2012年7月23日、財新網は「
アニメ・マンガ補助金は誰を肥え太らせたのか?」を掲載した。
Anime ads, Shanghai, China.JPG / gruntzooki
■アニメ・マンガ産業の5カ年計画
2012年7月12日、中国文化部は「第12期5カ年計画時期国家アニメ・マンガ産業発展計画」を発表した。中国は重要産業分野別の5カ年計画を制定しているが、アニメ・マンガ産業単独の計画制定は今回は初めてだという。中国政府がアニメ・マンガ産業にかける期待の高さがうかがえる。
一方で、他の重点産業と同様、政府の強力な介入・支援がもたらす弊害も問題となっている。
現在、人材と資金がともに不足している(アニメ・マンガ)産業は政府の強力な支援を受けている。しかし巨大な政策支援の下、市場は自律的な調整機能を失い、公共リソースを浪費し、優勝劣敗の法則が機能しなくなっている。本当に優れた作品が公平な市場環境を得られていない。逆に「日本アニメのパクリ」「アニメ産業基地建設を旗印とした土地確保」「補助金詐欺」といった事件が相次いで暴露されている。
業界の本当の需要と市場システムが合致できない事態に、創作者のみならず投資家も不満を持っている。新たな国家計画が発表されたが、政府の授乳式補助金と業界が続々と発表する(過大な)データという霧はいつはれるのだろうか?
「巨大な政策支援の下、市場は自律的な調整機能を失い、公共リソースを浪費し、優勝劣敗の法則が機能しなくなっている」の下りなど、太陽電池や風力発電などの再生可能エネルギー、自動車などの記事にもそのまま転用できそうな一節だ。
■ダメ・アニメ「戚継光英雄伝」
さて、優勝劣敗の法則が働かないで世に出てしまったダメ・アニメの事例としてあげられているのが、戚継光英雄伝。日本のウェブメディアにも紹介されたのでご存知の人もいるかもしれない。その予告編がこちら。
紙芝居並の出来栄えがなんともせつないところ。中国では「FLASHアニメかよ!」とツッコミの嵐が吹き荒れた。ちょっと説明しておくと、中国ではFLASHで作った低予算アニメが普通に放映されていたりするのでそんなに不思議なことではない。問題はこれが映画で、寧波市の「文芸精品プロジェクト」に選出されており、総予算額が1200万元(約1億5600万円)ということ。
アニメ業界関係者13人が連名で「1分あたり2000元かけたとしても90分で制作費は18万元。どんだけ多く見積もっても200万元はかかっていないと思われ。で、残る1000万元はどこに消えたの?」との質問状を送ったという。
さらに面白いのが大学生ネット民の抗議パフォーマンス。予告編と同じシーンを3Dアニメにして、学生6人がたった3日で作ったという。必要な経費はインスタントラーメン1箱とコーヒー、それと栄養ドリンクと紙ぐらいだったぜと嫌がらせしている。
*ニュース番組。1分18秒から大学生制作版を紹介している。大学生のオリジナル動画はこちら。■補助金ゲットだぜ
どうしてこういうダメアニメが量産されるのか。この件については記事「
世界一のアニメ大国・中国が抱える「国策振興」という病」で触れた。
7月28日付時代週報によると、3Dアニメを100分作れば10万元(120万円)、CCTVで放送されれば1分あたり500元(約6000円)、制作会社立ち上げの初期費用は政府持ち……などなど補助金支給の細かい規定が存在する。その基準に合わせることが目的となってしまっているという。
いや、それだけではない。アニメ制作基地を作るためという名目ならば、国の認可も通りやすく、銀行の融資も受けやすい。そのため地方政府は大々的にアニメ制作基地作りに乗り出していると、評論家の曹景行氏は指摘する(中国広播網)。
アニメで人気を得るのが目的ではなく、政府が定めた補助金の規定をクリアしてお上からカネをゲットしようというのが目的になってしまっている。そのため今ではテレビ局にお金を払ってアニメを放映してもらっているのだとか。絶対に子どもが見ないであろう深夜に低品質子ども向けアニメがこっそり放映されるのは当たり前。
その枠をも奪い合って、テレビ局担当者に賄賂を贈っている状況だという。また映画館での公開も条件となっているケースがあるので、映画館でさっくり1日だけの上映をして、「補助金ゲットだぜ」といった裏技もあるという。
また海外主流メディアで放映されると1分あたり1500元の補助金もいただけるという(上海市宝山科技園のケース)。なら日本のBSとか金もらって、中国の低品質アニメ流しまくればいいのにと思うのだが、そういうわけにも行かないのだろうか。
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