中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年08月28日
Giant Blue Slime / Seiya235
■日本社会の幻想
2012年の反日デモについてチャイナ・ウォッチャーの皆々様方の意見を待っていたのだが、いまいち集まりが悪い。いまいち燃える要素がないのか、私のアンテナが届いていないのか、わからないが、とりあえず現状でのまとめをば。
今回、個人的に設定した軸は2つ。すなわち「反日デモは官制か否か」「中国人民は反日、あるいは尖閣問題に燃えているか否か」、だ。
大胆に分類するならば、NEWS-POSTSEVEN掲載の富坂聰記事は「官制デモ:×、盛り上がり×」という立場。ニューズウィーク電子版のふるまいよしこ記事は「官制デモ:×、盛り上がり:○」、日経ビジネスオンライン掲載の福島香織記事は「官制デモ:×、盛り上がり:○」と評価している。
いずれの記事も「官制デモ」という言葉を使っていないので、この分類はやりすぎではないかと言われれば素直に責めを負いたい。しかしながら、2005年の反日デモで鳩バスのツアーのごとき、送迎つきアリバイ的シュプレヒコールのみのデモがあって以来、日本に向けられた牙は中国共産党によるやらせなのか、それとも中国人民の心の底からわき上がった感情なのか、という二分法は、日本における関心事になっていたように記憶する。あたかも中国の「日本の挑発行為は一部右翼分子によるもの」という見方と呼応しているようだ。
上記3者の記事はいずれも「中国人民は心から日本を憎んではいないのではないか」という日本社会の幻想を踏み砕こうという意思で一致しているかのように思われる。中国でも「一部右翼分子とか日本はますます右傾化しているという理解がいかがなものか」という分析が登場している。扇動されているだけで理を説けば、相手の民草は納得するであろう、という幻想を日中両国が廃する時が来ていると言えるのかもしれない。
■お上とデモの関わり方の4類型
その一方で、「官制デモ」という言い方はともかくとして、中国におけるお上とデモの関わりは「官制や否や」の二分法でとらえきれるものではないと思われる。その意味において、いずれかの極を強調するのも誤りとなろう。
お上とデモの関わり方はについては、「お上がけしかけた官制デモ」「お上がデモを黙認」「デモを封じ込めようとしたができなかったので、適当な形で終わるように誘導」「お上の封鎖を打ち破り、民草が愛国の熱意を発露」と4類型ぐらいに分類できようか。
官制デモと言い切るのは難しいのと同様、民草が完全に自発的にデモをしたという見方も難しい。究極的には中国共産党はあらゆるデモを封殺する軍事力を有している。その力を発動しなかったという点においても、真実は中庸の黙認か、ガス抜きの間にありそうだ。
■うにょうにょ感を楽しもう
中国畑の視点から言うと、「政権交代がある中国共産党第18回全国代表大会(十八大)の前に、混乱が起きるようなデモは中共にとっても好ましくない、はず」という決まり文句が果たして妥当性があるのか、考えるべきではないかとも思ったりするのだが、それ以前にデモという民衆運動が生き物であることを認識するべきだろう。
今回の反日デモにしても、北京のように数十人が集まってしゃんしゃんと終わったものもあれば、日本車ひっくり返しゲームと化した深圳のようなものもある。さらに言うなれば、深圳のデモで写真に撮られたぴかぴかの反日横断幕を手に得意げに行進する人々と車をひっくり返した人々が同一人物であるかどうかもわからない。車の破壊や日本料理店の破壊現場当時の写真がほぼないことも、デモの中心と暴力行為の現場とにずれがあったことを示唆しているようにも思える。
そも中国に限らず、民衆運動やら革命という奴は最初の起点とは想像もつかない「斜め上」に帰着するもの。そうでなければまさしく官制デモ的な面白みのない予定調和の世界に終わってしまう。眺めていた野次馬がいつしか中核になってしまう、発起人が「こんなはずじゃなかったのに」とやけ酒をあおる展開こそが正しいあり方なのだ。
大局的に「2012年の反日デモとは何だったのか?」ととらえる視点ももちろん重要だろう。しかし何か一つ断定した途端に、変化を続ける生き物の別の側面を見落とすということにもなりかねない。
「官制や否や」という問いに過剰な幻想を覆い被せる発想はもう終わるべきだろう。しかしそれが二項対立のもう一方を答えとして選択する行為ならば、結果はあまり変わらない。「反日デモとは**である」という明快な答えを必要とせず、生き物としてのうにょうにょ感を楽しむ考えが求められているのではないか。
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