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中国の若きナショナリストたち=四月青年と愛国主義文化産業

2012年05月16日

中国80後(1980年代生まれ)の若きナショナリストたち、「四月青年」とその愛国ビジネスについて、雑誌・鳳凰週刊の特集「大陸ネット民族主義新勢力」が紹介している。



■四月青年の誕生

反日デモの「憤青」(憤怒青年、蔑称として「糞青」とも)、あるいは薄熙来の唱紅(革命歌振興)を支持した「毛左」(毛沢東支持の左派を指す蔑称)という言葉は、日本でもそれなりに紹介されてきた。だが、彼らより若い世代、80後(1980年代生まれ)を主力とする「四月青年」という言葉については、日本にはほとんど紹介されていない。

「四月青年」が誕生したのは2008年のこと。チベット騒乱、北京五輪聖火リレー妨害事件と続く中、「海外メディアの偏向的中国バッシング」に対抗するべく、80後(1980年代生まれ)の若人たちは抗議運動を始めた。CNNの恣意的な写真編集などを猛烈に批判したウェブサイト・Anti-CNNがその中心だ。2008年4月にその活動はピークに達し、中国青年報は彼らを「四月青年」と名付けた。
(この間の経緯については福島香織ブログが詳しい。Anti-CNNのメンバーから直接コメントも書き込まれている。記事

「I LOVE CHINA」(LOVEはハートマーク)というフェースペイントやTシャツを着たり、カッコイイ動画を作ったりと、従来とはちょっと違うオシャレさが特徴だったと記憶している。


■四月青年のその後

2008年当時、中国国内のみならず海外メディアも「80後の目覚め」に注目していたが、次第に若人世代のナショナリズムに対する注目は薄れていった。むしろ中国人全体の傾向としてとらえたり、あるいは烏有之郷に代表される、毛沢東回帰の毛左がクローズアップされた。

だが四月青年たちはその後も活動を続け、「愛国ビジネス」を展開しようとしている……というのが鳳凰週刊の特集だ。

Anti-CNNの創設者・饒謹は「中国草の根ネット民」の声を代表する言論人としての地位を確立した。さらにAnti-CNNも2008年の海外メディア批判に終わることなく継続している。同サイトは現在、「四月網」と名前を変え、若人向け保守系ニュース・コミュニティサイトとして運営されている。ベンチャーファンドから1000万元(約1億3000万円)級の融資を受け、商業化の道を歩み始めている。

「新愛国主義文化産業」は他のビジネスと比べて運営が難しいとはいえ、将来、必ず利益を生み出す。饒謹はそう信じている。(政治状況に左右される難しさがあるが)なにかをやる時には大勢に応じて動けば、大きな問題になることはないと饒謹は考えている。

という一節が印象的だ。「大勢に応じた」ということなのだろうか、四月網はかつての先鋭的な姿勢を改め、より落ち着いたコミュニティサイトへの転換を図っている。

この方向転換に不満を抱き、四月網から分派した四月青年・唐傑が作ったのが独家網だ。文革調のトップページ・デザインなど左派に傾倒していたが、薄熙来事件の余波を受け、現在はサイト閉鎖中。興味深いのは四月網の「転向」を批判して分派したにもかかわらず、独家網もまた商業化を目指していること。こちらも300万元(約3900万円)のベンチャーファンドを獲得したという。


■「南方系」バッシング

この特集でもう一点、面白かったのだが「南方系」バッシングについて。南方系とは、南方週末、南方都市報などを擁する南方報業集団系メディアを指す「蔑称」。南方都市報は劉暁波のノーベル平和賞受賞を祝う「空席の椅子と鶴」の写真を掲載したことが話題となったが、「南方系」は政治改革推しの代表的右派メディアだ。

CNNなど海外メディア批判から出発した四月青年だが、今のトレンド(?)は「南方系」バッシング。過剰な煽りから中道路線への転向をはかる四月網は「南方系」バッシングとは一線を画しているようだが、左派色の強い独家網は急先鋒を担っている。同サイトは独自のネット動画番組を製作しているが、「南方系」メディアの企画会議という設定の番組を作るなど激しく批判している。

面白いのは独家網の創始者・唐傑はかつて熱心な南方週末の読者だったという。中国を変えていこうという「南方系」の志は今でも評価しているが、なにか問題があればすべて体制の問題にして、政府批判につなげるところが許しがたいとのこと。一方で中国で最も成功している商業メディアである「南方系」をターゲットにすることで、アクセスを稼げるという計算もあるのだとか。

「南方系」は中国を暗く描きすぎているという四月青年の主張は、どこか日本の自虐史観批判、朝日新聞批判を思わせるところもある。「知識人のたしなみとしての朝日新聞・南方週末」というメディアのポジションの類似も大きいのだろうが。


■愛国主義文化産業の未来

駆け足での紹介となってしまったが、私も含めて日本の中国メディア・中国ネット動向の紹介は右派系メディア、反政府系独立メディアに依拠しているところが多く、四月青年や左派の主張については薄いのが現状。四月青年ウォッチはかなり面白そうなすき間分野ではないかとの印象を受けた。

右派メディア代表の南方報業集団だが、その主張はたんにポリシーに基づいているというわけではなく、「売れる路線」という商業的な計算も働いていることは間違いない。一方の左派メディアでの商業的成功といえば環球時報になるのだろうが、人民日報社の子会社ということもあるのか、やや古くさい、ダサイのが気になるところ。若人向け右派メディアという路線には、まだビジネスの余地が残されているのではないか。

薄熙来事件に代表されるように、政治の風向き一つでお取りつぶしを喰らうリスクもあるなかで、この「愛国主義文化産業」がどのように成長していくのか、注目したい。

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