■気がついたら中国政府がリーマンショック対策を間違いだと認めていた件について■
■栄光の「4兆元出動」がいつのまにか失政と評価されていた点について
2012年5月29日、新華社は今回の景気刺激策について「大規模な景気刺激策を推進することはない」との記事を掲載した(財新網)。
2008年から2009年の「4万億」(4兆元=約52兆円)財政出動に代表される、一連の「保増長」(成長保持)プランとは異なり、今回の「穏増長」(安定した成長)プランは、低効率の投資、資産バブル、インフレの再現といった3年前の問題を繰り返すことはない。(安定した成長プランの)主なやり方は、合理的な社会投資規模を保ち、鉄道、行政、エネルギー、電信、教育、医療などの分野に民間投資の参入を奨励することにある。
というのがその骨子だ。
リーマンショック後、中国政府は4兆元という大規模な財政出動を明言。世界的な称賛を集めるとともに、「世界で最も早く景気低迷から脱出した」と温家宝首相が成果を誇った大成功の政策だったはずだった。
ところがその後、風向きが変わる。4兆元出動に伴う過剰流動性でインフレが出現した。むやみな投資で無意味な低効率のプロジェクトが実施され、地方政府や中国鉄道部に代表される債務増加につながったと批判されるようになったのだ。
今回の新華社記事は管見の限りでは中国政府自らが4兆元出動の過ちを初めて認めたものとなる。いわば温家宝首相の経済運営を間違いだったと認めているわけで、大変興味深い。
しかも「安定した成長プラン」自体が昨年から続く金融緊縮を微調整するもの。欧州金融危機に伴う外需不振という要素もあるにせよ、4兆元出動の副作用であるインフレを退治するための緊縮政策が効き過ぎてしまったという評価が一般的だ。いわば温首相の経済運営は二重にミスを繰り返したことになる。まだ在任中に新華社からこんな記事が出されてしまっては、ラストイヤーを迎えた温首相の歴史的評価は「経済オンチ宰相」で固まりそうだ。
■安定した成長プランの中身
さて、問題の「安定した成長プラン」がほどほどの位置をキープできるか、が今後の焦点となろう。ロイターが「
中国の最近の景気刺激策」という大変わかりやすい記事をまとめている。
消費対策としてはエコ家電・エコカー・小型車の補助金。それに記事にはないが「構造的減税」となりそう。投資対策としては再生可能エネルギー振興資金の積み増し、第12期5カ年計画の各種投資プロジェクトの前倒し着工があげられる。
この他に新華社記事でもあげられていた公共部門、国有企業独占分野への民間資本導入奨励というネタもあるが、これは果たしてどれだけ実現性があるのか、民間資本の獲得が狙いなのか、それとも市場システム導入による効率性向上が目的なのか、いまいちぴんと来ない話だったりする。
■「ほどほど」が難しい中国
構造的減税やら民間資本導入やら新鮮味のあるネタが取りざたされているが、結局のところ、短期的に効く政策は財政出動、公共投資の拡大しかない。財政出動自体は間違いではないはずだが、問題は意図した範囲にコントロールできるかどうかであろう。
そもそも上記新華社記事は、観察者網の記事「
国家発展改革委員会が(金融緩和の)バルブを緩めた=スーパー投資ブーム再臨」に反論する目的で掲載されたもの。観察者網によると、中央政府の経済政策転換を悟った地方政府がプロジェクトの許認可権を持つ発展改革委員会もうでを続けている。道路の建設やら企業の工場建設やら、やりたくても緊縮ムードの中で認可が下りなかったプロジェクトを実施するチャンスだと殺到しているのだという。
なにせ図体のでかい中国。いかに中央政府が「ほどほど」を志向したとしても、下がその意図に従ってくれる保障はない。
■手ぐすね引いて待っていた地方官僚
ほどほどではすまず、またまたクレイジーな投資ブームがくるのではないか。そうした不安を象徴的に示す1枚の写真がある。
これは2012年5月27日、国家発展改革委員会で製鉄基地プロジェクト建設認可の文書をもらった広東省湛江市の王中丙市長。喜びのあまり文書にキスをしている(
財経網)。その異常な喜びっぷりに、思わず「ビッグプロジェクトで、うちの地域のGDPバカ上がり!ワシの政治業績も花マルや!」との台詞を書き込みたくなってしまう。
王市長のように大型プロジェクトを通すため、経済政策が緊縮から緩和に転じるチャンスを待ち望んでいた地方官僚はごまんといるだろう。それを一発で分からせてくれる秀逸な写真である。
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