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2012年08月12日
Great Hall of the People 人民大会堂 / INABA Tomoaki
■十八大人事予想~どちらかというと備忘録として
いよいよ現指導部や元指導部経験者達が避暑地・北載河に参集し、十八大に向けた熱い権力闘争が繰り広げられています。それに伴い、各報道機関も虚実ごった煮の人事情報が飛び交う訳ですが、いくつかポイントを整理して予想を立てたいと思います。こういう時は冗長&結論なしの長文になりますので、興味のない人は是非無視して下さい。
■常務委員定員7名説はあるか?
薄煕来の失脚というでかい爆弾があったために必要以上に注目されていますが、基本的には十七大人事で基本線が引かれている、というのは去年に予測した通りです。具体的には;
●現・常務委員の習近平と李克強は間違いなし
●中央政治局で2期目かつ定年を迎えていない兪正声・張徳江・劉雲山の3名も昇格濃厚
●中央政治局委員の1期目である李源潮、汪洋、劉延東、王岐山、張高麗のうち誰かが昇進できない(中央政治局委員留任)。同じく1期目だった薄煕来が脱落したので、常務委員の定員が9名としたら、昇進できないのは1名のみ
となります。
しかし、ここにきて常務委員の枠が9名から7名に減るのでは、という予測が各報道機関より伝えられてきており、予想を少し難しくさせています。
この常務委員の定員9名⇒7名削減説は、前回十七大でも当初予想されていた、いわば胡錦濤の悲願ともいえる案です。さらには重慶市公安トップの王立軍逃亡事件と、それに伴う薄煕来の失脚により政法委員会の権力構造(司法+公安=やりたい放題、武装警察も管轄下やから解放軍ともズブズブやで)が問題視されており、実際に薄煕来失脚以降の地方人事では、政法委書記と公安局長は別々の者が任命されています。
このように政法委の権力削減が顕著ないま、十八大以降も常務委員のポストとして公安担当(政法委書記)が置かれることを疑問視する声が多く、この7名説に信憑性を与えている状態です。
しかしながらこの類いの情報は、ぶっちゃけ「釜の蓋が開くまでわかんない」=十八大で全員がひな壇に出てくるまでわかんない、というもの。胡錦濤の発言力が強ければ7名に削減、江沢民や曾慶紅の存在感が大きければ9名で手下の誰かが常務委員入り、というあたりをおさえておきながら、釜の蓋が開くのを楽しみにしておきましょう。
それが我慢できないせっかちさんは、在外各メディアや評論家諸氏の「共産党内部の情報筋によると。。。」「私の友人の共産党幹部がこっそり私にだけ打ち明けたのは。。。」といった枕詞がついた記事に右往左往されてください。まあ私のことなんですけどね。
さて前フリはこれくらいにして、今回は9名と7名の2パターンで予測を立てたいと思います。
■9名バージョンの予想~胡錦濤<江沢民?
9名の現状維持だと、前述の通り江沢民(ないしは曾慶紅)の影響力が、胡錦濤を抑えたということになります。その場合、人事のポイントは彼の影響下にある人物が常務委員に入ることになるということ。兪正声や王岐山なんかは現時点で既に安全圏にいると言われていますので、アピールタイムであるはずの最近でも影の薄い張高麗(天津市党委書記)あたりが有力なのでしょうか?その場合、まだ若い汪洋が妥協の産物で落選という方向性が見えます。
逆に胡錦濤とも曾慶紅とも仲が良好といわれる劉延東は、女性初の常務委員の目が見えて来たことになります。もし汪洋が胡錦濤の強い後押しを受けて当選するようであれば、劉延東は逆に玉虫色が嫌われて常務委員の座を逃すかもしれません。
なお序列については適当ですが、現常務委員の李克強が新常務委員の兪正声より下の序列に来るのか?と素朴な疑問を持ちましたので、そこらへんは前回のを修正しました。劉延東の政協主席と李源潮の規検委書記は、単純に好みの配置です。
序列1位習近平(総書記)
序列2位李克強(国務院総理)
序列3位兪正声(全人代委員長)
序列4位劉延東(政治協商会議主席)
序列5位張高麗(副主席)
序列6位劉雲山(宣伝担当)
序列7位李源潮(規律検査委員書記)
序列8位王岐山(副総理)
序列9位張徳江(政法委員会書記)
■7名バージョンの予想
さて今度は7名説に従って予想してみましょう。単純に考えると前述5名のうち2人が入選という厳しいレース+劉雲山(65 宣伝部長)がどうなるか、がポイントです。9名増員時に水増しされたポストである宣伝担当がなくなるとすると、劉雲山は人事サイクル的には昇格が濃厚であるにも関わらず、ポストを考えるとリストラ対象、という微妙な立ち位置にいます。
「ポストが偉いんとちゃう、人が偉いからポストが付いてくるんや!」という人治国家的発想で昇格が濃厚かと思うのですが、宣伝部以外にこれといった目立った経歴がないプロパーだけに、先日死去した丁関根のようにそのまま去ることも考えられます。さあどうでしょうか?
