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2012年08月31日
日本海 / MShades
■愛国と害国
「害国」という言葉をはじめて使ったのは中国青年報だ(関連記事:【反日デモ】愛国(Aiguo)じゃねぇ、害国(Haiguo)だ!中国青年報がステキ・リリックで暴徒化デモを批判)。しかしこの記事では「愛国の心は完全に正しいが、暴力行為はあかん。「一部」暴徒は害国という論であった。
しかし「保釣害国論」は尖閣に上陸しようとする活動家はすべて害国者であり、さらには賢明な愛国中国人ならば尖閣問題は棚上げにして、日本との安定的関係をてこにして経済成長に励むべしという内容。つまり、「ごく一部の暴徒」ではなく、大多数の中国人を害国者として批判する内容だ。炎上もむべなるかな。「経済的利益よりも主権のほうが大事!」云々といった反論が噴出している。
先日、記事「中国は日本に謝罪したのか?食い違う日中メディア、人民日報に記事改変疑惑(水彩画)」で、唐家璇・中日友好協会会長による「大使公用車襲撃犯は害国」という発言が人民日報から削除された。これも「保釣害国論」の盛り上がりが一因となっているようにも推測される。
以下、「保釣害国論」の発端となったコラムを紹介したい。初出は日本華字紙・日中新聞。人民日報海外版を名乗っており、著者の韓暁清氏にも、人民日報社日本支社社長という肩書きがついている。なお環球網に転載され注目を集めたが、現在では転載記事は削除されている。
■韓暁清:保釣人士の上陸は愛国か、害国か?
韓暁清:保釣人士の上陸は愛国か、害国か?
作者:韓暁清(人民日報社日本支社社長)
「日中新聞」8月24日付掲載の記事「真剣に日中関係を再考しよう=香港保釣者の行動を冷静に判断しよう」を日中新聞社の推薦により転載したもの。
◆尖閣問題と中国の国家利益
8月15日午後、14人の香港「保衛釣魚島」活動家を乗せた漁船が香港から釣魚島海域に到着した日本海上保安庁巡視船の包囲を突破し、5人が中国国旗、香港旗、台湾旗をかかげて釣魚島に上陸。待ち構えていた30人以上の日本海上保安庁、入国管理局職員に逮捕された。その後、日本海上保安庁の巡視船に沖縄県那覇市の入国管理局に送られ、2日後強制送還された。この香港保釣人士は8月18日夜に香港に到着し、空港で一部香港市民に歓迎された。
この香港保釣人士の釣魚島上陸は緩和へと向かっていた日中関係をまたも激しい対立へと導いた。その後に起きた中国本土各地のデモと憤青たちの激しいスローガンは日中国交正常化40周年の記念ムードを一気に吹き飛ばした。
在日華人、とりわけ中国の発展、中華民族の運命、日中関係の発展に注目している者にとっては、最近の日中関係の動向と未来に強く不安を関している。日中はいかに付き合うべきか?誰が日中関係の未来を決定し、あるいは先行きに影響を与えるのか?釣魚島問題をどのように認識し、解決するのか?現在、中国にとってもっとも切迫した国家戦略目標とはなにか?
