• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

外注・バイト・派遣で十分、「絶対に正社員を雇ってはならない」=ある中国企業経営者の嘆き

2012年09月09日

中国ネット掲示板の書き込み「現在の世の中では絶対に人を雇ってはいけない」が注目を集めている。ネット掲示板での必死の叫びというと、農民や犯罪被害者、陳情者など「弱者」の訴えが多いが、これは珍しいことに会社経営者の声だ。


Seagate Wuxi China Factory Tour
Seagate Wuxi China Factory Tour / Robert Scoble

■背景の説明

8日、日本では「イトーヨーカ堂:正社員半減…15年度めど、パート9割に」というニュースが流れ、そこそこ注目を集めている。解雇が難しく労働市場が硬直的な日本では正社員を抱えることはリスク、ますます非正規雇用に依存するように……というのは耳慣れた解説だろう。

ちょっと面白いのは中国でも同様の流れが起きつつあるという(経済観察報)。そのきっかけとなったのは2008年1月1日に施行された労働契約法だ。同法は企業と労働者の契約について基準を定めたもので、一定年数以上就労した場合の長期雇用の保障、解雇時の保証、短期契約を無制限に更新することの禁止などを盛り込んでいる。

この労働契約法を守っていない企業などごまんとあるのだが、しかしいざ紛争となった時に労働者側の論拠、武器になっているのは間違いない。労働者の地位が守られるならばいいことのようにも思えるが、正規社員雇用の忌避が広がり、結果的に雇用をしぼませるようなことになれば、むしろ一般の労働者にとっては不利益となる。

以下に紹介する書き込みはまさにこの問題をとりあげたもの。労働契約法と雇用という中国社会にとってきわめて重要な問題についての文章ととらえてもいいし、あるいは現在の景気低迷で頭がおかしくなった経営者の愚痴として読んでもぐっとくるものがあるかもしれない。


■現在の世の中では絶対に人を雇ってはいけない

◆洪水のような不景気

私は40代。大学教師出身。民間に転身してから20年、ソフトウェア開発企業の経営者をやっている。まあ、ハイテク企業と言えるだろう。従業員は最盛期120人を数えたが、去年は80人、現在は50人にまで減ってる。

景気が悪い。このことはみなさんもご存知のはずだ。ただ一般の方にはなかなか想像できないだろう。経済危機は洪水のように恐ろしいもの。気づく前に地面に押し倒されてしまう。何も分からないうちに並に飲み込まれ、ただただ「助けてくれ」と唱えることしかできないのだ。

本当のことをいうと、もしどうにかできるのであれば、自分が作り上げたチームを解散させようとする経営者はいないだろう。全身の力を振り絞り、すべての貯蓄を注ぎ込み、方々の力を借りて、会社を支える。これが本能的な反応だ。そのために私は所有する不動産を2件売却した。

しかし私の努力は期待した成果をあげられなかった。会社の資金繰りは悪化し、従業員は次々と離れていく。中心的な社員が離職するたび、私の心は痛んだ。彼らは長年かけて私が教え込んだのだ。一人一人に多額の投資をしている。中国の教育レベルでは新卒生がなにか価値を創造できるとでも?半年以上は研修してやらないと、会社のドアさえ見つけられないだろう。2年以上の専門的研修をしなければ、独自にプロジェクトモジュールの開発をすることなんてできやしない。だが、仕方がない。私には彼らをとめることはできない。できるのは心の中で祝福するだけ。ひょっとしたら君はもっと良い会社を見つけられるかもしれない、と。


◆事務系女子の反乱

さて、この文章を書こうと思った要因は技術スタッフの離職ではない。実は事務系スタッフの離職が原因なのだ。普段はおとなしそうな彼女たちが、会社が危機に陥った時、打って変わって牙をむいた。その姿に私は腰を抜かしたほどだ。

実は会社には明確なリストラ計画はなかった。ただ業務の縮小に伴い、仕事も当然減ってくる。そこで一部の部局を合併することを考えた。仕事がない社員に忙しい社員を手伝わせる狙いだ。例えば現在は新規採用をしていないので人事部には仕事がないが、社長秘書室は忙しい。人事部のスタッフに手伝ってもらいたい。出納関連の仕事も少ない。管理部の車両使用東経を手伝ってもらっても悪くはないだろう。これが間違いだった。このプランを従業員に伝えたところ、複数の従業員は理屈をこねて反論してきた。曰く、労働契約に記されている職位は**であり、別の仕事をさせるのは契約違反である。訴える、と。

