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中国市場に日本産木材の需要は「まだ」ない=ニーズを生み出す取り組みが必要

2012年06月23日

今やあらゆる産業で中国需要に期待する声があがっている。林業もその例外ではなく、官民一体となって日本材の中国輸出を目指す動きが進められているが、その道程は平坦ではない。日本材の性質に合わせた需要の掘り起こしが必要だという。中国木材事情に詳しい堀俊介さんに話を聞いた。


■日本林業に中国特需が到来?!

3月23日、ダイヤモンドオンラインは姫田小夏さんの署名記事「危機に瀕した日本の林業に一筋の光明、消費急増・供給不足の中国木材市場を目指せ」(2012年3月23日)を掲載した。中国で木材消費が伸び価格も高騰。なんと日本のスギ材の価格は中国と比べて3分の1という安さだという。中国の建築基準法に相当する「木構造設計規範」にはスギ、ヒノキなど日本の木材に関する基準がないことがネックとなっていたが、次回改訂で日本材の基準を盛り込むよう交渉が進められており、日本の林業関係者の期待が高まっている……という内容だ。

これについて中国の林業に詳しい堀俊介さんにツイッターで貴重なコメントをいただいた。



同じ木材だから単純に比較できるというわけではない。価格の問題だけではなく、文化や慣習に根ざした用途を考える必要があるという大変興味深いご指摘だった。今回、メールインタビューという形式でさらに詳しいお話をうかがったのでご紹介したい。


■インタビュー

Q:堀さんは中国の林業にお詳しく駐在経験もあるということですが、どのようなお仕事をされていたのでしょうか?

広西チワン族自治区の林業会社で事業責任者をしておりました。早く育つ木を植え、それを育て、6年ほどで伐採して現地の客先に販売する仕事です。日本100%独資の会社なのですが、私以外全員広西のスタッフの会社で、広西の国有地に木を植え、広西の労働者に実際の作業をやってもらい、全量広西のお客に販売する仕事です。現在も引き続き中国をメインに新興国での林業、木材関係の仕事をしております。

Q:ダイヤモンドオンラインの記事にも中国の建築基準法に相当する「木構造設計規範」について触れられています。日本木材輸出振興協議会の報告書「中国「木構造設計規範」における日本産木材の利用同等性の確立」でも次のように指摘されています。

我が国の主要樹種のスギ、ヒノキ、カラマツが有望な輸出市場である中国の「木構造設計規範」国家標準に定められた強度設計上で守らなければならない「針葉樹木材適用強度等級」表において構造用製材として使える樹種群に入っていない影響が大きいと考えられる。つまり、スギ、ヒノキ、カラマツが木造建築の構造材として中国の「木構造設計規範」に指定されていない。これは、「日本産木材が強度の低い木材、質の悪い木材であり、建築の構造用材としてはもちろん、内装用材や家具用材としても不適である」といった誤解を生む要因ともなっており、中国向けの輸出が大きく阻害されている

この「木構造設計規範」は現在、改訂作業中で日本側の努力によりスギ、ヒノキ、カラマツの採用が有力のようですね。となると、日本産木材の輸出が期待されるところです。ただ大前提として、そもそも中国には木造住宅が少ないと思うのですが、どのような木材需要があるのでしょうか?

まず「木材需要」と表現した場合、どの需要なのかを整理する必要があります。なぜならば、木材はその用途と加工形態によってざっくり分けて6種類に流通形態が分かれており、それぞれの形態で国境を越えた貿易が行われるからです。

●産業用木材の流通形態
丸太:木を伐採し2mや4mに玉切り(ぶつ切り)にしたもの。最もシンプルな状態。
製材:丸太を12cm四方、長さ4mなどの寸法でカットしたもの。大きな寸法がとれない細い部分は細い木を組み合わせる集成材の形で流通することも多い。
合板:丸太をかつら剥きのように薄く剥き、それらを複数枚交互に向きを変えて貼り合わせて9mmや12mmの厚さの板にしたもの。同じ方向に張り合わせるとLVLと呼ばれ、柱の代わりになることもある。
木質ボード:細い木や、製材を製造した残りの部分を細かく砕き、それを糊で固めて板にしたもの。木の砕く細かさによって性質が変わり、オリエンテッドストランドボード(OSB)、パーティクルボード(PB)、中密度繊維版(MDF)などがある。
製紙用原料:細い木や製材を製造した残りの部分を2~5cmくらいに細かく切ってチップ状に加工したもの。これを溶かして、木材の繊維部分だけを取り出したものがパルプで、パルプを水に溶かして薄く延ばすと紙ができる。世界的に見ると木材チップとしての貿易量よりパルプの貿易数量のほうが多い。
燃料用木材:薪炭材(いわゆる薪)や、木を細かく砕いて固めた発電用のペレットなどがあります。薪は自家消費されることが多いのでほとんど流通しませんが、ペレットは流通しています。

