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2012年08月27日
Punching in, pt. 1 / Marcin Wichary
■報告中に終業ベルがなると……
この前、パパはあきれ返って仕事から帰ってきました。
どうも終業時間、間際になって、作業者のおばちゃんがやってきて「機械は調子が悪くて不良が出る」と訴えたそうです。ところが、パパが不具合の内容を聞こうとしたとたん、「キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン」と終業のベルが鳴りました。その瞬間「あっ、私帰らなきゃ」と、おばちゃんは急に焦り出して、さっさと更衣室へ走っていきました。「え?ちょ、ちょ、ちょっと~!」とパパが呼び止めようとしましたが、まったく相手にされませんでした。
しかし、翌日も生産があるから、機械をそのまま残すわけにはいかない。パパは、どういう不良が出ているのかという「症状」さえわからないまま、居残りで修理にあたることになりました。幸い、ロシア人の職長は不具合の内容を把握していました。この職長は責任感が強く、残業が必要だったらいつでも協力してくれますので、パパと一緒に機械を直してくれました。
ちなみに、先ほどのおばちゃんは決していい加減な社員ではありません。仕事も絶対休まないし、作業も丁寧で、品質チェックを一生懸命してくれています。今の工程に彼女が入ってから不良を後工程に流してしまうという、以前多発していた問題はまったくなくなりました。だから、勤務時間内であればこのおばちゃんはとても優秀な作業者なのです。しかし、一旦終業ベルが鳴れば、後は関係ないとしっかり割り切っているようです。
■終業ベルはやっぱり偉大
彼女のような行動の例を他にもいっぱい挙げられます。パパが作業者に一対一で操作盤の使い方を教えていたら昼休みのベルが鳴りました。そのとたん作業者は 「お昼だ!」とすぐに食堂へ行ってしまいました。この作業者もさっきのおばちゃんと一緒で日ごろからまじめな社員なのですが、割り切るところは割り切っているようです。
保全の担当者も、機械を直している最中だったとしても、終業ベルとともに堂々と帰ってしまいます。パパいわく日本の工場でまずあり得ないことだそうです。
事務所に関していえば、ランチ時間に対してはそうでもないのですが、終業ベルには同じように反応している人が多い。ベルが鳴ってから3分以内にスタッフの半分はいなくなります。
ただ、よく見ると「逃げ足が速い」のは基本的に作業者などの平社員だけで、それなりに責任のあるポストに付いている人は必要に応じて自主的に残業をします。
では、ロシアの「平社員」はまったく残業しないのかというと、そうでもありません。しかし、彼らが残るには上司から直接的な指示が必要みたいで、それがない限り、終業ベルが鳴った瞬間、上記のおばちゃんのように話の途中でも作業の途中でもさっさとみんないなくなります。「これをしておかないと明日困る」など、色々事前に考え心配するのはあくまでも上司の仕事なんだという感覚が強いのです。
■日本とロシアで違う残業代のとらえ方
そして、残業代についても考え方が日本とは違うようです。以前、日本で製造関係のセミナーに出たことがあるのですが、仕事の量を決めるとき、現場の作業者については多少残業があるように予定を立てているという話が当たり前のように出ていました。要するに、現場は給料が安いから残業代で少しでも収入を増やせるための配慮だそうです。
しかし、日本の工場で歓迎される(?)やり方はロシアでは必ずしも受け入れられるとは限らないようです。少なくとも、私たちの会社を見ている限り、こうした「配慮」をしようものなら余計なお世話として反発する作業者の方が多いように思います。残業代で給料を増やすよりも自由な時間がほしいという考えなのです。
こうしてロシアの働き方は日本とは色々な違いがあります。3年でロシアの状況にすっかり慣れてしまったタチアナ。日本の会社では今でも終業ベルに誰も反応しないのだろうか?日本で働いていたときのことがたまにうそのように見えます……。
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*本記事はブログ「ロシア駐在日記」の2012年8月27日付記事を、許可を得て転載したものです。