現段階の日中関係に関する問題について、私は以下いくつかの観点を伝え、読者の参考、議論の材料としたい。
◆日中友好は中国にとって必要
第一に日中関係の安定は中国にとってきわめて重要だということだ。過去30年間の中国の近代化、経済成長は日本の経済援助、ODAと強い関係がある。中国の近代化におけるインフラ建設、北京空港、上海浦東空港、主要鉄道路線、港湾建設・整備、大型火力発電所、重要な製鉄プロジェクトなどはすべて日本の長期低利子援助、ODAの支援で建設された。胡錦濤国家主席は日本を訪問した際、「日本のODAがなければ現在の中国の近代化はなかった」と日本の友人に話している。
中国は30年前に比べて発展した。経済的な実力も身につけた。しかし中国は世界の強国ではない。中国の一人当たり収入、実力はまだまだ低い。中国はまだ世界の途上国なのだ。あと50年、100年の年月を費やしてようやく各種主要指標で先進国に追いつける。このことをよく知っておく必要がある。
ならば中国にとってもっとも切迫した国家戦略目標とはなんだろうか?釣魚島を奪回することだろうか?いや、明らかに違う。それは経済を発展させ、経済的実力を身につけること。厳しい国際情勢、そしてさまざまな課題に対応する実力を身につけることだ。
政治的な日中関係の不安定は必然的に日中の経済関係、経済交流に影響する。
ここ数年、経済低迷と円高ショックにより、多くの日本企業は海外移転を進めている。しかし相当数の日本企業は中国を選択していない。ベトナム、タイ、インドネシアを選択しているのだ。取材の際、なぜ中国に移転しないのかと幾人もの日本企業高官に聞いた。答えは政治的な日中関係の不安定さというものだった。日中関係の未来を信頼できないというのだ。
中国経済の急成長と中国が世界第二の経済体となった背景を考えれば、相当部分において外資企業の貢献があったと私は考えている。日本企業をベトナムのような悪辣非道な国家へと移転させること、その結果が中国に何をもたらすのか、知っておく必要がある。
◆日本人が「尖閣は日本の領土」と言うのは当たり前
第二に釣魚島問題について。釣魚島は古来より中国の領土であり、中国政府はさまざまな局面で中国の立場を伝えて生きた。二次大戦後、米国は勝手に中国の領土である釣魚島の行政管理権を日本に渡した。これは違法であり、無効である。私もそう考えている。
それと同時に釣魚島問題は複雑で敏感な問題である。過去数世代にわたって続けられてきた領土紛争であり、歴史問題なのだ。いくつかのスローガンを叫べば解決するような話ではない。清朝は釣魚島問題を解決できなかった。蒋介石、毛沢東、周恩来、鄧小平らの政治的偉人ものだ。ならば私たちの世代の中国人はやはり鄧小平の意見、「私たちの世代はこの問題を解決するのに十分な賢明さはない。まずは棚上げにしよう。次世代、あるいはその次の世代に解決してもらう。彼らは私たちよりも賢明だろう」という意見に従うべきではないか。
今年は日中国交正常化40周年である。1972年、毛沢東主席、周恩来首相は国交正常化を決めたが、その時とて釣魚島問題を忘れたわけではない。ただお2人は中国の国と民族の運命という大局から考えて、日中国交正常化こそがもっとも重要だとして、決断されたのだ。毛主席と周首相の決断が正しかったことは歴史が証明している。もし当時、日中国交正常化がなければ、日本のODAもなく、現在の中国の近代化もなかった。
鄧小平が日中友好条約を結ぶ際、政治的偉人の度量を持って打ち出した「釣魚島の争いは棚上げにして、次世代、あるいはその次の世代に解決させよう」という方針は賢明だった。
釣魚島は本来、領有権問題のある無人島に過ぎない。たんなる両論のある話題に過ぎない。しかし、香港、台湾、中国本土の、いわゆる保釣人士は次々と上陸し、逮捕されていく。そして日本入国管理局により、日本の入管法の規定により強制送還などの措置を受けている。これによって世界各区の各種メディアは全世界に向けて中国にとってきわめて不利な情報を送っているのだ。すなわち日本は釣魚島を有効にコントロールしており、行政管理権、司法管理権を行使している、と。
ほぼすべての中国人は本能と生まれつき抱く民族意識によって、釣魚島は中国の領土であるとの立場にたっている。それは日本で暮らしている中国人であれ、あるいは世界のどこに住んでいる中国人であれ、中国の政治体制にどのような態度を持っているものであれ、富豪であれ、貧乏人であれ、変わらない。
同様にほぼすべての日本人、政治家、資産家、労働者、一般市民たちは政府を支持していようが批判していようが、彼らの本能と生まれつきの民族意識に従い、迷うことなく尖閣島(中国の釣魚島)は日本の領土であると考えている。
これは日中両民族の認識上の差異であり、2つの民族、2つの国家における領土紛争問題である。釣魚島問題はとは右翼と左翼で分けて考えられるような、それによって解決できるような問題ではないのだ。日本共産党やその他日本の左翼分子・団体も釣魚島が中国の領土であるとの立場をとったことはない。この事実をもってして、日本国民はすべて右翼であり、日本人民はすべて反中だとでも言うつもりなのだろうか?
