中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2012年09月05日
■ネット掲示板に投稿するとすぐに警察が……
2009年、彭さんは中国大手ネット掲示板・天涯社区にある風刺漫画を転載した。
刃物を持って走るマフィア。それを守る傘となっているのが警察という内容だ。警察や官僚がマフィアの後ろ盾(中国語で保護傘)になっているという意味だ。ネットで画像を拾った彭さんは、「この傘はおかしいよ」というタイトルをつけて掲示板に投稿した。本文は画像のみ。
たわいもない風刺に思えるが、時期と場所が悪かったのだろう。彭さんは重慶市在住。そのトップである薄熙来・市委書記は「打黒」(マフィア・汚職官僚摘発キャンペーン)を推進していた。「打黒」をけなす内容の漫画には思えないが、誰かが許せんと判断したようだ。ちなみに重慶では「薄熙来はうんこ」というどうしようもない内容をつぶやいたおじさんが捕まったという話もある(関連記事)。
彭さんが語る警察からのファーストコンタクトがなんとも恐ろしい。
書き込んだ後しばらくしてのこと。「パソコン画面の右下から小さなウインドウがポップアップしてきて、市警察に出頭し説明せよとのメッセージが表示されたんです」と彭さんは話す。おそらく警察が即効で個人情報を特定してチャットソフトかなにかでメッセージを送ったのだろうが、これぞ監視社会とでもいうべきなんとも恐ろしいエピソード。
警告を無視した彭さんだが、3週間後に警察が自宅にやってきてとらえられ、労働教育を科された。
■労働教育制度撤廃を求める声
さて、今、彭さんの問題がとりあげられた背景について簡単に解説。
最近、中国では労働教育制度の撤廃を求める声が高まっている。中国には裁判所を通さなくても処罰できる不思議な法律がある。大使公用車襲撃犯に科された行政拘留もその一つ。そして労働教育もまた裁判にかけることなく、人間を収容所に送り込めるというひどい制度だ。
しかもその期間は長い。懲役刑と同様の重みを持つ処罰が、裁判という弁護の機会を与えられることなく下されるという人権侵害が問題になっている。地方政府がやっかいな人間に処罰を下す時に使う便利な手段になっているという側面もある。
特に注目を集めているのが唐慧事件(共同・MSN産経)。唐さんの11歳の娘は2006年に強姦され、その後3カ月にわたり売春を強要された。加害者は罰せられたが、唐さんは「量刑が軽すぎる、買春客にも処罰を、当初捜査を拒否した警察官に処罰を」と訴え陳情を繰り返したところ、社会秩序を乱したという容疑で1年半の労働教育が命じられた。ネットでこの話が広まり、唐さんへの支持が集まったため、当局は処分を撤回している。
関連記事:
たった5文字のツイートで労働矯正所送りに=女性活動家が出所―中国
シモネタツイートで共産党高官を風刺=それだけで1年間の労働教育処分に―中国重慶市
【中国コラム】無理・無茶・無謀のノーベル賞批判が炸裂=共産党内部の不協和音も露呈
「中国人は政府を信頼していない」のウソ=中国共産党の変化と未来(岡本)
香港のパロディ・二次創作が壊滅する?!著作権法改定案にネット民が抗議運動