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中国オタクコミュニティが作り上げた「アニメ理解」の輪=「Fate/Zero」の成功を考える(百元)

2012年06月17日

■中国オタク的疑問「なぜFate/stay nightのアニメは盛り上がらなかったのだろうか?」■

*本記事はブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」の2012年4月28 日付記事を、許可を得て転載したものです。


■「Fate/Zero」の中国公式ネット配信が復活

中国での公式ネット配信が突然お取りつぶしにあったアニメ「Fate/Zero」ですが、最後の数話を残す所で突然復活(?)したという話を教えていただきました。今回は最初の頃に配信していたbilibiliではなく、別の動画サイトの「楽視網」で配信されているそうです。

20120617_写真_中国
*楽視網の配信ページ。日本からアクセスすると再生できない。

さて作品の大人気っぷりに加えて、日本との同時配信に関するゴタゴタなど、「Fate/Zero」は中国オタク内でも非常に話題になる作品です。しかし「Fate/Zero」のスピンオフ元である「Fate/stay night」のアニメは放映された当時、あんまり盛り上がらずに終わってしまいました。

その当時のことを知っていると今の盛り上がりが不思議に思える中国オタクもいるようで、中国のソッチ系の掲示板では「なぜFate/stay nightのアニメは盛り上がらなかったのか?」といったことについてのやり取りが行われていました。

そんな訳で、今回はその辺についてを例によって私のイイカゲンな訳で紹介させていただきます。


■中国人オタクの議論

ウチの国のオタクの間で、4月の新番組で最も人気が出たのは「Fate/Zero」でほぼ間違いないと思うんだが、なんで「Zero」はこんなに人気になったんだろ?セイバーなんかはキャラの人気は昔から高かったが「stay night」のアニメの時って、番組自体はあまり人気にならずに終わってしまったように思う。なぜ「Fate/stay night」のアニメは盛り上がらなかったのだろうか?

前のアニメは、06年だっけか。確かにあの当時、キャラの人気や知名度はそれなりに高かったけど、一部のマニアの間で騒がれただけで終わっちゃったよな。その後の劇場版の時も、話題にはなったけどファンが増えて盛り上がるってことは無かったし。

アニメの質がZeroの方が良いからとかじゃないか?テレビ版の作画は劇場版より崩壊していないけど、Zeroと比べると劣る。

「Fate/stay night」全般的にリズムが悪かったような印象。あと所々崩壊している。ただ、劇場版よりはまだ良心的だったね。

さすがにソレは言い過ぎでないかい?劇場版は当時作画崩壊を騒ぎたい連中が動きの途中の一枚を抜いて騒いでたてのがあるように思う。実際に動いているのを見ると、劇場版は悪くないよ。あと、「stay night」の方も今のレベルと比べると厳しいが、昔見たときは作画的にそこまで気にはならなかった。音楽とかは十分に良かったな。

言ってしまえば「stay night」の方は盛り上がるような内容の作品じゃなかったから。当時、第一話見てあんまりおもしろいと感じなかったんであっさり見るのやめたヤツが俺も含めてかなりいた。せいぜい普通のアニメレベルだから、自分の趣味に合うとか原作に思い入れでもないと見るヤツはいなかったんじゃないかね。

「stay night」のアニメはストーリー展開も、キャラ描写も原作知っていると逆に微妙だったり……てかストーリーにオリジナル要素混ぜてきたのにはガックリ来た。ただ、当時の状況を考えれば悪くは無いレベルだったとは思う。

ウチの国の普通のオタクにとってそこまで魅力的じゃなかったし、原作知っている人間(中国語化パッチまだ出ていないし、当時どれだけいたか分からないが)にしてもアニメ版は原作ぶった切り過ぎだから、人気にならなかったんじゃないかな。

いや、原作組の不満は「Zero」の方もかなり多いぞ。聖杯問答の時はウチの国でも原作党が騒いだし、所々で燃え上ったりしている。

考えてみれば、作品のクオリティや原作再現とか考えても、ここまで大きな差が出るのは不思議だな。

今にして思えば、「Fate/stay night」のアニメ派原作知識が無いと楽しめない作品だったんじゃないか?

それは劇場版の「UBW」の方だろ。アレは、何て言うか本当に原作知識前提の極端な作り方だった。ただバトルシーンはよかったんで個人的にはスパロボの良質な戦闘アニメを見て満足したような不思議な気分になった。

作品自体に関しては当時わりと不思議な人気というか知名度ではあったね。ゲーム遊んでないヤツ多いのに知名度は高いし、キャラ人気も高かった。でも、知られているのはあらすじ程度で詳しい内容はあまり知られていないかった。

あの頃も「Fate/stay night」のアニメにハマってオタクの深みに向かったヤツはそれなりにいたぞ。一応その前に「月姫」のアニメ版もあったわけだし流れが全く無かったわけじゃない。

だって、あの当時って「中国語にきちんと翻訳されたストーリー」が無かったじゃないか。固有結界のUBWやアーチャーの正体なんかはネタバレで知られていたけど、それを作品のストーリー上で知ったのは非常に少なかったと思う。月姫も原作をきちんと知っているヤツは少ないし。あの頃は今ほどオタクの翻訳能力が高くなかった時代だったんだよ。

そういや、「空の境界」は最初から中国語があったんで盛り上がれたってのはあるかもな。「空の境界」でようやくウチの国のオタクの認識の中にTYPE-MOON世界が形成されたと思う。