ならば、今、釣魚島問題を解決するべきタイミングではないならば、繰り返し釣魚島に上陸し、日中両国民の神経を逆なでにし、その忍耐の限界を試すようなことはするべきではない。
◆今の中国に必要なこと
第三に中国にとって現在、最大の国家利益とはなんであろうか?
思うに、過去100年間得られなかった発展のチャンスを生かし、経済力を急ピッチで高め、本当の意味で世界の最強国家の仲間入りを果たすことであろう。中国にとって、現在のような比較的平和な戦略的発展のチャンスは本当に得がたいもの、過去100年間なかったことなのだ。このチャンスはもし重大問題での処理を間違えば、あっという間に消え去ってしまうものでもる。
21世紀に入り、各国が事由、民主、人権、文明などの普遍的価値を吹聴する時代になったとはえ、結局のところゲームの法則は弱肉強食なのだ。世界に覇を唱える米国は、殴りたければ殴り、滅ぼしたければ滅ぼすと欲しいままに振る舞っている。これが残酷な現実だ。いわゆる国際法とは弱者のために作られたものであるが、しかし今の世界はまだ実力が物を言う世界なのだ。
現在、中国の隣国、インド、ロシア、さらにはベトナムや韓国までもがこのチャンスをつかむべく必死に経済成長に取り組み、中国よりも優位に立とうと試みている。中国に残された時間はそう多くはない。ゆえにもし現段階で日本との関係を徹底的に破壊してまでも、釣魚島問題を解決しようとするならば、それは中国の戦略的発展のチャンスを失わせ、中華民族の子々孫々まで後悔する愚かなおこないとなろう。
現在、中国周辺の国際的生存環境はきわめて厳しいもの。中国には安定的、平穏、友好的な日中関係が必要だ。過去30年、日本は中国にとってもっとも重要な経済的協力パートナーであり、中国の近代的発展のための資金源、技術源であり、中国商品にとっての最大の市場で会った。今後も日本の対中投資、技術移転、技術導入、日本市場は中国にとってきわめて重要だ。本当の愛国的中国人・華人はこのことをはっきりと理解しなければならなに。
なにが中国の生死を決める重大問題なのか。それは日中の友好関係の維持に努め、中国経済の発展を全力で加速させること。中国を本当の世界一流の強国とすることだ。
以上の理由から、香港、台湾、中国本土の、いわゆる保釣人士による釣魚島上陸行為は、どのような動機があるにせよ、愛国行為ではなく、害国行為である。そう、私は考えている。
■簡単に解説
正論、正論、アンド正論、というのが正直な印象。その正論が炎上するのだから皮肉なものだ。
「一衣帯水の日中関係なんだからともかく仲良く」といったおためごかしの話ではなく、「領土問題とかうぜぇ。ともかく経済発展。日本の金と技術を借りて経済発展しまくろうぜ。後は二の次、三の次」という、ねじまがった国家主義全開だ。しかも「米国は覇権主義」の一節を深読みすると、「中国も経済的実力を身につけて覇権国家になったら、殴りたいやつを殴れるようになるんだから今はガマン」とも解釈できる。
これほど国家主義全開でありながらも、同じく国家主義の人々から叩かれ炎上するというすばらしいコラムだ。「悪辣非道なベトナム」とからさらっと入れているあたりもポイントが高い。
このコラムに賛同する中国人、とりわけ政治家、企業家は少なくないと想像するが、公の場では発言できない。やはり「中国人民の愛国心は正しい。ただし……」「デモ参加者の民族心発露はすばらしい。ただし一部の暴徒は……」という言い方が炎上を避ける智慧。ましてや中華民族の英雄と化した香港活動家を「害国」呼ばわりするのは危険すぎる。
環球時報のチェックが甘くて、この超炎上ネタを転載してしまったとも言えるが、ちょっと考えさせられるのは例えば日本でこのようなコラムが掲載されたとしたら、どのような反応がでるかという点だ。「尖閣は日本のものに決まっているが、経済力がなければ失うのは必至。今はガマン。中国と商売をしまくって日本の経済力をアップするのが先決」とかいう話が新聞社説に掲載されたらやはり炎上するのだろうか?
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