中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年05月25日
*中国フォント制作大手・方正字庫のウェブサイト。
私は中国雑誌ウォッチングも趣味としている。中国の雑誌は日本と比べてデザイン性が低いのが特徴。それがデザインにこだわらない電子化を有利に進めるというメリットもあったりするのだが、それはそれとして、デザイン性の低さの理由として、フォントの貧弱さもあるようだ。
■フォント訴訟と混乱
2012年4月23日、中国中国語情報学会とフォント制作企業は共同で著作権法改正案 にフォントが美術作品であり、フォントセットがコンピューターソフトウェアであることを明示するよう求める声明を発表した。
漢字の国・中国だが、フォントの保護意識はきわめて低いという。一般個人及び零細企業が使用料を支払わないのは当たり前。ちょっとググると大量の無料ダウンロードページが出てくる。それどころか、大企業すら使用料を支払わず、裁判になってもフォント制作企業の主張が認められないという事例が相次いでいる。
2007年、中国フォント制作企業大手・方正字庫は、ブリザード・エンターテイメント社を告訴した。世界的な大ヒット・ネットゲーム「ワールド・オブ・ウォークラフト」の中国語版に、同社のフォント5種が無断使用されていることが発覚したためだ。すでに一審判決が下されているが、裁判所は権利侵害を認めて140万元(約1820万円)の支払いを命じたものの、フォントはプログラムではなく、「コンピューターソフトウェア保護条例」の対象ではないとの判断を示している。現在、賠償額をめぐって二審が進行中だ。
2008年には、世界的家庭用雑貨品メーカー・P&Gのシャンプー「飄柔」(リジョイス)のロゴに方正字倉のフォントが無断使用されているとして裁判となった。一審では方正が勝訴したものの、「フォントセットは著作権法が定める美術品の要求を満たしているものの、一文字単位では美術作品とは見なせない」という不思議な解釈が示された。そして二審判決では「一文字単位では~~」についての解釈は示されなかったものの、P&Gは「暗黙の了解を得ていた」との解釈で、方正が敗訴した。
漢儀公司が、あるベビー用寝具企業が「笑巴喜」の3文字を無断使用としたとして訴えた裁判では、「笑」と「喜」は美術作品として認められたが、「巴」は認められなかった。漢字の形がシンプルすぎる、ということのようだ。
裁判ごとに不思議な解釈が飛び出るフォント訴訟。方正の黄学鈞・業務副総経理はフォント業界をめぐる法解釈が混乱しており、訴訟ごとに異なる論理が示されていることが問題だと指摘する。
■日本に水をあけられた中国のフォント業界
海賊版が跋扈し、使用料を支払われない無断使用が続く中、中国のフォント制作企業の数はかつての十数社から数社にまで減少している。中でも一定の規模を備えた企業といえば、方正の他に漢儀公司しかないが、同社も2002年以降新作を作らず、企業活動をほぼ停止している状態だという。
漢字の国・中国。しかしフォントセットの数は421種類と、日本の2973種類に大きく水をあけられている。日本の知的所有権制度は整備されており、フォント制作企業各社はコンテストを開いて新たなフォントを募集するなど、盛んに活動している。また大学など研究機関による字体の基礎研究でも日本に遅れをとっているという。
*追記:
ツイッターで鈴木康介さんからご指摘をいただきましたが、日本でもフォントというか、書体(=タイプフェイス)そのものには著作権が認められていないとのこと。ただしコンピューターで使用できるフォント(=プログラム)という形で保護されているとのこと。南方週末記事では「日本すばらしい」と絶賛ムードだったわけですが、他国と比べて先進的な法制だからというわけではないようです。
(参考リンク:「タイプフェイスには著作権がないの?なら、フォントをコピーしてもかまわない?」With D、2008年11月14日)
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