中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年05月23日
Taipei - Taiwan / John Yavuz Can
前編「TPP、市場開放で幸福台湾を作る=馬英九総統就任演説全文(前編)」に続いて、馬英九総統の就任演説後編をお送りする。
中国との対話、外交、国防の整備の3点セットで安全保障を確保するという内容。2番目の外交には対日関係も含まれており、東日本大震災で「世界一の義援金」を集めたエピソードもあげられている。その意味では台湾の内政問題中心だった前編よりも日本人読者の興味に合致した内容と言えるかもしれない。
注目は「1つの中華民国、2つの地区」(一国二区)が中華民国憲法に合致しているとの発言。今年3月、呉伯雄・国民党名誉主席が胡錦濤国家主席と会談した時に伝えた言葉だが、この言葉によって第2期馬政権にとって最大の課題となる「中国共産への譲歩」を果たそうという姿勢がますます明確になったと言えそうだ。
(中国と台湾は「一国二区」=国民党名誉主席発言が暗示する中台関係「激震」 )
「台湾地区及び大陸地区人民関係条例」(両岸人民関係条例)を根拠としたという呉名誉主席の発言とは違い、「憲法では中国大陸も含めて中華民国だが、統治権は台湾島など一部にしか及んでいないのだから、もともと一国二区だったのだ」という大胆な論理になっているが、台湾市民、そして中国共産党に受け入れられるかはまだ未知数だろう。
馬英九総統就任演説・後編2012年5月20日*底本はアップルデイリー、小見出しは訳者■安全保障について:(1)中台関係
国家安全は中華民国生存のカギです。中台の和解と台湾海峡の平和、活路外交による国際空間の開拓、国防軍事力による外敵脅威の抑止、この3点こそが台湾の安全を守る鉄のトライアングルだと英九は考えています。私たちは(この3点を)同様に重視し、バランス良く発展させていかねばなりません。
鉄のトライアングル、第一の頂点は中台の和解と台湾海峡の平和です。この4年、政府は「対等、尊厳、互恵」の理念に基づき、「台湾を主として、人民に有利に運ぶ」を原則とし、対中交渉制度を復活させました。16項目の協議に調印し、両岸の和解を実現しています。行政は公開と透明性の確保によって国会に責任を負い、また野党との対話による共通認識確保に努力してまいりました。かくして中台の和解は制度的な保障を得たのです。
過去4年、私たちは中台関係を改善し、台湾海峡の緊張を緩和させ、平和と繁栄をもたらし、民衆の広い支持を得ました。しかし一部の民衆はわれわれの対中国本土政策に疑念を抱いています。ここで繰り返し表明させていただきます。中華民国憲法こそ政府が両岸関係を処理する最高指導原則である、と。中台関係の政策は憲法の枠組みの下、台湾海峡の「統一せず、独立せず、武力行使せず」の現状を維持し、「92コンセンサス、一中各表」の基盤に基づき、中台の平和的発展を推進させなければなりません。
私たちが言うところの「一中」とは、当然、中華民国を指します。憲法に基づけば中華民国の主権は台湾と中国本土に及んでいますが、現在、政府の統治権は台湾本島、澎湖諸島、金門島、馬祖列島にとどまっています。言い換えるならば、この20年来、憲法が定める中台関係の定義は「一つの中華民国、2つの地区」(一個中華民國,兩個地區)だったのです。3人の歴代総統は(この定義を)変えたことはありません。これこそ最も理性的で実務的な定義であり、中華民国の長期的な発展と台湾の安全を保障するよりどころなのです。中台関係はこの現実を見すえ、小異を捨てて大同につき、「互いの主権を承認せざるも、互いの統治権を否定せず」という共通認識を築かなければなりません。こうして初めて(台湾と中国本土の)双方が安心して前に進むことができるのです。
過去4年、「まず急務に取り組み、まず容易な問題を解決し、まず経済を話し合いその後で政治に取り組む」の原則で中台交流を進めてきました。経済貿易、交通、衛生、文化、教育、司法、金融などの各分野で過去にない記録を打ち立てました。今後の4年間では、新たな協力分野を開拓し、平和を強固なものとし、さらなる繁栄を求め、信頼を深めなければなりません。中台の民間団体が民主、人権、法治、市民社会などの分野でより多くの交流と対話の機会を得て、中台の平和的発展により有利な環境を築くことも望みます。
中台人民は同じ中華民族、ともに炎帝・黄帝の子孫です。同じ血と歴史、文化を持ち、ともに国父・孫文を崇拝しています。国父の「天下為公」(天下は公のもの)との理念、自由、民主、均富の建国の理想を我々は決して忘れてはなりません。台湾の民主主義の経験は、外来の民主主義を排斥するような土壌が中華民族にはないことを示しています。中国本土の政治が漸進的な開放に向かい、人権と法治が整備され、市民社会が自主的な成長へと向かい、中台人民との心理的距離を縮めることを英九は心から期待しています。
■安全保障(2):外交
鉄のトライアングル、第二の頂点は活路外交によって国際空間を開拓し、台湾の国際貢献を拡大することです。過去4年、私たちは「のろし外交」をとらず、「活路外交」「正当外交」を推進してきました。「正当な目的、合法的な過程、有効な執行」という対外援助原則に基づき、国交ある国との協力計画を実施してまいりました。国交ある国もまた国際機関において我が国のために公正な発言をしてくれました。
(民進党政権の対中外交は、挑発的な「のろし外交」だったと国民党は批判している)
