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目的は打倒クール・ジャパン?!あのサイゾーが中国進出、その理由とは

2012年07月13日

雑誌・ウェブメディア「サイゾー」の中国語版「晒蔵」が2012年7月12日、正式公開された。


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先日、ニューヨークタイムズ中国語版開設が話題となったが、日本メディアも負けてはいない。共同通信、朝日新聞、日本経済新聞が中国語サイトを開設しているほか、ウェブメディアではJ-CAST、レコードジャパン(レコードチャイナの中国語向け日本ニュースサイト)もオープンしている。

この列に新たなメディアが加わった。2012年7月12日、芸能・サブカルニュースを得意分野とする雑誌・ウェブメディア「サイゾー」の中国語版「晒蔵」が正式公開された。すでに今年4月から試験公開が始まっていたが、その割り切った話題選びはすがすがしいほど。カテゴリーは「日本エンタメ情報」(AKB・AV女優・グラビアアイドル)、「ジャニーズ」、「日本文化」(アニメ・マンガ)などで、本家サイゾー同様の芸能ゴシップ、サブカルネタをコアに展開している。中国にも日本マニアは少なくないとはいえ、果たしてここまで突っ込んだ内容に需要があるのか、こちらが心配になるほど。

異色の日系中国語メディアは何を目指しているのか。晒蔵を運営する株式会社サイゾー メディア事業部長 兼 プロデューサーの川原崎晋裕さん、同サイト特任編集顧問に就任したノンフィクション作家の安田峰俊さんに話を聞いた。

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川原崎晋裕(かわはらさきのぶひろ)
サイゾーメディア事業部長。2007年サイゾーに入社し、日刊サイゾー、サイゾーウーマン、メンズサイゾーなどのWebメディアを立ち上げる。1981年生まれ。滋賀県出身。


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安田峰俊(やすだみねとし)
ノンフィクション作家。多摩大学非常勤講師。2010年に『中国人の本音 』(講談社)でデビュー。主な著書に『独裁者の教養 』(星海社新書)、『中国・電脳大国の嘘』(文藝春秋)。本年秋に『和僑(仮題)』を角川書店より刊行予定。1982年生まれ。滋賀県出身。
ブログ: 『大陸浪人のススメ

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――正式オープンおめでとうございます。まずは、芸能記事などで非常にドメスティックな印象が強いサイゾーが、あえて中国語版を立ち上げた経緯からうかがってよろしいでしょうか。

川原崎:この5年ほどサイゾーはウェブメディアにかなり注力してきました。そこで、いつか海外版をつくりたいと思ってずっとタイミングを見計らっていたんです。

サイゾーは日本のネット上ではけっこう認知されていて、毎年複数のネットメディアを立ちあげてそれなりに成功してきています。しかし、日本の市場だけでやっていてはいずれ天井が見えてしまうので、海外版にもチャレンジしたかったんですね。で、サイゾーが得意とする芸能ゴシップやカルチャー情報の需要がある外国といえば、アジア圏しかないと考えました。

――なるほど。

川原崎:最初は、日本のマンガやアイドルなどについて根強い人気がある、台湾向けのサイトの立ち上げを考えていたんです。で、実際にテストサイトを作ってみて、日本に住んでいる台湾人を集めてモニターを実施したところ、良い感触を得られた。ただ、やはり台湾を対象にするだけでは、サイトに来てくれる人の母数が少し厳しいし、伸びしろの上限が低いなと感じる部分があった。そこで、最終的には、人口が圧倒的に多い中国大陸向けがいいんじゃないかということで、簡体字のニュースサイトとして大陸向けにやることにしました。

立ち上げにあたって、中国国内のニュースサイトもチェックしてみたんですが、日本のアイドルのニュースはちらほらと出ているものの、あくまでさわり的な一次ニュースのみ。その一方で、わざわざ日本のニュースサイトへ情報を見に来るようなコアユーザーも一定数はいるみたいなので、彼らに向けてもう一歩踏み込んだ詳しい情報を、より速く伝えられれば、いけるんじゃないかと思ったんです。

――立ちあげに際して苦労したことは?

川原崎:まず、中国に関するビジネス上の知識がまったくなかったこと。日本企業の中国進出を手伝っている知人にいろいろアドバイスをもらいながら準備しました。現地法人をつくることなどいろいろ検討したんですが、いろいろなリスクを嫌ってそれはやめておきました。結局、法人は作らず、香港にサーバを置いて運営しています。

安田:その過程で、中国専門ライターの僕にもお声掛けをいただいたわけです。お話を詳しく聞いて、先行きの楽観はできないけれど、がんばればいけるんじゃないかなという印象でした。

――どういうことでしょうか。もうすこし具体的にお願いします。

安田:日本国内では「中国で日本カルチャーが人気」なんて言って煽っていますが、ジャニーズのゴシップやアニメの最新情報に反応できるような中国人マニア層の実数は、おそらく多くても数百万人程度です。ただ、この数百万人は学歴(大卒程度)や年齢層(10代後半~30代前半)・生育環境(都市出身)・生活習慣(ネット好き)など同質性が高くて、ネットメディアとの相性がいい人たちでもある。彼らをできるだけ多くがっちりつかまえて、リピーターになってもらえる面白い情報を提供すれば、成功の目はありそうだなと感じました。