労働契約法と言われると困ってしまう。あれはあらゆる管理職を悩ませている法律だ。もしくは中国企業の労使関係を未曾有の緊張状態に追い込んだ法律といってもいい。ただ私は悩んだ。この法律が会社の部局の合併を阻止することができるというならば、じゃあ企業はどうやって管理すればいいんだ、と。例えば私は露店の店主だったとしよう。従業員もトイレに行かなくてはならないだろう。売り子がトイレに行く間、会計担当に店を見ておいてもらわないといけない。もし会計担当が労働契約法を盾に拒否したならば、どうすればいいのだ?

彼女たちのうち、何人かは会社のやり方に不服だとして、解雇するよう求めてきた。その代わり賠償金を払え、と!N+1だ!(労働契約法の規定。労働者を回顧する場合は「就労年数(N)+1」カ月分の月給を支払う必要がある)ある従業員など管理職を追いかけ回して、「いつ解雇するんだ?早く通知してくれ」とまで言ってきた。

会社の資金繰りは悪化している。解雇を求めている従業員はいずれも数年間働いており、月給も低くない。N+1を支払えば少なくとも1万元以上、多ければ2~3万元を支払わなければならない。彼ら全員を解雇するのには10万元近い金が必要となる。今は出せない金額だ。賠償をよこせと焦ってつめよってくる従業員の表情を見ると、長年の間、ともに働いてきた日々が思い出された。彼らが心を失ったとは思わない。ただ「人の心は計り知れない!なんたる世の中か」と嘆くばかりだ。


◆賠償金@労働契約法と人情

会社の業績が良かった時、私は従業員に悪い思いはさせなかった。とりわけ近年の物価上昇の際、大幅に給与を引き上げた。2008年と比べれば最低でも50%はあげている。それにさまざまな福利厚生を導入した。通勤ラッシュに苦しまなくて済むよう送迎バスを用意し、1日3食無料で食べられる食堂も作った。従業員宿舎、社員旅行、研修、健康診断も導入した。民間企業ではあるが、従業員が会社の一員であることに誇りを持てるようにしたいと思っていた。私は大学教師出身、儒商(高学歴の経営者)だ。けちくさい田舎の金持ちとは違うと自負していたのだ。

だから今回の一件で受けた打撃は大きかった。みんなとは何年も一緒にやってきたのに、なぜこれほど無情になれるのか。会社の資金繰りに困り、給料を何日か遅配したとはいえ、必ずしも倒産するわけではない。彼らはなぜこんなに慌てて逃げようとするのか。それは賠償金が欲しいからだ。遅れれば賠償金がもらえないと恐れているのだ。確かに彼らにとっては大金だ。その金のために彼らは情もなにもかも捨てた。その金のために明日がどうなろうと気にしていないのだ。


◆労資を徹底的な対立に追い込んだ労働契約

労働契約法施行後、企業を取り巻く環境は日増しに困難になっている。この法律は従業員の利益を守ることが骨子だが、実際には従業員の根本的な利益を損なっている。お聞きしたいのだが、従業員の希望と将来はどこにあるのだろうか?まさか全員が独立するとは言いますまい。大多数の従業員の利益は企業によって実現される。その意味では企業と従業員の利益は一致している。従業員は企業から離れられないし、企業はそれ以上に従業員から離れることはできない。だが労働契約法は労資を徹底的に対立させた。今、私の従業員たちがこのようなふるまいに出たのは、すべて労働契約法のなすものだ。

従業員の待遇を高めるという労働契約法の志は間違ってはない。ただ(立案の)参照にすべきものを間違ったのだ。立法者は民間企業はすべて山西省の闇炭鉱・闇レンガ工場と同じだと考え、経営者は憎むべきボスだと考えている。すべての従業員に告訴しろと奨励し、訴えさえすれば勝てるとエールを送っているのだ。この立法者の変態的心理は長く続く社会対立を生み出した。そして企業、このもっとも基礎的な社会経済細胞に内部分裂を引きおこしたのだ。こんな社会がどうして安定することがあろうか。どれだけ多くの警官を投入しても無駄だ。立法者の無責任な行為に全社会が代償を支払わなければならないのだろうか?それは時間が教えてくれるだろう。


