認可の申請は多いけれども実際には作らない。中国の火力発電所建設でなんとも不思議な状況が起きている。
An Interesting Window View / JL Johnson | User47
火力発電所建設プロジェクト、3分の1に遅れ
中国国家エネルギー局は2012年6月13日、 夏季電力消費ピークに関する記者会見を開いた。席上、火力発電所建設で「積極的に認可を申請するのに着工は遅らせる」という問題について明らかにした。
今年1月から4月の火力発電所プロジェクト投資額(実施ベース)は208億元と、前年同期比で29.3%と大きく減少した。認可されたプロジェクトの3分の1で、建設ペースが予定よりも遅れているという。そのため今夏に投入される新規発電容量は1800万キロワットと例年よりも20%少なくなっている。
現在、中国で建設前期作業の認可を得た火力発電所プロジェクトは計1億2000万キロワット。6月期では過去最高水準となる。しかしうち55%は前期作業の認可を得てから20カ月以上経過したにもかかわらず、最終認可の条件を備えるにいたっていない。
建設の遅れは近年、火力発電所の赤字、融資困難、政策支援が減っていること、電力需要の伸びの鈍化が原因だという。
国家エネルギー局電力課の郝衛平課長によると、5大発電グループの火力発電所投資は2006年から半減、いや40%にまで低下している。先日、国家発展改革委員会、国家エネルギー局、5大発電グループは研究会を開いた。席上、当局による認可作業を強化するとともに、環境保護及び国土資源当局による協力を希望するとの方針が打ち出された。
郝課長は火力発電所投資の鈍化は工業の健全な成長に悪影響を及ぼすと懸念。「電力供給が不足してから建設するわけにはいかない。安定的な電力建設の規模を保持するべきだ」とコメントした。
■「電荒」の理由
本サイトでも何度か扱っているように、中国の「電荒」(電力不足)は珍しい問題ではない。急激な需要の伸びに供給が追いつかない、エネルギー価格は高騰しているのに電力小売価格の値上げは認可されないというのが恒例の理由だ。中国では7月1日から段階料金制度が導入されるなど一応の対策がなされているが、「実質的な値上げではないか」と非難囂々だが。
ちょっと面白いのは電力需要の伸びの鈍化が理由としてあげられているところ。最近話題の中国経済の成長鈍化についての懸念が広がっているということのようだ。
■エネルギー当局VS環境当局、政府内のバトル
ついでに記事では触れられなかった点について雑感をば。
第一に申請が多いという話。単純に電力事業が儲からないという話ならば建設しないだけでなく申請数も減るのが道理。それなのに申請だけはがんがん集まるという状況がいかにも中国的だ。官僚国家の中国では認可の書類をハンコをもらうのが一苦労。将来、火力発電所で儲けられる状況になった時を見すえて認可だけはゲットしておこうという発想だ。
第二に政策的支持が不足しているという話。民草のために安い電気料金で売っているんだからもうちょっとお助けくだされという話なのだが、これもどう助けるかが結構難しい。例えば火力発電所向けに特別に安い石炭を売る支援というのもあるのだが、この石炭を儲からない火力発電所に儲かるよりも、他の企業に横流ししたほうが儲かるなんていうアルバイト(?)も流行している。
第三に環境当局も認可に協力せよというお話。ここ数カ月、海南省では断続的に火力発電所反対デモが起きている。武装警官隊が催涙弾で鎮圧するなどほとんど暴動のような状況だという。環境意識の高まりとともに、火力発電所、ゴミ処理場、火葬場といった施設は強力な抵抗に遭うことが多い。環境当局は他の部局と住民との板挟みの状況とも言える。国家エネルギー局は記者会見という公の場で、ちくり小言を言ったわけだが、水面下では相当熾烈ななバトルが続いている。
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