北載河会議開催直前の十八大人事予想7名ver
序列1位習近平(総書記)
序列2位李克強(国務院総理)
序列3位兪正声(全人代委員長)
序列4位劉雲山(or劉延東)(政協会議主席)
序列5位張徳江(副主席)
序列6位李源潮(規律検査院書記)
序列7位王岐山(or汪洋)(副総理)
■汪洋と胡春華、ちょっと早いけど十九大予想
注目の汪洋ですが、少し厳し目の評価になりました。個人的には彼を買っておりまして、安徽のど田舎出身であることを印象付ける朴訥な風貌でありながら、重慶⇒広東と実績を上げた改革派。さらには会議でipadを使いこなしつつ、両会では女性代表にセクハラ発言をかますいうその芸風は、まさにムービースタアの後継者と言ってよく、彼の他に田舎や炭鉱で料理作って年越しできるようなキャラは、他の常務委員候補には見当たらないと思っております(笑)。
しかしながら、本来ほぼ出来レースであったはずの十八大の焦点が7名になるかどうかへ移ったことで、少し様相が変わってしまったと考えています。常務委員が9名のままならほぼ当選だったはずが(そのために前回中央政治局入りしたはずですが)、ボスの胡錦濤が7名に削減してしまうと、年齢もキャリアも上の人物が多いために上にあがりにくく、9名のままだと今度は、胡錦濤の影響力自体が所詮江沢民や曾慶紅への配慮が必要なものだったということからも、やっぱり上げにくいのです。なんだか結果的に薄煕来失脚のあおりを食ったのは、薄煕来と同じように目立っていた彼のような気がしています。
とはいえ、年齢も若いために今回昇格を逃してもまだ2期可能。今後長く最高指導者クラスに居続けることは間違いないので、この5年は薄煕来が望んで已まなかったと言われる副総理を経験しつつ、北京にいる爺さん達に媚を売るのもいいかと思います。
また次の総書記候補として名前のあがっている胡春華ですが、ロイターによると、胡錦濤が彼を常務委員か、もしくは上海市党書記にしたいと画策しているとのこと。しかし胡春華は年齢が若いので無理をして押し込む必要のない人材。逆に胡錦濤が無理してでも入れるとすると、令計画なんじゃない?と思っています。
現在中央委員である胡春華のキャリアステップを考えると、先日、郭金龍が北京のトップに決まったことから、中央政治局入りするには上海/広東/天津あたりトップに就くかどうか。このあたりに押し込めれば万々歳で、今回で2階級特進しての常務委員就任はないと考えられます。逆に彼が常務委員になってしまったら、それが意味する所は、習近平の「1期5年で終了のお知らせ」でしょうね。
昨年の予測でも少し触れましたが、胡錦濤は前回の十七大で、上海閥の後継者候補・陳良宇を汚職でひっ捕え、返す刀で自身子飼いの李克強を後継者に据えようとしたものの、後者に関しては敢えなく失敗。次期後継者の座は習近平のものとなりました。しかしながら、中央政治局委員の人事に関しては、団派のエース格であった李源潮と汪洋を飛び級人事で政治局入りさせ、結果として新任の中央政治局委員9名(うち1名は軍の徐才厚)のうち4名を団派でおさえるという大きな成功を収めたのです。
そのような布石を既に打っている胡錦濤ですので、引退する十八大以降の彼の人事構想も、このようなものだと見当がつきます。
・常務委員は少数精鋭(7名)
・共青団経験者を重用
・システマティックな昇格人事システム(常務委員は68歳未満、中央委員⇒中央政治局委員⇒常務委員のステップで順次昇進)
こうなると恐ろしいことに、中央政治局の現メンバーの年齢、さらには現在注目されているホープをざっと見るだけで、5年先・2017年の常務委員人事まであらかた予測できてしまうのです。
■十九大予想(隣の年齢は2017年段階の年齢)
・習近平63(太子党、総書記2期目)
・李克強62(団派、総理2期目)
・李源潮 67(団派、常務委員2期目か?)
・汪洋 62(団派、1期目か?)
・総書記後継者(胡春華 54(団派)?)
・総理後継者(孫政才 54(団派)?)
・次期常務委員候補者(周強 57 or 令計画 61?)(団派)
習近平を除けば3名が団派で確定。現在注目されている次期指導者候補の地方トップもおしなべて団派ですので、まさに、「団派に非ずんば・・・」という状態が十九大で完成する可能性があります。汪洋や胡春華を十八大で無理してあげる必要もない、と考える理由はここにあります。
いまの中央政治局クラスで、年齢的に比べられる他派閥の人材といえば、中央書記処書記の王滬寧(57)くらいしか見当たりません。団派以外にしてみると、この十八大~それに伴う地方人事で布石を打たねばならない状態ですので、このあたり中央政治局委員人事や、一中全会以降の地方党書記人事も注目です。