中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年06月17日
Hei Hu Primary school, Sichuan April 2009 578 / gill_penney
■子どもたちに毎日1杯の牛乳を
「子どもたちが毎日1杯の牛乳を飲めるようにするのが私の夢です」と語ったのは、「優しいおじいちゃん」キャラを確立しているムービースター(影帝)こと温家宝首相。もっともたんなる人気取りの話ではない。中国にはまだまだ貧しい農村が多く、ちゃんとした食事をとれない子どもも少なくない。その影響は統計的に明らかで、身長や脳の発育でも都市と農村の格差が現れている。
2011年10月、国務院常務会議は「農村義務教育学生栄養改善計画」を決議した。1食あたり3元(約39円)の補助金を中央政府が拠出することで、農村地域の子どもたちに栄養餐と呼ばれる給食を支給する政策だ。中央政府の拠出額は年160億元(約2080億円)に達する。2012年5月に中国教育部が発表した統計によると、本年は2542万人の児童に給食が提供されている。
■細かすぎる給食改善計画
すばらしい政策であることに間違いはないのだが、一筋縄ではいかないのが中国。なんと「栄養餐」を食べた子どもの集団食中毒事件が相次いだほか、ある地域では腐ったリンゴが給食として提供されたこともメディアを騒がせた。
そして6月14日、中国教育部は「農村義務教育学生栄養改善計画実施細則」など計5点の政策文書を交付し、栄養餐の安全対策を発表した。「食事はかならずサンプルを保存し、専用の冷蔵施設で48時間保管すること」「調理時には食品の中心温度を70度以上にすること」「輸送時には食品の中心温度を60度以上に保つこと」といった細かい規則が定められている。
そうした安全対策の一つが校長先生も給食を食べなさいというお達し。「学校責任者は輪番で給食を食べ、その記録を残すこと。問題や難点があれば、総括しその経験を普及させること」と決められている。ちなみに給食費は自腹だと明記されている。細かい。
同様の発想で話題となったのが炭鉱の安全対策。責任者は労働者と一緒に坑内に入ることが義務づけられた。危険な坑内に入りたくないと、名ばかりの責任者を作って坑内に入らせるという裏技まで登場していた。まあ、さすがに給食を食べるのは嫌だと「名ばかり校長」が登場することはないと思うが……。
■すばらしい計画と実現の難しさ
なぜ栄養餐の集団食中毒事件が頻発しているのか。それは1人3元の補助金をネコババしている輩がいるためではないかと伝えられている。学校やあるいは納入業者がネコババしているのならばまだしも、県政府などの地方政府がちゃんとお金を支払ってくれないというケースも報じられている(4月1日付新京報)。
今回の改善計画にしてもその実施と監視の責任を負うのは地方政府。その政府自体が積極的にネコババしているケースもある以上、いかにすばらしい計画を作ってもその通りに実施されるとは限らないのが悩ましい。子どもたちの口まで給食を運ぶのもなかなかどうして一筋縄ではいかないのであった。
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