川原崎:中国の物価も上がってきているので、インプレッション(広告表示回数)単価が上がれば商売になるんじゃないかと。

――それにしても、サイトを見せていただきましたが、かなり割り切ったというか、偏っているというか(笑)、ちょっと異色の構成ですよね。これまで、中国のネット上で伝えられる日本芸能ニュースというと、ネット掲示板などでの有志による紹介がメインという印象ですが、さすがにここまで濃い話っていうのはなかなか読めませんよね。むしろ需要があるのか、こちらが不安になるぐらいなんですが(笑)

川原崎:サイゾーっていうのがそもそも二次情報というか、世間で話題になっているニュースの一歩突っ込んだところを報道する媒体なので。中国では報道されてないけれど、コアな層には需要がありそうな部分を狙って提供しているつもりです。

安田:実のところ、一般の中国人たちは、僕らが思っているほどには日本に興味なんて持っていないし、詳しく知りたいとも思っていないわけです。で、そんな「日本に興味がない」人たちに日本の情報を発信しようとすると、「東京都内で桜が咲きました」みたいな、毒にも薬にもならない総花的な内容に傾きがちになる。例えば、官公庁とか大手日系企業の「微博(中華圏で流行するミニブログ)」の書き込みなんか、まさにそんな感じのが多いですよね。でも、そういうのって超つまらないし、結局誰も読まない(笑)。

一方で、中国のウェブ百科事典『百度百科』なんかを見ると、ジャニーズやAKBどころか、AV女優とグラドルのユニットの「恵比寿マスカッツ」の記事なんかまで載っていて、結構充実しています。アニメやゲームにしても、スラムダンクや名探偵コナンみたいな大衆的な話題だけではなく、『東方プロジェクト』とか『京都アニメーション(中国語名「京阿尼」)』とか、ものすごい項目があってやたらに詳しかったりする。ジャニオタの掲示板なんかを見ていても、話題の深さは本当に凄いですからね。「こいつらヤベえ!」と感じさせるものがある。

大多数の中国人が日本に関心がない一方で、深い情報を求める人たちも一定数以上はいるんです。彼らは「変わり者」なんだけど、それはそれなりにボリュームがある。なのに、彼らの関心を埋めてくれる日本発・中国向けのメディアは、現時点においてほとんど存在していないんです。

川原崎:誰にも読まれない浅く広い情報をダラッと流し続けるより、確実に読まれる尖った情報でピンポイント爆撃をやる方が、戦術的にも戦略的にもアリだろうと考えました。身軽なサイゾーだからこそできる、大手メディアとは違った戦い方ですね。

――ビジネスモデルについてはどうお考えですか?

川原崎:まだまだ試行錯誤中ですが、まずはとにかくPVを稼いで大きなサイトに成長させたいと思っています。当面はGoogle Adsenseやアフィリエイトなどの自動広告で収益を上げて、サイトが大きくなってきたら日系企業や現地企業から直接広告をとってきたり、向こうのポータルサイトと組んでコラボ企画をやるなど、できる可能性があることは貪欲に進めていきたいですね。そのために、サイトを受容できるような中国人層への認知をしっかり広めていきたいと考えています。

――サイトが今後目指す姿は?

安田:個人的には「打倒! クールジャパン」ですね(笑)。AKBとかスマップあたりを、正式な外交ルートを通じて中国に行かせて、胡錦濤さんや習近平さんと握手させるのは、どっかの省庁のお役人さんとか、○○基金とか××協会なんかの偉い人たちの仕事。一方で、彼ら芸能人を題材にした面白い情報を流すことこそ、僕らの仕事です。

「晒蔵」の芸能関係の記事って、話題はマニアックに見えるけれど、内容はすごく普遍的なものを選ぼうとしているんですよ。「社長が地位を利用して所属タレントを食べちゃう」とか、「某大物アイドルは、事故起こしても事務所とスポンサーから守られてお咎めなし」とかね。これって、AKBやジャニーズなんかの固有名詞を入れ替えれば、実は中国社会でも多数起きていることです。こういう「指桑罵槐(別のものを指して対象の悪口を言う)」の痛快さが上手くハマれば、日本オタク以外の中国人にも意外な広がりを持つのではないかと、ひそかに未来予想図を描いていたりします。

川原崎:うちはやはりジャニーズなどのアイドル情報が強いので、「日本の芸能情報といえば晒蔵」というブランディングを確立したいですね。カルチャー情報も鉱脈があると思うので、そちらにも力を入れつつ。また、将来的にはオリジナル記事もたくさんつくって、ちゃんと中国人向けに編集された日本の情報を届けていきたいと思っています。なんだかんだで「日本や日本人の肌感覚がいちばんよくわかるサイト」と中国人に思ってもらえるようになれば、今後も長く戦っていけるはずです。

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