■「核心的利益」とは一体何か■
*本記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の2012年5月15日付記事を許可を得て転載したものです。
Wen Jiabao - World Economic Forum Annual Meeting Davos 2009 / World Economic Forum
温首相尖閣発言 「核心的利益」は穏やかでない(5月16日付・読売社説)
北京で行われた日中首脳会談で温家宝首相は、分離独立運動が続く新疆ウイグル自治区とともに尖閣諸島に言及し、「中国の核心的利益と重大な関心事項を尊重するということが大事だ」と強調した。
「核心的利益」とは中国が絶対に譲歩できない国家主権や領土保全などに用いる言葉だ。これまで台湾やチベット、ウイグルなどに使ってきたが、近年は南シナ海にも使用しているとされる。
中国政府は、この表現を尖閣諸島に公式に使った例はない。だが、今年1月、共産党機関紙「人民日報」が、初めて使用した。
温首相の今回の発言は、「核心的利益」と「重大な関心事項」をひとくくりにすることで、尖閣諸島が「核心的利益」とも読み取れるように意図したものだろう。
■尖閣と核心的利益
温家宝総理が野田佳彦首相と会見したときに述べた「核心的利益」と「重大な懸念」がそれぞれどれに当たるのか。ここのところメディアではそのことについて、さまざまな分析がなされています。
ここで解説しておくと、中国語における「核心利益(核心的利益)」とは中国の国益の中核をなす利益。つまり平たくいうと「譲れない一線」ということになります。具体的にいえば、は▽基本制度と国の安全の擁護▽国家主権と領土保全▽経済・社会の持続的、急速かつ健全に発展かつ安定的な発展──となっており、主に「理念」のことを指すのが一般的。
今年の一月、党の機関紙人民日報が尖閣問題をはじめて「核心的利益」と表現し、話題になりました。ただし中国の指導者がいままで、尖閣問題を核心的利益と表現したことはありません。
■温家宝発言をどう読むか
さてここからが本題なのですが、中国の指導者は野田首相と会見した際、どのように表現したのでしょうか。
日本のメディアやブログでは、「核心的利益」が新疆関連問題、「重大な懸念」が尖閣関連問題であるとの記事や、その反対の記事もありますが、私の見解は少々違っています。5月13日の定例ニュース「新聞聯播」で報じられた原文を見ると分かるのではないでしょうか。
温家宝重申了中方在涉疆、钓鱼岛等问题上的原则立场,敦促日方按照中日四个政治文件的原则精神,切实尊重中方核心利益和重大关切、谨慎、妥善处理有关问题,坚持两国关系的正确方向。
訳:温家宝総理は新疆に関わる問題、釣魚島の問題などにおける中国側の原則的立場を重ねて表明し、日本側が中日の四つの政治的文書の原則的精神に基づき、中国側の核心的利益と重大な懸念を適切に尊重し、関係問題を慎重かつ適切に処理し、両国関係の正しい方向を堅持するよう促した。
ここでいう「涉疆、钓鱼岛等问题」が「中方核心利益和重大关切」とどのように対応しているかで見ていくわけですが、「涉疆、钓鱼岛」「核心利益和重大关切」の並びを根拠に、「核心的利益」が新疆関連問題と判断している人が多いのです。
■尖閣問題+ウイグル問題=領土問題=核心的利益
しかし私には1つ引っかかることがありました。それは後ろには「和」があるのに、まえは句読点で並列にしていること。書き言葉においては字数やリズムを重視している中国語文において、これは不自然ではないかと私は感じたわけです。
加えて「和」という接続詞の取り扱い。これがあると多くの場合「和」の前後で並列された名詞を1つの大きなグループとして取り扱うことが多いのです。このため、私は「核心利益」+「重大关切」=「涉疆」、「核心利益」+「重大关切」=「钓鱼岛」ではないかと考えました。ちなみに中国側の「核心的利益」は理念について表現することが多いとかきましたが、「重大关切」は発生した事象についての中国側の感情を表現するものです。
もし私の分析が正しいならば温家宝が会見で提起した新疆問題の「核心利益」とはウイグル問題に代表される国家主権と領土保全、「重大关切」は世界ウイグル大会の開催を日本政府が容認したこと。尖閣問題の「核心利益」とは領土保全、「重大关切」は石原慎太郎都知事主導の尖閣諸島購入の動きを指すと言えます。
一体真相はどうなのか。どちらも譲れないものであるのは間違いなさそうです。
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