◆絶対に人を雇うな

私は彼らの解雇を認め、賠償金を支払った。何も彼らの訴えに対処する方法がなかったわけではない。警告、処分、降格もできただろうし、賠償金を値切ることもできただろう。だが私はこれ以上社内の空気を悪くしたくなかった。

解雇された者たちは金を手にして何ヶ月かは浮かれて過ごすだろう。だがその後はどうする?彼女たちは私たちのような会社を新たに見つける自信があるのだろうか?それともあの金で一生楽しく暮らせるとでも?彼女たちの行く末がどうなるかはわからないが、私は賠償金という代価で貴重な経験を得た。それこそが今日お話したいこと。やむにやまれぬ事情がないのあれば、今後絶対に人を雇うなということだ。

人、あるいは従業員。これは企業にとってもっとも貴重な財産だ。だが今の中国では一部従業員は企業にとって最大のリスクとなっている。中華民族の勤労善良の美徳はすでに失われた。変わってやってきたのは不労所得にありつきたいという期待だ。この社会に本当に「棚からぼた餅」があるとでもいうのか。


◆社会的責任なんか知ったことか

今後、私は従業員の縮小に努める。3人分の仕事を2人でやるようにするのだ。そのかわり3人分の給与をその2人に与える。彼らの努力に見合うリターンは保証する。ただ申し訳ないが、もう人は雇わない。もちろん人がいなければ仕事はできない。だが簡単だ。外注、バイト、派遣、インターンで埋め合わせればいい。正社員はもう絶対に雇わない。なにかというと、従業員たちが私を訴えると脅してくるのはもうたくさんだ。実際に訴えれば私の負けだろう。労働契約法があるのだから。それは従業員を守る法律だと言われている。なぜ企業を守る法律はないのだろうか。企業は守る必要がない、企業は強いのだから。従業員こそ守らなければ。そう言う人もいる。だがハイテク企業では従業員こそ本当の強者だ。

私は今の経営危機克服に全力を尽くす。自身もある。私たちのサービスは政府や社会に必要とされているものなのだから。たとえ私たちがいつも中央企業(大型国有企業)の影に隠れ、最少の利益をもらうだけで、ほぼすべての仕事をこなしているとしても、だ。人員削減をがんばりさえすれば、面倒ごとが減るだけではなくて利益も増える。いい日々が戻ってくるはずだ。

社会の雇用?そんなことはもう関係ない。以前は「私は少なくともこの社会に100人分の雇用を生み出している」などと甘ったれたことを思っていたこともあった。自分が社会に貢献していると思っていた。本当にバカだった。本気で社会問題を気にしている人なんかいやしない。気にしているのは自分の利益だけだ。社会的責任を投げ捨てて、私は大ナタを振るう。10人、20人、あるいは30人のクビ。これが今年のリストラ目標だ。クビにした従業員には労働契約法に応じた賠償金を支払う。彼らは会社に貢献してくれたのだから、申し訳ないことはできない。自ら解雇を求めてきた、あの事務職のやつらにも賠償金を支払ったのだ。本当に貢献してきてくれた人に金を支払わないなんてできやしない。この点は保証する。会社に残った社員は賠償金はもらえないが、でも安心して欲しい。給与を大幅に引き上げるつもりだ。同業種の1.5倍以上の給与にする。

関連記事:
途上国の低賃金は続かない=多国籍企業を悩ませるネット時代のストライキ―インドネシア(ucci-h)
泣きたくなる給与明細!史上最低の給与・月給6.5円でネット騒然―中国
ネット世論誘導員1万人を投入へ=広東省の「4つの1万」プロジェクト―中国
中国アップル関連工場で137人に健康被害=外資バッシングに拡大する可能性も―翻訳者のつぶやき
赤字続く韓国LGディスプレイ=ボーナス削減に不満、中国人労働者8000人がスト
日系企業など対象の7万人ストライキ=34%の賃上げで妥結していた―遼寧省大連市


トップページへ

コメント欄を開く

ページのトップへ