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闘争と貪欲さですべてを破壊した中国と美徳を残した台湾=韓寒コラム「太平洋の風」

2012年05月23日

■韓寒:太平洋の風■


Taipei view from 101 skyscraper
Taipei view from 101 skyscraper / http2007

2012年5月20日、台湾の馬英九総統は就任演説を行ったが、その中で先日、台湾を訪問した中国の人気作家・韓寒について触れられている。
(関連記事:TPP、市場開放で幸福台湾を作る=馬英九総統就任演説全文(前編)」

韓寒は80後(1980年代生まれ)の若手人気作家。鋭い風刺コラムでも人気を集めている。昨年末には「革命を語る」「民主について」「自由を求める」という3本のブログ記事を発表。ネット論壇の話題をかっさらった。その韓寒が台湾を訪問して書いたのが今回ご紹介するブログエントリーとなる。

馬英九総統の就任演説では、台湾のすばらしい民主主義制度、台湾人の民度の高さが中国本土の手本になると強調されていたが、この内容はまさに韓寒のブログエントリーと合致している。台湾側が「こんな感じでブログ書いてよ」と依頼したんじゃないのかと勘ぐりたくなるが、そもそも「ビバ!台湾。中国本土が失ったもの、台湾がみんな持っている」論というのは、民主化シンパの中国ネット民の間によく見られる論調。今回のブログエントリーにも肯定的な意見が多かったようだ。

その意味では韓寒にしてはひねりが足りない気もするが、馬英九総統にも引用された典型的ビバ台湾論としてご紹介する価値はあると判断した。

太平洋の風
韓寒ブログ、2012年5月10日

(前略)

台湾の街ではデモや抗議の横断幕をたびたび見かける。中国本土観光客の大部分にとっては新鮮な出来事だ。観光客の多くは夜になる政治トーク番組をテレビで見る。ボクの母も去年、台湾旅行に行ったんだけど、(テレビが)とっても面白かったって。テレビ番組は好きなように政治指導者を罵倒できる、(中国本土の人気番組)「快楽大本営」よりよっぽど面白いってね。もっとも台湾人にとってはずっと前から当たり前のことのようだけど。

さて、(直接会った)馬英九総統以上に強い印象をボクに与えた人物がいる。それは王松鴻さん。有名な政治家でも文学者でもない。タクシーの運転手だ。

ある日の朝、ボクは彼の車で陽明山にいった。目的地についた後、ボクはタクシーに携帯電話を忘れたことに気がついた。車のナンバーは覚えていない。友人たちはタクシー会社に連絡してくれた。ボクもホテルに電話して監視カメラにナンバーが残っていないかを聞いた。間もなくホテルから折り返し電話があった。「ナンバーはわかりましたか」と聞くと、「監視カメラの映像はごみごみしていてわかりませんでした。ただ先ほどタクシーの運転手がホテルに戻ってきてフロントに携帯を預けていきました。このホテルから乗った男性の忘れ物だと……。」

この言葉を聞いてボクは固まった。ボクは電話番号と名前を聞いて、すぐにその運転手に電話した。お礼を支払いたい、と。「要りません。当然のことです。私たちはいつもこうやっているんですから」と王さん。そしてこう続けた。「数日前に友達と台湾島を一周したんです。今度は中国本土に旅行に行きたい。タクシーの運転手をしているのもいろんなところに旅行に行くためなんです」、と。

そして「私はQQ(中国で最もメジャーなチャットソフト)と新浪微博(マイクロブログ)のアドレスを持っているのですが、あなたのアドレスは何ですか?ネットで連絡できますよと話した。この時、ボクは中台の関係が本当に緊密なんだと知った。それから王さんは「フェースブックは使ってますか?」と一言。「中国本土のネットにはフェースブックは……ないんです」と返答すると、「あー、そうでしたね。ごめんなさい。お客さんが来たので。また連絡しますね」と王さんは電話を切った。

