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2012年09月08日
bangkok bank / veritatem
■タイ中央銀行のプラサーン総裁
タイの現中央銀行総裁プラサーン氏は硬骨漢であり、その見解はしっかりしている。2010年10月に就任。任期5年。現在60歳。
ハーバード大学で経営学博士号をとった彼は、この8月に発表された「グローバル・ファイナンス」誌の世界50カ国中央銀行総裁ランキングでも、「B+」の評価を受けた。この評価はインフレの抑止や政治からの独立性などを基準にA~Dで評価するものだが、米連銀のバーナンキ総裁(B)や、欧州中央銀行のマリオ・ドラギ(B-)、日銀の白川総裁(C-)より上に位置されている。
その彼が、インラック政権からの金利引き下げ圧力と今闘っている。
■タイ政府の金利引き下げ圧力
政府は、この6月にタイ中央銀行の取締役会会長に、タクシン元首相の顧問ビラボンサ氏を送り込んだ。同氏はIMFのラガルド常務理事の賛同を取ったと主張しつつ、インフレ目標値などは不要であり、金利引き下げを断行するべきと公言している。なお後にIMFはビラボンサ氏の発言を否定している。
会長には金融政策委員会での投票権はないとはいえ、政府が中央銀行に強力な圧力をかけていることは間違いない。またともかく成長歓迎のキティラット財務相兼副首相も、為替レートを下げ、さらなる金利引き下げをするべきと要求している。
■タイのインフレ圧力はまだ収まっていない
タイ経済にインフレ対策は必要ないのだろうか、政府の言うとおり金利引き下げをしても大丈夫なのだろうか。たしかに世界的な景気後退により一時のインフレ傾向は緩まってきている。8月のタイの消費者物価指数は前年比2.7%と落ち着いている。しかし国内の信用供与の拡大ペースは高い。
9月を過ぎると、洪水で物価が下がった前年同期との比較になること、来年にかけて最低賃金の引き上げの影響が徐々に出てくることなどを考えれば、タイ中銀にとってインフレ抑制の手綱は緩められないだろう。ちなみに、生活感から来るインフレ率は二桁に近い。
■中央銀行の独立性を守れるか
プラサーン総裁がここに来て最も気にしているのは、中央銀行の独立性、信用性だ。政府の言うなりになっているという印象を受ければ、中銀の金融政策そのものが信用されなくなると危惧している。
9月5日(水)に注目のタイ中央銀行金融政策委員会が開かれた。1月に3.0%に下げて8ヶ月間続いてきた政策金利(翌日物債券レポ・レート)3.0%を据え置いた。なお委員会のメンバーは7人だが、5日の出席メンバーは5人と少なく、3人が据え置き、2人が引き下げの意見だった。
現在のインフレ状況、財政の積極的支出傾向から見れば妥当なところだろう。プラサーン総裁には、この緩やかな成長の中でのインフレをぜひ抑えて欲しいものだ。
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*本記事はブログ「チェンマイUpdate」の2012年9月7日付記事を、許可を得て転載したものです。