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「官僚の適度な汚職は許すべき」?!環球時報の大胆すぎる社説が話題に―中国

2012年05月31日

人民日報社旗下の日刊紙、すなわち中国共産党の準機関紙である環球時報が「中国の適度な腐敗を許さなければならない、民衆は理解するべきだ」との社説を掲載。話題となっている。


■超ド直球の環球時報社説

環球時報といえば、人民日報社旗下という立場にもかかわらず、怪しげな記事を連発するわ、煽り爆発の「ナショナリズムくすぐり」ネタを投下するわ、で知られる発行部数ナンバーワンの最強日刊タブロイド紙。それにしても「要允许中国适度腐败,民众应理解(中国の適度な腐敗を許さなければならない、民衆は理解するべきだ)」という社説はさすがにやりすぎではなかろうか?

実はちょっとしたカラクリがある(RFIを参照)。

環球時報社説の原題は「反腐敗は中国社会発展の陣地攻撃戦」というもの。これを騰訊網が「民间应允许中国适度腐败(民間は中国の適度な腐敗を許すべきだ)」と改題して転載。さらに人民網が騰訊網から転載する際に「要允许中国适度腐败,民众应理解(中国の適度な腐敗を許さなければならない、民衆は理解するべきだ)」と改題した。

笑えるのが人民網の記事は自動的に環球網に転載される仕組みになっているという。かくしてめぐりめぐって環球網に「中国の適度な腐敗を許さなければならない、民衆は理解するべきだ」という社説が登場したのだった。

この笑い話にしかならない事態に環球網は激怒。騰訊網にクレームを入れた。騰訊網は謝罪声明を発表し、転載文のタイトルを「民間は中国の現段階における腐敗の現実を理解するべきだ」に変更している。謝罪しつつもかなり突っ張ったタイトルであまり本気で謝る気がないところが面白い。

20120531_写真_中国_環球時報_汚職

■環球時報社説の内容

さてその社説の内容だが、劉志軍・元鉄道部部長の共産党党員除籍の話題から始まり、中国に汚職が蔓延していることを指摘する。そして

中国は明らかに腐敗(汚職)の頻発期にある。徹底に的に腐敗を完治させる条件を現在は備えていない。ある人は「民主」さえあれば腐敗問題は一発解決するというが、それはあまりにも素朴というべきだろう。アジアにはインドネシア、フィリピン、インドなど多くの「民主国家」があるが、その腐敗は中国よりもはるかに深刻だ。

と続ける。アジアの「民主国家」に日本や韓国の名前が上がっていないのは、それでは説得力を持ち得ないと考えたためだろうか。環球時報に日本国の清廉国家認定をしていだけたようで嬉しいかぎり。

閑話休題。その後は中国には「人民のために服務せよ」という政治道徳があるため腐敗の痛みがより強く感じられるとか、シンガポールや香港のように官僚の給与を引き上げて清廉な官僚にすることも中国世論は許さないだろうとか、官僚だけではなく医師や教師にもグレーゾーンの賄賂(灰色収入)を受け取る風習がはびこっているだとか、言い訳的な話を連打。

この後に続くのが「適度な腐敗を許すべき」(騰訊網の正しすぎる要約?!)という結論だ。

腐敗分子を厳しく調べ上げ取り締まらなければならず、手を緩めてはならない。こうすることで腐敗のリスクとコストを引き上げることができ、必要な威嚇効果をもたらすだろう。政府は腐敗の減少を官僚監視の最大の目標としなければならない。

民間は世論の監督を強化し、政府が反腐敗を進める動力を高めなければならない。ただし同時に現段階において中国は腐敗を取り締まることことができないという現実的、客観的事実を理解し、国全体が痛みに苦しむ迷いへと陥ることを避けなければならない。

これは反腐敗が重要ではない、今後の課題とするべきだという主張ではない。真意はその反対で、反腐敗は中国の政治体制改革の最重要問題であり、国家全体で追求すべき問題だと考えている。
しかし反腐敗の徹底や改革が完全な形でできるとも考えていない。それは「発展」によって解決の手助けが必要なものなのだ。それは汚職官僚自身の問題でもあり、制度の問題でもある。いやそれだけではない。腐敗は中国社会の「総合的発展レベル」の問題なのだ。

反腐敗は中国社会発展の陣地攻略戦(天王山)であるが、その戦いに勝利するか否かは他の戦場で各種障害を排除できるか否かにかかっている。中国は官僚は清廉だが、その他の面では遅れている国とはならない。そのような国は長続きしないだろう。反腐敗は中国の突破口であるが、しかしこの国はつまるところ「総合的に前進」するしかないのだ。


■環球時報のワンパターンな論法

個人的には民主主義を導入するだけで汚職が消滅するとは思わないし、官僚の汚職以外にも問題が多々あることは事実であろう。危険球を投げつつも、一部読者には届きそうな論説をのっけるのが環球時報の面白いところ。紙版、ネット版を問わず熱心な読者が多いのもうなづける。

その頑張って婉曲的に書いた社説を「適度な腐敗を認めよ」とスパッと要約されてしまっては怒るのも無理がないところだろうか。

ちなみに「中国は**するレベルに達していない」という話し口は環球時報の十八番。昨年末に中国ネット論壇に議論を呼び起こした人気作家・韓寒の一連のブログエントリーは、「革命するには民度と公共心が足りない」という主張から始まるが、これは環球時報パターンをパロディにしたものだと私は考えている。当時、環球時報が「韓寒も大人になった」と大喜びしたのもむべなるかな、だ。

さて、この環球時報の社説について、雑誌「南都週刊」編集長の西門不暗氏が一刀両断のつぶやきを書いているのでご紹介したい。

環球時報の三板斧(ワンパターンのやり口)。民族主義の立場からは「中国台頭論」を喧伝。民生の立場からは「複雑な中国」論を強調。そして民主の進展の立場では「特殊な中国論」を堅持。

それぞれの論考については、「おっ」と思わせるものがあったとしても、ナショナリズムを煽る時は「中国は台頭した、大国になった」と自慢し、民生(人民の生活)問題については「いやー中国も複雑だからなかなかすぐには解決しないよね」と逃げ、民主主義の話になると「中国は欧米とは違うから!特殊だから」と言い立てるという仕組み。

大国と途上国の立場を都合良く使い分かる中国政府同様、よく考えると「一貫してないんじゃね?」というツッコミであろう。

*余談
「三板斧」の意味について、ツイッターでご教示をいただいだ。三板斧(別名は馬戦斧)は古代の武器。「ワンパターンのやり口」という意味は隋唐演義の登場人物・程咬金に由来するという。程は夢の中で三板斧の使用法を学んでいたところ、途中で人に起こされてしまい、3つの技しか習得できなかった。しかしその技だけでも十分強力だったことにちなんでいるという(百度百科)。

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 コメント一覧 (1)

    • 1. 憂国の志士
    • 2012年06月01日 08:54
    • やっぱり日本人と中国人の考え方って違うんだな。日本だったら、「公務員として給料貰ってるんだから、賄賂なんて貰えない」だけど、中国だと「ワイロもらって当然だろ。そのために公務員やってるんだから」なんだろうな。考え方っていうより、遺伝子レベルで異なってるようだな。

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