あるいはボクが幸運で、いい人ばかりにあったのかもしれない。あるいはボクが表面しか見ていなくて、ほとんどの人が穏やかなように見えたのかもしれない。もしあと何日か台湾にいれば、きっと嫌なところも見ただろう。なんかの危機が古くさいとか、民族主義が吹き出しているところとか、人々の恨み言とか、いろんな問題とか。完璧な地域、制度、文化なんてない。華人の住む世界の中で台湾が最高じゃないかもしれない。でも台湾よりいいところがないのは確かだ。

この文章では政治や体制については書きたくない。中国本土からやってきた作家として、ボクは本当にがっかりしているだけだ。この失望は数日の旅行によるものではない。ずっと感じてきたことだ。

ボクは自分の生きてきた環境に失望している。最初の何十年間は残酷になることと闘争だけをおしえられ、それからの何十年間は貪欲さとわがままだけを追求してきた環境に。ボクたちの多くは骨の髄までこの種のことを叩き込まれてしまった。

親世代が文化を破壊し、伝統的な美徳を破壊し、人間同士の信頼を破壊し、信仰と共通認識を破壊したのに、美しい新世界を作り上げられなかったことにボクは失望している。子ども世代のボクたちには、この損失を取り戻すことができるのか、それとも破壊が続くのか、まったく分からない。

ボクたちの子どもたちは互いに傷つけ合うのではなく互いに理解できる世界に生きていけるのだろうか、それが分からないことにも失望している。

一人の作家としては、この文章を書く際にもどこかで一線を越えてしまわないように(中国政府の検閲対象にならないように)考え続けているけど、そのことにも失望している。

台湾の人々が善意を向けてくれた時、ボクの最初の反応がなにかの陰謀ではないかという疑念だったことにも失望している。

中国本土の文芸作品が台湾ではそんなに流通していないこと。流通しているのは中国本土の歴史の真相や社会批判といった類の本ばかりということにも失望した。もっと失望させられたのはそうした本をボクたちが買って帰って、自分たちについてより深く理解するってことだ。利益と闘争以外のことについて、ボクたちはほとんど関心を持たない。この冷たさとでたらめさが生み出したニュースを、世界各国の新聞はトップで報じている。政府の過ちとも言えるけど、この民族のレッテルになっているのも事実だ。
そうだ。だからボクは香港と台湾に感謝する。彼らは中華の文化を守ってくれた。この民族の美しい風習を残しておいてくれたんだ。社会の草の根にあったいろんなものが災害から免れたんだ。

彼らにもあれやこれやの悪弊があるだろう。でもボクたちは?ボクたちにはリッツ・カールトンとペニンシュラがある。グッチとルイ・ヴィトンがある。ボクたちの県長夫人はあるいは台湾で一番偉い政治家よりも金持ちかもしれない。ボクたちが適当に作った大作映画の制作費で、台湾なら20~30本の映画が撮れるだろう。ボクたちの万博、五輪。彼らには永遠に開くことができないだろう。

でもね、台湾の街でタクシー運転手、ファーストフードの経営者、通行人たちに出会って、ボクにはまったく誇らしい気持ちは起きなかった。ボクたちが持っているモノすべては彼らが持っているものだ。ボクらが自慢しているモノ、台湾の納税者たちはそれを作ることを許さないだろう。ボクらが失ったものを彼らはまだ保存している。そしてボクたちに欠けているものこそ、人に誇らしさを与えるものなんだ。

文化、法制、自由は民族のすべてだ。あなたの国の大富豪がバカみたいにスーパーカーやら豪華ヨットやらを買ったとしても、他国の人はあなたの国の国民を尊敬したりはしないだろう。エアバス330に乗り込んで高度2万フィートの空を飛べば、たった1時間半で上海に着く。窓の外は海が広がっている。ボクたち(と台湾)はともに太平洋の風に吹かれているのだ。ならばその風にすべてを吹き飛ばさせよう。

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 コメント一覧 (2)

    • 1. pk
    • 2012年05月26日 19:08
    • 台湾でコレなら、日本に来たら発狂するなw
    • 2. かじごろ
    • 2012年05月29日 05:28
    • 3 台湾国は中華の文化など守っては居ない。
      台湾国が受け継いで来たのは台湾の素晴らしい
      伝統と旧きよき日本の純粋性だよ。
      だから戦後も日本統治時代の教育勅語を大切にした。

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