思議な通達を公布した。


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Wikimania 2007 Burning money / 陈霆, Ting Chen, Wing

■医閙


この通達は「医療機関の秩序維持に関する通告」 というもの。近年、たびたび問題となっている「医閙」(医療紛争)の抑止が狙いだ。通達についてはレコードチャイナが取り上げている。

「医閙」については「医師や看護師による悲痛な「白衣の座り込み」「ならず者」が扇動し、全国に蔓延する医療騒動の実態」(日経ビジネスオンライン、2009年7月10日)及び文末関連記事を参照していただきたい。簡単にいうと、医療ミスなど病院側のミスなどを発端にして起きる暴力事件」となろうか。「医閙」に一枚かんで病院から慰謝料を巻き上げる専門のならず者集団まで蔓延しているという。


■ハルビンの医師殺害事件

今回、「医閙」が再び注目を集めているのは今年3月に起きたハルビン医科大学の殺人事件がきっかけとなった。

容疑者の李は2011年4月、強直性脊髄炎の治療のためハルビン医科大学に入院したが、診断の結果、肺結核も罹患していることが発覚。医者はまずハルビン胸科医院で検査、治療を受けるよう進めた。検査結果を持って再びハルビン医科大学を訪れた李だが、医者は肺結核を先に治療するようすすめた。李は見捨てられたと不満に思い、今年3月にハルビン医科大学を襲撃。刃物を振るい、医師1人を殺害。3人を負傷させた(南方週末)。

なんとも理解に苦しむのは医閙に賛同する者が多いこと。人民網が実施したネットアンケートでは6000人中4000人が事件の感想として「嬉しい」を選択している。健康問題で苦しんでいる病人から医者は金をむしり取ってばかり、といった感情があるということだろう。まあ病院、医師への風当たりの強さという意味では日本と共通している部分もあるかもしれない。


■補償金ゴロと伝統観念

さて、中央省庁が 「医療機関内で紙銭を焼くこと。祭壇の設置。花輪を並べる。規則違反の遺体安置。人を集めて騒ぎを起こすことは刑事責任を問う」 といった不思議な条項を通達したことはちょっと面白い話ではあるのだが、医閙を取り巻く環境自体は数年前からあまり変わっていない。

ただ改めて感じるのは中国社会において「追悼」が持つ力だ。医療機関で紙銭を焼き、祭壇を設置し、花輪を並べること、そして遺体を安置することは明らかな脅威なのである。

すなわち追悼式典や遺体を権力側が排除しようとすれば、それは強者が弱者を虐げる行為として、社会に強い衝撃を与え同情を集めることになる。ましてや医療ミスという「不当な死」を遂げた存在であるならばなおさらだ。昨年末から今年初頭にかけ注目を集めた広東省・烏坎村の事件でも、村のリーダーが警察の暴行によって不当な死を遂げたことが一つのターニングポイントになったことが一例としてあげられよう。

かくして当局は追悼を恐れ、事件に関連する遺体は速やかに火葬しようとするのである。

中国人民共和国成立から60余年、21世紀の今になっても伝統的な死生観、文化が、医療紛争や補償金ゴロ、はては村役人追放にまで大きく影響しているというのはなんとも興味深い。といういまいちまとまらない締めくくりでこの稿を閉じたい。

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 コメント一覧 (1)

    • 1. しちやん
    • 2012年05月20日 10:43
    • 記事を読んで、水俣病患者の遺族がチッソ株主総会でお経を読みあげてる映像を思い出しました。日本も昔は「追悼」が意味するもの今より大きかったんじゃないでしょうか。
      あの事件は企業のれっきとした過失によるものですし医療とは関係はないですけど。

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