中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年06月13日
kindle side view stand / jimmiehomeschoolmom
■中国の電子書籍事情
日本では何度かの「電子書籍元年」が過ぎたが、いまだに電子書籍はブレイクする気配がない。
中国では携帯電話による読書の盛り上がっている(携帯回線を契約すると電子小説のダウンロード権がもらえるというサービスもあった)ほか、ネット小説発表サイトが雨後のタケノコのようにできたり、、キンドルに似た電子書籍端末が大々的なプロモーションをかけるなど話題には事欠かないが、産業としてはまだまだブレイクスルーを果たしていないという。
中国電子書籍業界最大手の盛大文学(旗下に複数のサイトを抱える)は、ネット小説家の作品の場合には1000文字あたり0.05元(約0.6円)、一般書籍の電子版の場合は10元(約130円)以下で販売している。ネット小説家は文字数単位で報酬を得るために、その作品は往々にしてジャンプ漫画もかくやという長期連載になるのだとか。100万字越えの作品も珍しくないという。
盛大文学は2010年に販売部数が300万部を数え、売り上げは7億元(約91億円、2011年実績)に達した。悪くない数字のように見えるかも知れないが、例えばネットゲーム「穿越火線」は昨年だけで50億元(約650億円)を超える売り上げをたたき出している。話題の割にはたいしたお金にならないといったところだろうか。
■がっついていない不思議な中国IT企業・豆瓣
その電子書籍業界に新たに参入したのが豆瓣。5月7日、有料電子書店サービスを開始した。システム的には、1~2時間で読み終わるような短い分量を一単位として発売する以外、とりたてて珍しい仕組みはない。購入した書籍はパソコンのブラウザで読めるほか、iPadやアンドロイド端末でも読める。Amazonのキンドルに送れるサービスがあるのがちょっと便利で羨ましいぐらいだ。
違いがあるとするならば、豆瓣というコミュニティが独特な雰囲気を持ち、忠実なユーザーを多く抱えているところだろうか。豆瓣はソーシャルネットワークサービスだが、映画や音楽CD、それに本を単位としてスレッドが作られ、評価とコメントが書き込める仕組み。創業者の阿北はAmazonのレビューシステムをイメージしていたという(商業価値)。
その後、音楽や映画のダウンロード販売や個人作者の音楽公開機能などさまざまな機能が追加されていくが、中核サービスは今も作品レビューのスレッド。しかも長文の書き込みが多いのが特徴だ。
サイト「商業価値」は、「モデルをコピーし、金を集め、資金を突っ込んでアクセスを集め、再び融資を獲得し、最後に上場するか、買収されるか、あるいは大手に食いつぶされる」という中国ネットビジネス業界のモデルの中で、唯一、豆瓣だけがゆっくりと自分の道を歩んできたと評している。
文化コンテンツを軸としたレビューシステムが良かったのか、金儲け主義を全面に出さない空気感が良かったのかはわからないが、ともあれ今の豆瓣は濃いユーザーの集合体となった。ちゃんとレビューを書く人の数が多いだけではなく、長い、暑苦しい書き込みが多いことが特徴だ。
■異色のサイトの可能性
濃いということはその一方ですそ野の広がりには難点があるということ。ユーザー数は5000万人を超えているが、中国ネットサービスの中では必ずしも多いとは言えない。
だが、それだけにAmazonや盛大文学などの大手とは異なる、独自の電子書籍システムを築ける可能性もあるのではないか。現在、豆瓣が販売している電子書籍タイトルは約300と少ないが、豆瓣のユーザーの質に期待している作家や豆瓣のユーザーによる作品が販売されているという。
将来的には電子書籍業界もいくつかの大手に統合されていくのだろうが、その中でも生き残される可能性があるとすれば、独特の世界を持つところだけかもしれない。ユーザー数やら売り上げやらで華々しい数字をあげるサイトだけでが注目ではない。独自の道を歩む異色サイト・豆瓣が面白い。
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