●木材需要形態のイメージ図
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中国の木材需要となりますと、各木材製品の生産量から輸入量を足し輸出量を差し引いた総需要を丸太換算で表現すると、2010年実績で1億6千万~1億8千万m3で世界の総需要の15%程度を占めています。これは米国の次に多いことになります。ちなみに日本の総需要は現在6千万m3程度です。しかしながら中国国内の丸太生産量は9,000万m3で、残りの5,000万~7,000万m3の木材を丸太、製材、合板、木質ボードとの形態で輸入していることになります。

次に中国の産業用木材需要を丸太換算の体積で用途別に見ると、製材が一番多くて38%、次に合板が36%となっており、製材と合板で8割を占めています。

ご指摘のとおり中国では集合住宅が中心ですので木造住宅が少なく、現在年1万件程度と考えられています。ちなみに日本の住宅着工件数に当たる指標でみると、中国の住宅着工件数は900万件前後ですので1~2%前後です。ですので、日本では木造住宅の柱や構造用として使われる製材や合板も住宅の構造体として使われることはほとんどありません。主な用途は以下のとおりです。

●製材
高級品:家具、内装、フローリング用など
その他:梱包、土木工事、建設工事、枕木用など
●合板
高級品:家具、内装、フローリング用台板、部屋の間仕切り
その他:梱包、建設工事(コンクリートパネル)用など
●木質ボード
家具、内装など
各用途に関してはJETRO上海事務所がまとめたレポートに詳しく書かれています。表記や数字など気になる点が多いですが、中国国内の木材用途に関しては詳しく書かれているのでご参考下さい。


Q:中国市場でシェアを伸ばしているカナダ産木材は前回の「木構造設計規範」改訂(2003年、2005年に追加改訂)で、「枠組壁構法」(ツーバイフォー)や北米産規格材の強度等級が認められたことが追い風になったとのことですが、どのような市場を獲得しているのでしょうか?また四川大地震が契機になったとのことですが、それはどのようなお話でしょうか。

中国の税関統計によると、2011年にカナダは246万m3の丸太と687万m3の製材を中国へ輸出しました。そして丸太と製材の平均価格はそれぞれ184US$/m3と188US$/m3でした。通常、丸太を製材品に加工するとその加工した手間の分コストがかかるため、原価も高くなります。ですが、カナダが中国に輸出している製材品の半数以上はカビが生えているなど、欠点のある低グレード品と考えられます。丸太から製材を生産する際、Jグレードと呼ばれる品質の高い日本の2×4向けの製材品を製造した残りの部分で低級品を生産し、中国向けに販売しているわけです。

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この平均売価から察するに、150US$/m3くらいの低級品が7~8割程度を占めているものと察します。それら低級品は工事現場や屋外での作業、梱包用途などカビや規格の狂い等が問題にならない場所に使用されていることが多いです。その他100万m3程度の製材品が内装材や木造建築に使われているものと考えます。中国の木造建築件数が1万件程度といわれていますので、1件あたり15m3前後の木材を使用するのが平均値としても15万m3にしかなりません。「木構造設計規範」の話が出てきましたが、需要のボリュームゾーンは木造建築でなく、厳しい規格を求められない低級品です。そして比較的価格の高いゾーンに家具やフローリング向けの用途があります。カナダの製材輸出がここまで伸びたのは、カナダウッドが2×4の建築様式だけでなく生活様式を含めた営業を展開したことだけでなく、中国で需要が存在する低グレード品への供給も含めた供給体制を整えたことが一番の理由だったと個人的には考えています。

四川地震の件ですが、2008年5月に地震が発生した際、カナダ政府とブリティッシュコロンビア州共同で800万カナダドル相当の木造建築を無償で提供した件になります。関係者の話ですと、その際木材を現地に届けただけでなく一般住宅、仮設住宅、学校などの建築を設計からスタッフを派遣してやりとげたとのこと。前述のとおり中国の木造建築の市場自体がまだ小さいので短期的に大きなインパクトを与えたわけではないですが、中国の林業部、ならびに木材関係者の心をつかむには大きなインパクトのある出来事でした。低級材がメインではありますが、2008年以降のカナダ材の輸入量の増加はこの出来事とは切って切り離せないと個人的には考えています。

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Q:ようやく日本産木材も法律的に同じスタートラインに立てる可能性が広がったわけですが、実際のユーザーから見て日本材の魅力、あるいはデメリットはどのようなものだと考えられるでしょうか?価格的には中国産、あるいはカナダ産と比べて優位があるのでしょうか?