また我々は米国との信頼関係を再建し、対話のパイプを強化しました。多くの分野で緊密に協力し、過去30年で最も堅実な「安全・経済パートナー関係」を築いています。日本とも設館、航空、文化、投資などの分野で重要な成果を上げ、過去40年間で最も有効的な「特別なパートナー」関係を築いています。欧州連合(EU)及び欧州議会も複数回にわたる生命と決議を通じて、我々の対中政策を支持し、台湾・欧州経済関係を強化しています。
国際空間の開拓についてですが、我が国は3年前に正式なオブザーバーとして38年ぶりに世界保健機関(WHO)に復帰しました。民国99年(2010年)には世界貿易機関(WTO)旗下の「政府調達協定」に加盟しています。事実が証明するとおり、中台関係の進展と我々の国際空間の拡大は必ずしも衝突するものではなく、逆に相補的ですらあります。
今後4年間、私たちは気候変動、民間航空安全など国際機関への参加を拡大します。また国際的非政府組織(NGO)の活動においても、中台関係は包容的かつ相互補助的であり、この好循環モデルがさらにプラスの効果を発揮するよう希望します。
国際貢献の強化についてですが、台湾は世界で最も貴重な資産、すなわち民間組織の活力と助け合いの人道精神に立脚しています。民国99年(2010年)1月のハイチ大地震では、英九は現地に赴いた我が国のレスキュー隊の陳順天分隊長と電話で話しました。電話がつながると、興奮した叫び声が聞こえました。ちょうど15分前に1人の生還者を救出していたのです。これは我が国の国際救助史上初の出来事です。
昨年の東日本大震災では、民間と政府は力をあわせて66億台湾ドル(約177億円)を寄付しました。世界一位になっただけではありません。その他90カ国異常の援助金総額を上回ったのです。また被災地で老人を助けた台南の女性・蔡雨樺さんの善行は両国人民を感動させるものでした。
今年4月、英九はアフリカで現地で20年近く働く黄其麟医師と会いました。その無私の献身は、台湾の医師が白衣の下に持つ熱血を世界の人々にしらしめるものとなりました。これらの事例は台湾の人々は熱情と苦難を恐れない強さを持っていることを示すものであり、台湾のために本当の友情を勝ち取るものとなりました。
■安全保障(3):軍事
鉄のトライアングル、第三の頂点は国防軍事力によって外来の脅威を抑止することです。「天下雖安忘戦必危」(天下安なりと雖も戦を忘るれば必ず危し)という古訓もあります。我々は戦いを望みませんが、戦いを恐れはしません。この4年、我が国の国防工業は新世代の軍事力の自主開発、強化という整備に努め、また災害救助の分野なども含め、大きな成果をあげました。また訓練に注ぐ力を高め、軍の体力・技術の向上、軍紀を正し腐敗を抑止する綿でも成果を上げています。これもまた我々の備えに具体的な効果をもたらすものです。
兵器輸入についてですが、英九就任以来、米国はすでに3回、計183億台湾ドルの売却に同意しています。質・量ともに過去を上回る内容です。(米国からの兵器輸入によって)我々は将来、相応の防衛力を備えることになり、政府と人民に中台関係の安定的な発展を継続させる、さらなる自信と意志とを与えるものになるでしょう。
今後4年間、我々は自国で生産できない防衛性兵器の輸入を続けることになります。また募兵・関連制度の整備を進めます。「堅守と有効な抑止」の戦略の下、「創新と非対称」の発想に基づき、少数精鋭の強力な国防軍事力を構築します。同時に我が国と周辺各国の関係を強化し、積極的に国際事務に参与。制度化された戦略対話協力パイプの構築を推進することで、中華民国の主権と台湾の安全保障を守り、地域の平和に貢献します。
皆さん、過去4年を振り返れば、英九の心は感激でいっぱいです。金融危機を乗り越え、また建国100年の祝賀を経験しました。天災によって傷つき涙を流すとともに、台湾の子どもたちのために多くの成果をあげる喜びを得ました。私たちは家族です。台湾は私たち共同の故郷です。
政府と野党の間にどのような意見の差異があろうとも、私たちは一家である。そう信じています。たとえこの数年、政府と野党の和解には少なからぬ困難があったとしても、「民主主義は私たちの共通の価値」という基盤の上に私たちは共通認識を築き、協力して問題を解決することができるはずです。
この4年、英九はさまざまな市民団体を招き、対話を続けてきました。野党リーダーと一刻も早く対話し、民衆に競争だけではなく協力できると示したい。英九はそう心から願っています。全国民の福祉のため、私たちは台湾の民主主義により良い模範を示そうではありませんか。
今年は中華民国建国101年です。今、私たちは歴史の分水嶺にいます。過去100年の先人の奮闘ははっきりと(私たちの)目に釣っています。未来の100年における国家の挑戦とチャンスもまたその輪郭は鮮明です。英九は幸運にも、新たな100年を迎える中華民国で最初に就任宣誓をした総統となりましたが、その重大な責任を感じております。
この荘厳で神聖な儀礼によって、英九とその執政組織は再び全国民の信託を得ました。重い責任を理解し、慎重な態度で、憲法によって当たられた職責を全力で全うすること。こうしてはじめて国民の信頼と付託に応えることとなります。
新たな100年のスタートラインに立った今、私たちが築く基礎が子どもたち未来に向かうための盤石とならんことを、私たちが播いた種が次世代の人々が分け合う果実にならんことを、英九は祈っております。私たちは理想を守り、手を携えて改革に挑み、幸福な台湾を築きましょう。