中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年05月24日
*蘇寧易購のトップページ。
■中国IT企業の広告合戦
先日、北京市・天津市を訪ねていた。いつもチェックしてしまうのが街頭広告だ。地下鉄に乗る時などわざわざ広告をみるためにふらふらする変な人になってしまう。
中国の広告の特徴の一つにIT企業系の広告の多さがある。日本だと大手以外はなかなか広告を展開しない印象があるが、有象無象のプレーヤーがひしめいている中国ではウェブ広告はもちろん、街頭広告、印刷物、テレビCMでも無名のIT企業の広告が並ぶ。
もちろん広告費がかさむのだが、そこでさぼると生き残れないとされている。先日、サービス停止が決まった楽天と百度の共同運営サイト・楽酷天の失敗の理由も「広告費をケチったため」とも指摘されている。
さて、IT企業広告の中でも見かける回数が多かったのが中国家電最大手・蘇寧電器のECサイト・蘇寧易購の広告だった。
■蘇寧の仁義なき価格戦争
ラオックス買収で日本でも一躍有名になった蘇寧電器。もともと国美電器に次ぐ二番手だったが、国美の創業者・黄光裕氏が株価操作容疑で逮捕されるなどライバルがもたついている間に抜き去り、2009年に中国家電量販店ナンバーワンの座をつかんだ。今やその座を揺るぎないものにしている。
日本のヤマダ電機、米国のBEST BUYなども中国に出店しているが、もう追いつけないとの意見が多いようだ。しかし蘇寧の敵は今や他の家電量販店ではなく、ネットだという。
「B2C分野の覇者の変化」(IT時代週刊、2012年5月5日)によると、2012年第1四半期に中国の家電量販チェーンの売り上げは前年同期比30%の減少となった。一方でネットショッピング市場は大きく成長している。
だがネット分野では蘇寧はむしろ後発に属する。中国のB2C業界トップはアリババ旗下のTモール(シェア35.7%)。2位は家電販売サイトからスタートした京東商城(13%)。3位の蘇寧易購のシェアはわずかに2.4%でしかない。
蘇寧は2012年にライバル・京東を追い抜くという野心的な目標を掲げ、大価格競争をしかけているという(
「蘇寧易購が業界を動かす=EC業界4月に再び価格競争」(IT時代週刊、2012年5月5日))。4月のセールでは全商品を20%引きにするというセールを行ったほか、新型iPadのプレゼント、自社のネット決済サービス、易付宝でのチャージに対する商品券プレゼントサービス(100元チャージすると100元分のサービス券がもらえるというもの。250元~500元の商品では50元、500元以上の商品では100元のサービス券が使用可能)。さらには10億元(約130億円)以上を投じての激安商品投入でしかけた。
5月以降も新たなセールをしかけている。文字通りの出血大サービスだが、それだけに目標も高い。売り上げを2011年の59億元から5倍増となる300億元に拡大。京東を抜き、業界2位に躍進することを目指している。
■勝者は誰か?
家電ネット販売サイトの覇者をめぐる戦い。蘇寧と京東のどちらが勝利するのだろうか?
上述の「B2C分野の覇者の変化」は、蘇寧に分があると見ている。スタートが遅れた分、現在の売り上げでは遅れをとっているものの、体力的には圧倒的に京東を上回っていること。実店舗とネットと合わせて大量に仕入れることができるため仕入れ交渉で優位に立てること。さらに全国各地に店舗を擁しており、物流網の整備ではむしろ優位に立っていることが大きいという。
だが蘇寧か国美かの2択だった家電量販チェーン戦争とは異なり、家電販売サイト戦争、ひいてはECサイト戦争にはまだまだ多くの不透明性が残されている。最近、中国メディアでよく指摘されているのが、ECサイトのトレンドがB2Cからプラットフォーム型に移行しているという点だ。
アマゾン、蘇寧易購のように仕入れから販売まですべて自社で受け持つよりも、楽天、タオバオのようにプラットフォームだけ提供して利用料を徴収するほうが圧倒的に利益率が高いのがポイントだ。
さらにネットショップへの動線として、今後ますますソーシャルメディアの比重が高まるとも見られている。中国最大のチャットサービス・QQを擁するテンセントは複数擁していたECサービスをQQ網購に統一する方針を発表。ソーシャルにシフトする姿勢を鮮明にした。中国マイクロブログ大手・新浪微博は利益モデルを打ち出せないまま投資を重ねているが、着地点はやはりECだという。
まだまだ先が見えない戦いだけに、将来の覇権を目指して多くの企業が参入し、また投資家も金を突っ込む。その金は価格競争や広告の乱舞という形で一般市民の前に現れる。それが中国の現状だ。チキンレースに挑んでいる企業の皆様は大変だろうが、消費者の側からすると活気があるわ、お得な掘り出し物をゲットするチャンスがあるわで楽しくて仕方がない。
ポストバブルの時代を生きる日本人にはなかなか味わえない空気感で、ちょっぴりうらやましいのであった。
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