日本材となると本州のスギ、ヒノキ、北海道のカラマツ、トドマツが中心になると思います。ここでは日本材の大部分を占めるスギに絞って、中国マーケットでの現状を踏まえた上で、私なりの日本材の魅力と欠点を材質と価格の二点から述べさせていただきます。

最初に日本の木材の中国での現状ですが、競争相手となる針葉樹、ロシアカラマツやNZのラジアータパイン、北米のベイマツ(ダグラスファー)、スプルースと比較すると高級品のマーケットでは知名度がなく材質も落ち、低級品マーケットでは価格が高い状況です。ですので、売れておりません。

●材質について
次に材質としてですがスギは中国での競争相手となる他の針葉樹材と比べた場合見劣りする点が多いです。日本で柱として使っているようにタテ方向の強度を活かす使い方が少ないこともありますが、ロシアカラマツやベイマツと比べると水分が多く強度と表面性が劣るので合板やLVLでは加工しづらく使いづらい。そして節も多いため、家具などにも使いづらい。魅力はにおいと芯材の赤みでしょうか。あのスギ独特のにおいはうまく浸透させれば長所になり内装材として使える可能性があると考えています。また一般的な傾向として赤い木が好きなので、スギの芯材の赤みがかった色は他の針葉樹にはない特徴として、そこだけを使った集成材など差別化を計ることができるかと思います。ただ、そのためにはもちろんディベロッパーや内装業者や設計業者まで巻き込んだマーケティングと商品設計が欠かせません。

●価格について
丸太を輸出するとなると中国への輸出は薬品による燻蒸処理が必要となり、ロシア材NZ材と比較した場合1ドル=130円程度にならないと価格的に厳しいと考えます。現状では材質で劣る上価格も高い。製材品の場合、現時点でカナダ材のような低級品はまずコスト的に合いません。高級品市場である家具、内装、フローリングなどの用途はオークやウォルナット、マホガニーといった硬く表面性の高い広葉樹が中心であり、そこに針葉樹として販路を切り開くのはなかなか簡単なことではありません。

Q:後発の日本が食い込むためには多くの困難がありそうですが、日本産木材が新たな市場を切り開ける可能性はどの程度あると見ておられますか?今までの中国市場にはない新たなニーズを創出できる可能性などありますか?

為替が1USD=130円くらいになれば低質材が合うようになり大量に丸太で輸出できると思いますが、中高級市場の用途を開拓していくのは簡単ではないと考えています。理由は二点、繰り返しになりますが日本での木材の主要用途となっている構造材としてあまり使わないこと。もう一点は、需要が大きい合板、ボード製品は中国国内で現地のニーズに合わせた低級~高級製品が大量に生産されていることです。

一方、日本産木材が新たな市場を切り開くことができる可能性もあると考えています。根拠は二点。一点目は中国だけに限らずインドなどの新興国にも言えることですが、国全体として木材資源とりわけ直径が30cmを越えるような丸太が不足していることです。中国の南では植林されたユーカリを原料とした合板産業がここ10年で大々的に発展してきましたが、直径6cm以上、平均で10~12cmくらいの丸太が合板材として取引され、工場着価格で100USD/m3前後で売買されています。それに引き換え日本の木材資源は戦後大々的に植林された材が間伐、主伐期を迎えており新興国ではなかなか見られない太さの丸太がゴロゴロしています。中国国内の材に比べ太い材がとれる、これは日本材の大きなメリットです。

二点目は、多くの中国人は住空間に木材を取り入れるのが好きだということです。この点は中国に住まれている方はよくご存知かと思いますが、中国の方の多く(個人的には80%以上くらい)の方は内装に木材を使うことを好みます。古来より木造建築の文化があった国なのか、資金に余裕があるならば床は木質フローリングを選択しますし、その他の場所でも木の特性を活かしたデザインの内装を選択される方が多いです。材質として劣るポイントも多いスギ、ヒノキですが、香りや木目、色という上記の特徴を活かして中国マーケットの嗜好に合わせたニッチな内装材としての高級品市場を開拓していく。例えば、スギやヒノキの香りを売りにして木材を表面に出した内装を設計段階から現地の内装、設計業者と開発していくといった可能性が考えられると思います。

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 コメント一覧 (2)

    • 1. 啊啊男
    • 2012年06月24日 00:10
    • 気合の入った記事だな。
    • 2. Chinanews
    • 2012年06月24日 21:21
    • > 啊啊男さん
      ありがとうございます!
      堀さんに負けないように私も頑張りますw

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