2012年5月25日、ハリウッドのSF映画「
メン・イン・ブラック3」の世界一斉ロードショーが始まった。中国でも公開されたが、約13分が検閲によりカットされ話題となっている。
庐山恋电影院 / 武铁辆玻
中国系エイリアンはダメ?『メン・イン・ブラック3』が中国の検閲で13分カット
英デイリー・テレグラフ紙によると、中国政府がカットするよう指示したのは、ウィル・スミス演じるエージェントJが中国人の見物人の記憶を消すシーン。記憶を消されるシーンは過去の『メン・イン・ブラック』シリーズにも出てきたが、その相手が中国人となると話は違うようだ。
このシーンが、社会の安定を保つためという名目で、中国政府がインターネットを検閲していることを暗に示しているからカットされたのかもしれない、と中国のサザン・デイリー紙は報じているが、製作側にそのような意図があったかどうかは不明だ。
ロサンゼルス・タイムズ紙によると、エイリアンが中華料理店の従業員に化け、ウィル・スミスとトミー・リー・ジョーンズとの撃ち合いになる2シーンもカットされたとのこと。ハリウッド映画が中国で検閲されるのは珍しいことではなく、映画『M:i:III』では上海の街で窓に洗濯物が干されているシーン、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』では敵を演じたチョウ・ユンファのシーンなどもカットされている。
6月1日付RFAによると、検閲を担当した中国国家ラジオ映画テレビ総局は「中国人のイメージを損なうため」と説明しているという。明らかに考えすぎとしか思えないが、まあこの手のことを見逃していたら官僚のお仕事がなくなってしまうため、仕方がないのだろうか。
*余談ながら。シネマトゥディには「『タイタニック 3D』では、観客がケイト・ウィンスレットの体に触れようと手を伸ばし、それがほかの観客の鑑賞の妨げになるという理由で、ケイトのヌードシーンがカットされてしまったことも明らかになっている」との一文があるが、これは中国ネット民が作り出した「虚構新聞」。一度広がったデマはなかなか訂正されないようだ。
■「超訳」字幕も話題に
さて、「メン・イン・ブラック3」ではもう一つ、中国語字幕の「超訳」も話題となっている(
2日付法制晩報)。字幕を担当した賈秀琰さんは80後(1980年代生まれ)の若者。そのセンスを生かしてネットスラングを大量に盛り込んでいるという。
例えば、エージェントJ(ウィル・スミス)がエージェントK(トミー・リー・ジョーンズ)に道端のケバブを買うのはやめとけというシーンでは、「何度も言っただろ。露店はやめとけって。あいつらは下水油、痩肉精を使ってると思うぜ」との訳に。
他にも「坑爹」(日本アニメ「ギャグ漫画日和」の海賊版同人吹き替えが発祥のネットスラング。「してやられた」の意)、「傷不起」(ぼろぼろに傷ついてこれ以上は傷つけられないの意。日本語の「もうやめて!HPはとっくにゼロよ」か)、「Hold不住」(ある芸能番組発祥の単語。「この場を掌握できない」の意)などなどが使われている。
やりすぎ批判もあるようだが、好意的な意見のほうが多いようだ。ソニー・ピクチャーズの責任者は「超訳」はチャレンジだったが好評を得たと明かし、まもなく公開の映画「アメイジング・スパイダーマン」は「メン・イン・ブラック3」以上に中国人観客に「より親切で、より近づいた」訳を採用する方針を明かしている。
■表舞台に上がった80後ネット文化「80後」は中国のネット第一世代。お手軽な情報発信手段、コミュニケーション手段を得て、独自のパロディ文化を発展させてきた。上述のアニメ「ギャグ漫画日和」の海賊版同人吹き替えなどその典型と言えるだろう。テレビ東京系のアニメや「FATE ZERO」など昨年から中国で日本アニメの公式配信が実施される例が増えつつあるが、公式訳はネット文化を抑えていないとして不評を買う例も多い。
「メン・イン・ブラック3」の超訳字幕は、この中国ネット文化が同人吹き替え・字幕だけではなく、公式の世界にまで登場してきたことを示すものとなりそうだ。
もっとも若人には受けがいいかもしれないが、オッサン世代や外国人にとってはちょっときついのも事実。学校でお勉強して中国語をマスターしたぜ!ぐらいのレベルでは、中国の映画字幕は到底理解できない時代が来るのだろうか。
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