中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年06月27日
■日本から離れていく中国のコスプレ
中国では日本アニメが人気、コスプレが人気、クール・ジャパンやでっ!
という雑誌記事やニュースを目にしたことは多いだろう。しかし中国のコスプレは日本とはもうだいぶ異なるものになりつつあることはなかなか紹介されることはない。例えばインサイトチャイナの記事「セクシー!豪華!レベル高すぎ!「2012ChinaJoyコスプレカーニバル」地区予選決勝(四川省成都市)」の写真を見ていただきたい。
掲載されている写真はいずれも中華ファンタジー風のものばかり。日本アニメ・漫画が原作のものはないはずだ。もちろん現在も日本アニメ・漫画のコスプレをする人もいるのだが、それと同時に「勝てる、儲けられるコスプレサークル」はオリジナル路線、中華文化路線に進み、二極化が進んでいるという。
いかにしてこうした中国のコスプレ世界ができあがったのか。その歴史をまとめてくれているのが「コスプレでつながる中国と日本」だ。
■最初のファンのコスプレ受容とビジネスの力による拡大
中国本土のコスプレは台湾、香港経由で流入してきた。ちなみに本書によると、中華圏最初のコスプレは1993年の香港。「400尺」というサークルが銀河英雄伝説の同盟軍制服でアート・フェスティバルに参加したことが起源だという。銀英伝の影響力恐るべし。ちなみにほとんどが同盟軍好きなので、「同盟と帝国、どっちが好き?」という危険な質問をぶつけられた時は回答に注意しよう。
閑話休題。香港、台湾と場所が近い広東省、福建省に最初のコスプレ愛好家が生まれた。その多くは中高生だったため、大学進学と同時に中国各地にコスプレが広がっていく。
中国本土以外からの情報を一部の人々が受け取ることで始まった中国本土のコスプレ。それが普及する後押しをしたのはビジネスの力だった。本書は2000年前後をその転換期としているが、グッズを売ろうとする商人が販売会である漫画展示会を開き、後に元コスプレイヤーもその商売に参画していく。
もう一つのビジネスの力はゲームだった。日本産オンラインゲーム「ストーンエイジ」(中国名:石器時代)が中国で大ヒット。2001年にプロモーションとして中国で初めてのコスプレ大会を開催するが、これが大当たりした。いまだに中国では、「オンラインゲームの宣伝=グラビアアイドルなどのセクシーコスプレ」という図式が成り立っているが、オンラインゲーム黎明期から続いているということなのだろう。
■写真を撮るだけの日本と劇になった中国
日本と中国のコスプレの違いで一番わかりやすいのがその手法。中国ではステージの上で劇として上演されることが多い。本書はこれを日本の「Cos-Play」(コスチューム・プレイ、衣装で遊ぶ)から中国的な「Cosplay」への転換としてとらえている。
中国ではコスプレの訳語は二転三転している。香港から流入した服飾扮演、台湾から流入した角色扮演、さらには動漫真人秀、動漫人物秀、COS秀などの訳語があった。中国の政府系コスプレ大会Chinajoyは2005年、2006年は角色扮演と言う言葉を使っていたが、2007年以降はCosplayという言葉を採用している。
「扮演」という言葉には「演じる」という要素が強かったこと、オンラインRPG経由で広がったことで「演じる」という意識が強かったこともあって、コスプレ劇=COSPLAYが成立したという分析だ。
■中国政府がコスプレ界に介入
初期のファン、そしてビジネスと発展してきた中国のコスプレ。第3段階となるのが中国政府の介入だという。
自国の文化産業発展を目指す中国は1995年に5155計画を実施。5つの出版社を支援し、15巻本の子ども向けアニメ・漫画本シリーズを出版、漫画誌5誌を出版するというものだった。これは大ごけしたが、その後も2006年の「中国動漫産業発展に関する若干の意見の通知」、2009年の「原動力中国オリジナル漫画出版補助計画」などの国策的支援を続けていった。後者は漫画家個々人に資金を提供するという、驚きの計画だったという。
また地方政府主催のコスプレ大会が開催されていく。そうした中で「国営コスプレ大会に日本産アニメ・漫画のキャラクターばかりなのはいかがなものなのか」という批判も集まり、オリジナル・コスプレが生まれていく契機になったという。
■勝てるコスプレ・サークル
このような経緯を経て中国の「COSPLAY」状況が成立したわけだが、日本とは大きく異なる。政府主催の大会で勝利できるようなトップレベルのサークルは政府や企業の資金援助を受け、最大で1000人もの巨大な人員を集め、演者から小道具、台本、演出など役割が細かく細分化されたプロ集団に生まれ変わっていく。
また「中華文化の発展を促進するコスプレ」が求められているだけにそれに応じたコスプレをするようになっていった。今、求められているパフォーマーは中華文化の一つであるカンフーが出来る人というインタビューは非常に面白いもの。
またオリジナルキャラクターを生み出すようになった中華「COSPLAY」の世界は、既存のキャラクターを真似るという回路を逆転させ、オリジナルコスプレがゲーム化されるという展開まであったという。キャラクターを認知させる手段として、コスプレが大きな意義を持つようになったと本書は評している。
■ふらふらする文化
以上、かけあしで「コスプレでつながる中国と日本」を紹介してきた。単純に日本のアニメや漫画が好きというファンから始まったコスプレが、ビジネスに取り込まれ、そして国家に取り込まれ変質していくという筋立てはなかなかぐっとくるものがあるお話。修士論文の出版ということで一般書的な読みやすさはないが、興味ある人はぜひご一読を。
もっとも中国のコスプレ文化の変容を一本線で描こうとしたあまり、取り逃したものも多いのではないか。すなわち国家がコスプレを取り込もうとしている一方で、国が求めるニーズを無視して(?)、いまだに日本アニメ・漫画のコスプレを楽しんでいる人々も少なくない。
国家が必死になって文化と文化産業を作り出そうとしている中、その追い風に乗って商業的な成功をつかむ人もいれば、国の要求など考えずにあくまで自分の趣味に耽溺している人も少なくないのだ。これはコスプレやアニメ・漫画に限定された問題ではない。国家と民間自生的な「文化」のはざまで、多くの人々がふらふらしているなんとも面白い状況が今の中国、ということだろう。
関連記事:
中国政府がコスプレに補助金?!日本とは全く違う中国コスプレワールド―中国オタ事情
10年前の中国コスプレ界を振り返る=武漢で起きた「事件」―中国
アニメマンガ祭でコスプレショーが大人気=共産党青年団お墨付きの有名サークル「美萌」が登場―中国・広東省
【写真】「60円ください。火星に帰る」物ごい火星人がネットで話題に―中国
萌えキャラ「日本鬼子」ちゃんにライバル?!中華萌えキャラ「天朝娘」登場も盛り上がりはイマイチ
http://tupian.hudong.com/a4_54_70_16300000397019127271704141182_gif.html?prd=zhengwenye_left_futu_tupian
こういうのだ。