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中国の経済統計はごまかしだらけなのか?ちまたで噂の統計改ざんネタを考える

2012年07月19日

2012年7月13日発表の経済統計で、経済成長率が7.6%と約3年ぶりに8%を割り込んだ中国。しかし実態はもっと悪いのでは、と統計ごまかし疑惑が取りざたされている。


Bank of China
Bank of China / Marc oh!

■中国経済統計と捏造

中国の経済統計捏造は以前からささやかれていたもの。最近、よく引用されているのはウィキリークスが公開した米外交公電だ。李克強副首相がクラーク・ラント駐中国米国大使と食事をした際にGDP統計は信用できないと話したという。

中国GDP統計は信頼できない─07年に李克強氏=ウィキリークス
ロイター、2010年12月6日

李氏は遼寧省の経済評価の際、電力消費、鉄道貨物量および銀行融資の3つのデータだけに注目すると発言。公電は、「李氏は、これら3つの数字を見るだけで、経済成長の速さの相対精度を測ることができる、と述べた。他のすべての数字、とくにGDP統計は『参考用にすぎない』と李氏は笑顔で語った」と伝えている。 

この李克強発言の背景となっているのが地方政府の統計データ改ざんだ。地方の経済成長率は業績となるため、地方官僚にはデータを改ざんするモチベーションが存在する。中国国家統計局は今年2月から地方企業70万社の統計を地方政府を介さずに直接、中央に送る新制度を導入しているが、地方政府の改ざんを防ぐのが主要目的とみられている。もっとも企業が経済統計を送信する前に地方政府が確認するといった「抜け穴」も指摘されている。
(関連記事:経済統計ごまかしは許さない!中国政府のIT改革が速攻骨抜きにされそうな件


■悪いのは地方政府?混乱する統計改ざん話

なるほど、「悪いのは地方政府なのか!」で話がすめば簡単なのだが、そうではなくて国家ぐるみでの統計改ざんを疑う見方もある。財新網の記事「7.6%は本当か嘘か=GDPデータの真実性をめぐりマーケットに議論」では、みずほ証券大中華区首席エコノミストの沈建光氏が

「多くの企業が経営困難を訴え、利益が減少している。温家宝首相は各地を視察し、安定した成長が必要だと訴えている。発展改革委員会は緊急的にプロジェクトを認可。中央銀行は1カ月足らずの間に2回の大幅な利下げを断行した」

と指摘。「マクロデータとミクロの状況。そして政策的対応が鮮明な食い違いを見せている。あるいは統計データ以上に実体経済が悪い可能性もある」と分析した。こちらは中央政府がごまかしているのではとの見方になろう。

地方だろうが中央だろうがごまかしていることは一緒と言ってしまえばそれまでだが、中国経済の現状を類推するのに、ごまかしのメカニズムがどうなっているのかは大きなポイントとなる。

また今回の景気減速でごまかしが加速したのか、あるいは以前と同様のごまかしが続いているのかも大きなポイントだ。以前、梶谷懐さんに教えていただいたのだが、ごまかしの比率が変わらなければ経済成長率そのものは水増しされない。よって7.6%成長が水増しだと指摘する場合には、今回の景気低迷を取りつくろうためにごまかし比率のアップが図られたと考えなければならない。
(*去年のGDPが実際は50のところを100と改ざんしていた。今年のGDPが実際は55、改ざん後は110とした場合、実際の場合でも改ざん後の場合でも経済成長率は10%で変わらない)


■代替指標、どれが信じられるの?

さて、中国のGDPが信用ならないとなると、何を参照して類推するべきかというお話となる。

よく取り上げられているのが李克強副首相推薦の電力消費、鉄道貨物量および銀行融資に加え、セメント生産量、粗鋼生産量など。これらの伸び率がGDPを下回っていることも、今回の「中国経済、本当はもっと悪いんじゃね」騒ぎの背景にある。

例えば6月の電力消費量は前年同期比でプラスマイナスゼロ。「これでGDPが成長しているってことはエネルギー効率が短期間で劇的に改善したか、サービス業など電力消費量が少ない産業分野が急成長したかどっちか。ってありえへん!」というのがよくあるツッコミ。しかし上述財新記事では、匯信資本の叶翔・董事総経理が景気低迷の影響を大きく受けるのは有色金属などの電力消費が大きい企業。逆に好景気期には電力消費量の伸び幅は経済成長率を大きく上回ると反論している。

ちょっと面白いのがスタンダード・チャータード銀行の研究(財新網)。今年4月、5月と電力消費の伸びは鈍化傾向にあるのに工業生産額は10%台の成長をキープしているとして、電力消費統計は改ざんされているという見方に一票を投じている。その上で軽油、ガソリン消費量こそが実際の景気動向を反映しているのではないかという指摘だ。企業生産に使われることが多い軽油の伸び率は今年上半期で2%増と鈍化しているが、一般消費が中心のガソリンは8%増と堅調。企業は打撃を受けているが、民間消費はしっかりしていると結論づけている。

もっとも「この数字”だけ”見ていれば本当のGDPがわかる」という便利な数字はなかなかない。産業構造の変化に影響されたり、あるいはトレンドが反映されるまでにタイムラグが生じたりという一長一短があるもよう。代替数字でやきもきするのは野次馬的には正しい姿勢ながらも、「電力消費だけ見ていれば中国経済の”すべて”がわかる」とどや顔するのは少々しんどいところのようだ。

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