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2012年06月10日
*お互いの船を結びつけ、韓国海洋警察から逃走する中国漁船。2011年11月19日付、西祠胡同の報道。
■1月27日の摘発
2012年1月27日、中国漁船・浙台漁運32066号が済州島南部の韓国排他的経済水域(EEZ)内での違法操業により摘発された。
済州島海洋警察が同船を発見後停船命令を出したが、漁船は従わずに逃走を続けた。再三にわたる警告の末、海洋警察官が漁船に乗り込んだが、中国人船員は操舵室に集まり抵抗する構えを見せた。また銃を奪おうともしたので、威嚇射撃をし船員を取り押さえた。拘束する過程で衝突が起き、船員、警官の双方に負傷者が出た。同船は韓国EEZ内での操業に必要な許可証を掲示していなかった上、その他必要な書類も不足していた。船長が黙秘を続けたため、許可証についての確認はとれなかった。同船にはサンマ5トンが積まれていた。
というのが韓国側の説明。
一方、漁船の船長・王小富氏は黙秘などの事実はなかったと反論。海洋警察の暴力的な摘発により、王氏をはじめ中国側の3人が殴られて意識を失う重傷を負ったほか、寒空の下、軽装で甲板に放置されるなどの虐待を受けたと主張している。
■事件を複雑にする要因
事件をややこしくしているのが、通常の違法操業事件ではないということ。浙台漁運32066号は正規の操業許可を取得していたのだが、船長がそれを掲示しなかったというのだ。実際、当初は違法操業容疑で逮捕されたのだが、最終的に罪状は「漁獲物移動積載」となった。実は同船は漁船ではなく、漁獲物輸送船。他の漁船の漁獲物を洋上で買い取って持ち帰る船だ。
漁民側はサンマを買い取った事実はないと主張。また漁獲物移動積載の罪に問われたとしても、罰金は8000万ウォンではなく、3000万ウォンが妥当だとして差額を返還するべきと要求している。
■漁民という厄介な問題
今や中国外交において「漁民」はホットワードとなっている。尖閣諸島、南シナ海、そして黄海と、中国周辺のあらゆる海で中国漁民が外交問題の火種となっている。
韓国との問題では中国漁民の暴力的抵抗と韓国海洋警察の強行摘発が話題となった。2011年12月には漁民の抵抗により警察官が死亡。中韓両国で反発が広がる国際問題となった。
中国側に一方的な非があるように見えるが、中国国内では「貧しい漁民を、韓国の警察は完全武装でいじめている」との同情論が強い。今回の一件でも逮捕時の映像が公開されない限り、本当に漁民が暴力的に抵抗したのか分からないという主張もある。
尖閣諸島沖中国漁船衝突事故を思わせる展開だが、ビデオを公開したら公開したで、たとえ韓国側の主張どおりのシーンがおさめられていたとしても、警官と漁民の血で血を洗う死闘、威嚇射撃の一部始終が公開されるわけで、中国では反発が広がる可能性も十分に考えられる。
もともと厄介な問題だったのだが、中国漁民による訴訟という新たな展開によって、問題の糸はますます複雑にからまっていくのではないか。
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