選択したルートの問題もあったんじゃないか?こっちでウケているHFやUBWルートだったらまた評価は変わったと思うが。

いや、そもそも「stay night」ってアニメ化の素材としては「Zero」より扱い難かったんじゃないか?原作はゲームでの演出に合わせた内容になっているから、士郎の一人称視点で進むし、場面の区切りもゲームに合わせて独特、ストーリーも長い。一応「Zero」の虚淵玄もゲームシナリオ書いているけど、「Zero」は完全に小説形式になっている。実際、読んで理解するだけなら「Zero」の方が遥かに分かりやすい。

まぁとりあえず、作品自体が微妙な出来だったってのが最大の理由じゃないかな。当時自分は途中で脱落してしまったんだが、アニメでは説明しきれていない設定も多そうだったし、リズムも悪いしでよほど好みに合わないとハマれない作品だと感じた。

自分も「日本のオタク界隈で大人気の作品」ってことで見てみたけど、期待外れだったね。あと当時、中国語化パッチも出ていないからゲームの方に手を出せるのは日本語能力が高い人間だけだったな。

うーん、自分は大学に入ったばかりの頃に見てハマったからあのアニメ版もそんなに嫌いじゃないんだよね。問題点も多いのは理解しているが。

こう言ってってはなんだけど、ウチの国のオタクの間では「Fate/stay night」に関しては新規のファンが入り難いように思うし、それも影響しているんじゃないか?ウチの国のオタクの間ではUBWルートを喜ぶのは分かっていないヤツで、HFルートが「Fate/stay night」の神髄だと評価するといった空気があるが、HFはちょっと分かり難いわ鬱ルートだわで一般ウケはしないと思う。そういう空気では新人は入れないんじゃないかな……

私自身は「Fate/stay night」のアニメでオタクになったりしているしそれなりに影響力はあったと思うんだよね。もうかなり昔だし、当時のことを覚えている人間が少ないのもあるんじゃないかね。自分は「Fate/stay night」のアニメのおかげでTYPE-MOONの世界にハマれたので、今でも非常に心に残っている作品だ。

とまぁ、こんな感じで。


■中国人オタクに広まったTYPE-MOON系

中国オタクの面々も、今の「Fate/Zero」の盛り上がりと「Fate/stay night」のアニメ放映当時の微妙な状態の差の理由についてはちょっと首をかしげているようです。

現在の中国オタク内での「Fate/Zero」人気の流れについては、元々中国オタクのディープな層は「空の境界」でTYPE-MOON系の伝奇世界にハマっているのが増えてきていた所に、「まどか☆マギカ」で中国オタクの中の虚淵玄作品への注目が高まり、満を持して期待通りの高クオリティの作品が投入……といった所でしょうか。

ただ、アニメ版放映当時も中国オタク内での「Fate/stay night」の知名度や人気が低かったわけではないんですよね。06年の中国のアニメ系ポータルサイトでの年間人気投票で女性キャラ部門の1位がセイバーでしたし、同時期にあの「邪神セイバーフィギュア」が中国オタク内でもネタになっていたかと思います。

中国でのアニメ人気投票 「MVG2006我最喜愛的遊戯動漫評選」
中国のアニメ雑誌付録にセイバーのフィギュア…大陸に邪神降臨?


■オタクコミュニティの成立が大きい

個人的には、この盛り上がりについては作品の良し悪しの他に「中国オタクコミュニティの形成の有無」も大きかったのではないかと思います。

このブログでも何度か触れていますしまとめ本の方にも書いていますが、現在のような中国オタクのネットを中心としたコミュニティや視聴スタイルが確立されたのは「涼宮ハルヒの憂鬱」以降なので、中国オタクの動きはそれ以前と以後で大きく異なります。

中国オタクのコミュニティが形成されていないということは、日本の作品の知識の共有や、作品の理解や考察のためのやり取りが行われないので、作品の面白さが現在に比べて伝わり難いということでもあります。

当時の状況を思い出してみると、「Fate/stay night」という作品に対する中国オタクの認識も混乱していまして、例えば初期の頃はセイバーの中国語名がなぜか「騎兵」という誤訳で中国オタク内に広まってしまうというようなことも起こっていました。こういう初歩的な間違いは今の中国オタク内ではまず考えられませんね。

「Fate/stay night」が放映されたのは中国オタクに対してハルヒの影響が出る前ですし、まだネットにおける中国オタクコミュニティもあまり大した形にはなっていませんでしたから、作品の人気の拡散についても「Zero」と比べて大きな差が出たかと思います。そういった所から「マニアの間で高評価な作品」に留まってしまったというのはあるのではないかと。

それにしても、今回の「Fate/Zero」の人気と「Fate/stay night」放映当時の状態を比べてみると、中国オタク達の様々な部分が変化しているのが見て取れて、イロイロと興味深いですね。

とりあえず、こんな所で。例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。

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*本記事はブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」の2012年4月28 日付記事を、許可を得て転載したものです。   

 コメント一覧 (2)

    • 1.  
    • 2012年06月17日 14:32
    • 記事タイトル間違ってますぜ
      × FAZE/ZERO
      ○ Fate/Zero
    • 2. Chinanews
    • 2012年06月17日 18:19
    • > 記事タイトル間違ってますぜ さん
      ご指摘ありがとうございます

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