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地方政府は悪者、上級政府は良い者?!強制中絶事件と水戸黄門(水彩画)

2012年06月29日

■計画生育という名の裏で■

*本記事はブログ「中国という隣人」の2012年6月28日付記事を許可を得て転載したものです。




陝西省安康市で発生した強制中絶事件は、妊婦と引きずり出された子供の遺体が並ぶグロ中尉な写真のインパクトもあって、大きな反響を呼びました。乗り遅れたので経緯については金鰤の記事「歴史的役割を終えた一人っ子政策が廃止されない理由=罰金財政と一票否決制―中国」「【続報】拉致され強制中絶させられた上に「売国奴」扱いされた女性―中国」をご覧頂くとして、ここでは実際に強制中絶を実行させた現地鎮坪県曾家鎮のふるまいと、私なりの考えを書いたりしてみようかなと。

陝西省計画生育委「出産間近の人口流産は国家政策に大きく違反」(南方週末 2012/6/15)
7ヶ月の妊婦強制流産事件 県側「同意得た」(2012/6/12 光明網)
4万元払えない安康妊婦に強制人口流産疑惑(南方都市報 2012/6/14)

陝西省人口計画生育委員会(以降:陝西人口計生委)がこの件で緊急会議を開いたのは6月14日。6月11日に鎮坪県が公式サイトで

「陝西省人口・計画生育条例」と「内モンゴル人口・計画生育条例」の規定に基き、馮建梅は政策外での妊娠であり、第二子を生む事は出来ず、法に基いて妊娠を止めるのが当然である。鎮幹部が何度も思想工作ををした結果、妊婦は堕胎手術の実行に同意した。6月2日15時40分前後、鎮坪県医院で妊娠終了手術を行った。

と大嘘をかましたためでしょう。人口・計画生育法には出産間近の人口流産は禁じられており、条例にどう書いてあろうと法律の方が優先されるのは明白です。妊婦はど田舎の農民でそこまでの知識があるとは思えませんが、両省・自治区の条例にも恐らく「出産間近の人工流産は禁止」と書かれているはずです。

ただ、地元政府を責めるばかりで、鎮の計画生育を担当する副県長が慰問に訪れ、「非常に関心を持ってくれており、家族は非常に心温まる思いだ」との家族の話を紹介するなど、南方都市報でも定形に終止してしまうのは残念です。

定形というのは、鎮や県辺りの下級政府が問題を起こし、ネットで話題になり、上級である地級市政府や省レベルが調査団を派遣して担当者の首を吹っ飛ばし、賠償金を払って一件落着という水戸黄門スタイルであります。
一件落着に見えるものの、超法規的措置で賠償金が支払われただけで、何も変化がおきてないのが実情。情弱ほど偉い人の涙にコロッといってしまうのが中国で、直訴が公式に存在するのもその真理を突いたえげつない手法といえましょう。

陝西強制流産事件の被害家族が売国奴扱い(VOA中文 2012/6/26)
強制流産の被害家族「売国奴」に(RFI中文 2012/6/26)

この売国奴事件については国内メディアも報じているのですが、よくまとまっている海外メディアから。

6月24日、妻・馮建梅が入院していた鎮坪県医院から退院すると、どこからともなく現れた一群。手にするスローガンには「売国奴を打倒し、曾家鎮から追い出せ」「人々は皆正義を知っている」などと書かれており、あまりのタイミングのよさと内容から鎮が雇った人間によるものだと考えられます。

20120628_写真_中国_売国奴

20120629_写真_中国_売国奴

レコードチャイナの写真だともっと大人数に見えるのですが、実際はこの程度。十数人という規模ですね。現地政府が無関係を装うため一般人を雇って妨害を仕掛けてくる事はよくありますが、夫婦が各国のメディアの取材を受けているのは鎮の住民だったら誰でも知っていることですし、住民もスローガンを持ってる人間の顔に見覚えが無いと話しています。

6月22日には調査結果が出てこず、業を煮やした夫の鄧吉元が北京への直訴を決めると、数十人に阻止されるという謎の事件も起きており、この中で腹を蹴られています。「隣村の酒飲み」の仕業とか。

元々、騒ぎを大きくしたくない夫婦は、北京市に住む弁護士からの援助申し出も断り、海外メディアの取材も受けないつもりでした。遅くとも6月19日までに調査結果を公表する、という県長の言葉を信じていたからです。ところが19日を過ぎても出てこない調査結果。21日には北京に直訴へ、と決めたのです。

陝西強制人口流産事件で7人処分(人民日報 2012/6/27)

というわけで、水戸黄門も8時50分。上級政府である安康市の調査により、鎮坪県の取った措置は「基層幹部が法に基いた行政観念が弱く、民衆のための執政意識が薄く、政策レベルが低い」ということになり、関係者7人に警告から解任までの処分が下りました。

ネットで騒がれてメディアが後追いし、事件を起こした現地の上級政府が何事も無かったように水戸黄門然にふるまうのは何度も見てデジャブになりそうなのですが、私には「來生我決不做中國人」という言葉しか浮かびませんです。はいはい一件落着ですね。

妄想をたくましくさせてもらうと、4万元を本気で分捕ろうとしていたものの、当事者に本当に支払う能力が分かった時点で、腹いせに堕胎させたのではないかと。「払えないから泣く泣く同意した」という親族の証言にも、南方都市報がやさしさからオブラートに包んでくれているのではないか。そう思ってしまうような、凄惨な事件ではないかと思うのです。

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*本記事はブログ「中国という隣人」の2012年6月28日付記事を許可を得て転載したものです。   

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